第9話


 西門から出て見た景色は一本の道と広い平原だった。道幅は極端に広い。話によると四頭立て馬車が余裕を持ってすれ違えるほど広いらしい。

 (この道は最終的に王都まで繋がっている道だ。その道を通りやすくするのは当然だろう)

 とはクレアの弁だ。詳しく聞くと、この道を進んでいくと王都に繋がり、ウィスは王都を挟んだ反対側にあるらしい。細かい場所はクレアも知らないが、王都で調べれば分かるだろうと言っていた。

 ここからニオ村までは徒歩で3日の距離らしいが、ペースによっては4日目まで掛かるかもしれないらしい。その間に俺は剣の振り方と出来れば魔法を覚えたい。魔法がある以上、使ってみたいからな

 ちなみに、体を使うのはとりあえず1日交代となった。場合によっては変える必要があるかもしれないが、とりあえずという形で決着した。

 ニオ村までは、俺が体を使うときは全体的にゆっくりと移動しつつ、剣の練習と失敗しても危険が少ない魔法で魔法の練習。クレアが体を使うときは『自己強化』で向上した身体能力に慣れるために走って、俺が進まない分の行程を埋める予定らしい。


 (私の復讐を成す手伝いをしてもらう以上、私は君の為に全力を尽くそう。しかし、生きる為に君にも全力を尽くして欲しい)

 こう言われては、拒否のしようがない。何よりも拒否した場合、俺をこの世界に送り込んだジイさんからの脅しが現実になるような確信があった。

 イボールから出て王都へ向かう馬車達を見ながら歩く。イボールの外壁が小さく見えるまで歩いた所で剣の練習だ。ただ、クレアの片手剣技能を俺も使える以上、基礎の練習はすぐ終わるだろうとの事だった。

 安全の為に道から少し離れた草原に移動する。腰に差した剣を抜き、それを右手に持って腰の高さで構えた。俺は初めて剣を持ったが、クレアの経験のおかげか持ち方は意識せずとも問題なかった。左足を半歩前に出し、左手は甲の部分を前に向けて盾にするように構える。これがクレアの基本スタイルらしい。ちなみに荷物を入れている袋には長い紐が2本上下に通されていて、いわゆるたすき掛けにして背負っている。


 (本来は色々な武器を試して合う武器を探すのだが、しばらくは私のスタイルに慣れて欲しい。そもそも同じ体を2人で共有することなどないから、教え方が分からないのだ)

 と、頭を抱える気配がするクレア。そりゃあそうだろう、俺も聞いたことがない。それにしても、よく分からないことがある。


 (どうして盾を使わないんだ?片手剣なら盾とか使うものじゃないのか?)

 そう、クレアは盾を買っていない。勝手なイメージだと片手剣と盾はセットのイメージがあるから気になっていた。

 (ああ、私は盾は使わない。盾を持つとどうしてもバランスが崩れてしまってな。だから回避と剣による防御、そして左籠手での受け流しが私の防御の全てだ)


(それ左手大丈夫なのか?防御した腕毎斬られましたとか冗談でも笑えないんだが)


(大丈夫だ。真っ向から受け止める訳ではないし、その為に左の籠手には鉄で補強してもらっている。それとブーツの爪先も同様に補強して貰ってある)

 触ってみると、左の籠手は手首から肘までの所々に固い感触があった。この部分が補強されていて、防御の時に使うのだろう。薄いのかそこまで重くもなく、触れるまでは分からなかった。ブーツも触ってみると爪先に革とは違う硬い感触があった。


 (さて片手剣の使い方だが、目の前を斬るイメージを持てばいい。あとは私の体の経験が、直感的に手伝いをしてくれるから、それに逆らわずに放てば良いはずだ。女神様の神託によると技能は共有出来てるようだから、恐らく出来ると思う)


 そう言われて俺はゆっくりと構え、目の前に何か敵がいるイメージをする。すると、どう動いて斬れば良いのかが浮かび、その通りに体を動かす。

 次の瞬間には俺は全力で一歩踏み込んでの薙ぎ払いをしていた。浮かんだイメージ通りの動きで、綺麗に動けたという確信があった。


 (ああ、それで良い。やはり技能は共有出来ているみたいだな)

 クレアも納得してくれたようだ。しかし、彼女の言葉には続きがあった


 (今の動きが出来ればゴブリン程度なら問題無く蹴散らせる。対人戦闘や、ある程度知能のある相手では使い物にはならないが……)


 (どういう事だ?)


 今の動きは仮に人型の相手でも斬れそうな動きだったと思う。イメージした相手が元の世界の漫画に出るような人型の魔物だから当然とも言えるが。そう思っていると、クレアが教えてくれた


 (先程の一撃を思い出してくれ。あれは直感的な、思考の読み合いをしていない攻撃だ)


 思い出してみると、確かに素直な一撃と言える。綺麗な分、裏をかこうとする意思もない攻めになる。


 (技能に頼り切った状態の攻撃は、フェイントを入れる訳でも無く素直だから相手に読まれやすい。連続攻撃も繰り出せるが、やはり対人戦では読まれやすいな)

 つまり絶対に当たる場面以外では使わない方がいいのか。意外と面倒くさい。


 (とはいえ、相応の技量がない内は技能の補助があっても良い攻撃は出来ない。理想の攻撃が分かるということは今後のためには大事な事だ。そして今後の目標は技能に頼らずに良い攻撃を身に付けること、そして防御や回避を学ぶ事になるな。やり方は実戦で覚えるのが一番速いが、少し考える)


 そう言うと軽く一息吐き、

 (ではもう少し素振りをして剣に慣れてくれ。この辺りなら安全だろうし、体の使い方は覚えないと死ぬからな)


 こうしてクレアの剣指導は続き、午前中はイボール近くの平原で素振りを続けた。そのおかげか、太陽が最も高くなる頃には多少なりとも剣に慣れつつあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る