第8話

掲示板の側にはあまり人が居らず、邪魔されずに見る事ができた。おそらくピークの時間が別にあるのだろうとクレアが言ったが、その辺りの冒険者の常識はクレアも知らないようだ

 掲示板には、ランク毎に区切られたエリアに依頼が書かれた用紙が貼り付けられていた。FやEランクの仕事が多くAランクの依頼は2枚しかない。クレアはとりあえず現在の冒険者ランクであるDランクから下の依頼を物色し始めた。

 (本来は1つ上の依頼まで受けられるが、相応の難易度だから無理に受ける必要はないと昨日聞いている。そしてとりあえずの目的地のウィスか、中継するであろう都市で依頼が達成されないと駄目だ。だから帰還しての報告が必要な仕事は意味がない)とはクレアの考えである。


 (どうしてウィスが目的地なんだ?)


 (ウィスは魔素が集まりやすい、特異点と言われる都市だ。そのせいか自然発生する迷宮数は他の都市より格段に多く、危険度も高いらしい。更にその辺境にあるような山や森にも能力の高い魔物が棲みつきやすい。だが、そこで得られる素材や武具はその分優良で、自らを鍛えるにはそこ以上に良い土地はないからだ)

 ………魔素とかよく分からない言葉が出てきたが、その内容を聞くのは今度に回して、仕事を確認する事にした。

 先程の観点で依頼を漁ったクレアは(土地勘のない俺に口出しできる事はなかった)、最終的に3つの依頼を候補にした


 1つ目はニオ村という、ここから3日ほど歩いた村への薬草の輸送で、報酬は大銀貨2枚。難度はE

 2つ目もニオ村からで、村の近辺に現れている魔物であるゴブリン達の討伐。報酬は1体辺り銅貨3枚で最低6体以上。難度はE~D。なお、指揮官が居ると予測されているようで、指揮を取っているであろう魔物を発見、もしくは討伐した場合の報酬は要相談。

 最後は護衛依頼で、ここからファルデと呼ばれる小さな町までの行商人の護衛。馬車で4日ほど掛かる距離にあり、報酬は大銀貨4枚+食費で5名まで。護衛任務で魔物を倒した場合はその報酬は冒険者が貰う。難度はD。


 これらの依頼の備考に書いてある事も総合すると、本来はニオ村への輸送依頼は難易度が最低のFランクだが、ニオ村にゴブリンが現れていて、戦闘の可能性が高まっている為に難易度が上がっているらしい。討伐依頼はその対策だ。

 ファルデの町までの護衛もニオ村の側を通るが、魔物よりも稀にこの辺りに流れてくる盗賊の対策だろうとクレアは言った。副隊長時代に一度だけ、この付近に流れて大規模化した盗賊討伐に駆り出された事があったらしい


 (さてニオ村に行くか、それともファルデに行くか。私としてはニオ村で君の能力の恩恵を受けた体の扱いに慣れたいが、君はどうしたい?)


 (あー……俺はどっちでも良いけど、この世界での戦い方を教えてくれないか?そもそも元の世界では魔物なんて居なくて戦った事がない。魔法とか無かったし、剣なんて使う事も無かったからな)


 元の世界で戦いなんて、人生で2回くらい喧嘩をした程度だ。武術とかを習った経験も剣道を学校の授業で学んだ程度だし、教えてもらえるなら教えてもらうべきだ。そう言うと、クレアは少し驚いたようだ


 (………平和だったのだな、君の世界は。了解した。戦い方や魔法の使い方は私が教えよう。剣の握り方などはおそらく体に染み付いていると思うが)

 という事で、戦い方はクレアに教えてもらう事となった


 (では、ニオ村に行こう。歩きながら剣の振り方は教えられるだろうし、ゴブリン相手に戦闘経験も積めるだろう。少しでも危ないと判断したら私が介入するが、それは理解してほしい)


 ニオ村に行く事で決定したようだ。彼女はニオ村関連の依頼書2枚を手に取り、「受注」カウンターへ持って行った。そちらには眼鏡をかけた、理知的な印象の女性が座っている。人が居なくて暇なのか、頬杖を付いたままあくびをしているせいでその印象はあっさりと壊れたが。

 クレアは2枚の依頼書と2枚のギルドカードをカウンターに提出した。カウンターのギルド員はそれらを受け取ると先ほどの姿勢が嘘であったかのように、手早く作業を始めながら説明を始めた


 「クレアさんは初めての依頼のようですね。それでは今後の流れに関して説明いたします。この後クレアさんには受注した依頼をこなして頂きます。こちらの輸送依頼は、後ほど依頼の品をお渡し致しますので、そちらを運んでいただきます。討伐依頼は現地に小規模のギルド出張所がありますので、そちらでお聞きください。これらの依頼の期日はそれぞれ1週間と半月になっておりますので、それまでに現地のギルドで依頼達成報告をお願い致します。期日までに達成報告が無い場合、特別な事情がない限り依頼は失敗扱いとなり、違約金が発生致しますのでご注意下さい」


 依頼の受注が完了したとギルドカードが返却され、その後すぐにリュックに入る程度の大きさの袋が渡された。中には薬草が入っているらしい。「運搬量が足りない場合は成功になりませんので、使ったりしないようにお願いします」と言われる辺り、たまに着服する人が居るのだろうか?


 ギルドを出たクレアは西門へ行き(イボールは中央に領主館があり、東西南北それぞれに門がある都市らしい)、街を出る手続きを行った。門へ詰めていた兵士はクレアを知っていて、面倒な手続きが免除された事は蛇足だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る