第16話
俺とオークマジシャンが一騎討ちを始めてからそれなりに時間が経った気がする。俺はこいつに少しずつダメージを蓄積させ、いつのまにか奴の体力は半分を切っていた。
「ブオォォォォォ!!」
オークマジシャンが一際大きく叫び、杖を野球のバットをフルスイングするように振るう。それを下がって避けようとした瞬間、ゾッと嫌な予感がした。
(ショウ!私に代われ!)
クレアの言葉と感じた感覚に従い、俺は身体の操作を手放す。次の瞬間には
「ぐっ……!?」
という声と共に、視界が真横に吹き飛ばされた。壁際まで吹き飛ばされたクレアはなんとか姿勢を立て直して立ち上がる。とっさに左腕で防御したようで、ジンジンと熱を持って痛むが、どうやらなんとか動くようだ。
(クレア!?大丈夫か!?)
(ああ、なんとか大丈夫だ)
彼女の声は多少痛そうだが、なんとか問題ないという感じだ。
(今の攻撃、なんだったんだ?)
(オークマジシャンが武技まで使うとは思ってなかった。私のミスだ)
(武技?)
意識で会話しつつも、クレアがオークマジシャンを牽制しつつ、距離を取る。彼女には敵の攻撃が理解できているようだ。
(簡単に言えばある一定の練度まで修練を重ねた者が覚える技だ。どうもこのオークマジシャンは魔法も武技も扱えるようだ)
のちに聞いた話によると、武技というのは一定以上武を磨いた者が自然と覚え、魔力を利用して発動する奥義だそうだ。魔法とは違い属性を持たない事がほとんどで詠唱などは必要ないが、集中と発声が必要らしい。そして武技はある日、ふと使えるようになると教えられた。
つまり、このオークマジシャンは魔法だけでなく、武も磨いた努力家のオークだったようだ。
(やつの武技はおそらくとてもシンプルな技だ。攻撃の加速、ただそれだけのはずだ)
(それで?もし今のをずっと使われたら、あの武器の間合いには入れないぞ?)
杖の全長は1m以上はあるだろう。こちらの剣よりもリーチが長く、そして速い攻撃が来るとなると、下手に近寄ることが出来ない事になる。
(そこは私に考えがある。教えていなかった私の武技。それを使えば攻略できるはずだ。ここは私に任せてくれ)
自信に満ちたクレアの言葉。ここは彼女の技量と武技に任せるべきだろう。たしかに自己強化の能力は俺程には受けられないが、戦闘においてのノウハウは彼女の方が確実に多いからだ。
クレアが弧を描くように走る。オークの杖の間合いを見切っているのか、付かず離れずの距離感を保ったままオークの周りを回る。オークが一歩踏み込み、必殺の武技を振るう。その瞬間、クレアが小さく口を開いた。
「瞬身」
次の瞬間、クレアはオークマジシャンの背後にいた。いや、一瞬でこの位置まで走り込んだのだ。瞬身というクレアの武技は、一定の範囲で超高速移動する技だった。制限がいくつかあるが、瞬間的に移動できるという強みがこの武技と言える。
オークが無様に杖を空振りした時、クレアはオークの首筋に向かって飛んだ。
「貰った!」
叫びと共に、無防備なオークの首筋に剣を突き込む。
「ブモオオオオオオオオ!!!!」
苦痛にオークが叫ぶが、もう手遅れだろう。一瞬だけ発動した「魔力強化法」も上乗せされて突き込まれた剣は深々と首に突き立っている。叫び終わったオークがうつ伏せに倒れ、静寂が訪れる。
「やはりな。武技を使う時は魔力を武技に回す為、魔力による身体防御が出来なくなるんだ。つまり、あの瞬間のオークはDEFが0になったようなものだ」
静かにクレアが教えてくれた。武技にも弱点はいくつかあるらしい。静寂の中、クレアは俺に問う。
「初の依頼お疲れ様、だな。まだ初歩の動きしか教えていなかったがあれだけ動けるとは、君は筋が良さそうだ。私の仇討ちの為というのは少し心苦しいが、力を貸して欲しい」
俺は頷き、力強く宣言する。
(分かってるよ。俺はあんたの呼びかけがあったから今ここに居るんだ。俺は一緒に戦うぜ)
俺は心の中で拳を突き出す。それはクレアにも伝わったようで、
(ああ、ありがとう。これからも共に行こう)
と拳を突き合わせた。
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