第13話

 森は鬱蒼と生い茂り暗い。とはいえ、灯りが必要ではなく、探索に不都合は無かった。

 俺は剣を抜いたまま静かに森を歩く。森に入ってだいたい30分位になるが、まだゴブリンは見つからない。


 (本当にゴブリン居るのか?ゴブリンが増えてるから狩ってくれって依頼だったよな?)


 (ああ、だが居ない訳じゃなさそうだ)


 (ん?どうして分かる?)


 (フンがあるからな。兵士時代に見たことがある。おそらくそんなに遠くないはずだ)


 そう言われて地面を見る。小さな茶色い塊が所々にあり、それがフンらしい。なるほどと頷き、歩き出そうとした所でガサリと音が聞こえた。そちらに目を向けるが、茂みに遮られて姿は見えない。


 (今のは?)


 (たぶんそうだろう。魔法は覚えているか?)


 (問題ない。もうやった方がいいか?)


 (やっておこう、もし違ったら後で掛け直せば良いからな)


 クレアのアドバイスを受け、俺は左手に魔力を集める。そのまま小声で呪文を唱える。


 「我が魔力よ、我が求めに従い、自らを高める力となれ」


 魔法はしっかり発動したと思う。強化された聴覚が、なにかの唸り声の様なものを聞き取ったからだ。

 それはさっき音がした方向で、そこに何かが居ることを確信する。


 (突っ込むぞ。良いよな?)


 (ああ、いざとなれば私がフォローする。全力でやれ)


 俺は剣を構え茂みの先に飛び込んだ。茂みの先にいたのは6匹のゴブリン、裸に腰巻をしただけなので、緑色の肌が晒されている。先頭の1匹は穂先が石の槍を、残りは棍棒を持っていた。

 そのただ中に飛び込んだ俺は、手近にいたゴブリンを薙ぎ払う。刃筋を立てる事を意識して振るった一撃は、首筋に吸い込まれ骨を断ち、その首を刎ねる。

 断面から噴き出す赤い血には目もくれず、俺は他のゴブリンを見据える。そしてゴブリン達を『鑑定』すると、全てHPは200以下、それ以外のステータスも30以下だった。


 「グギャゴワァ!!」

 槍を持ったゴブリンが叫び、他のゴブリン達が突っ込んでくる。

 しかし遅い、遅すぎる。剣の間合いに入った1匹を袈裟斬りに斬り捨て、逆に踏み込む。のろのろと振り下ろされる棍棒を丁寧に躱し、目の前にある腕を斬り落とし、無防備な喉を突く。隣に居たゴブリンには剣を振り下ろし、脳天から縦に2分割した。


 (ショウ!右だ!)


 クレアの声に右を向くと、槍を持ったゴブリンがそれを突き込もうとするのが見えた。おそらく狙いは身長的に突きやすい位置にある腹部だろう。とっさに伏せる様に避け、目の前に来た足首を斬り落とす。足を失ったゴブリンが痛みに叫ぶが、その声も首を落として黙らせる。

 最後の1匹は棍棒を捨てて逃げようとしたが、


 「逃がすかよ!」


 一息に追い着き、胴を斬り払う事で、ここに居たゴブリンは全滅した。


 (ショウ、お疲れ様。簡単に終わらせたな)


 (思ったよりも楽勝だった。ゴブリンってこんなに弱いのか?)


 (まぁ1匹や2匹なら普通の農民でも倒せる相手だからな。でも普通、初陣の者は殺しに躊躇するのに、それも無かったな)


 クレアが言うには、魔物相手でも殺す事に躊躇して反撃される様な人間は結構居るらしい。しかし俺は躊躇なく殺したので少し感心したようだった。

 むしろ俺は今、血まみれのゴブリン達を見て、よく分からない小さな苛立ちに襲われていた。クレアも長く見ていたい光景では無いようで、

 (ショウ、ゴブリンから魔石を取るのは任せてくれ)と言った。

 魔石というのはほぼ例外なく生物にある石で、魔力がこもっているらしい。そこにある魔力を使って魔石製品を動かす動力源にしたりするそうだ。

 多くの場合、魔石は心臓にあるらしく、クレアは慣れた手つきでゴブリンを解体し、6個の魔石を取り出していた。その魔石は小さな布袋に入れ、俺が『倉庫』に入れた。


 (じゃあショウ、先に進もう。まだゴブリンは居るだろうから気を抜くなよ?)


 (じゃあさっきゴブリンが来ていたらしい方向でいいな?)


 (森の奥に行くからな。おそらくそっちに集落があるはずだ)


 俺はゴブリン達が進んでいたと思しき道を逆戻りする様に探索し始めた。

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