第3話

「……魔族?」


微妙に聞き覚えのある言葉が出てきた。好きだったファンタジー系の小説や漫画でよく出てくる単語だ。

敵の黒幕だったり強大な相手として現れるイメージがある。たまに味方になる事もあるが、裏切ったりそもそも胡散臭かったりと、一癖も二癖もあるキャラクターの印象が強い。

それにしても、話した限り真面目そうなクレアがこの単語を普通に出す辺り、この世界が異世界だと実感させられる。彼女が真面目な中二病持ちの可能性はまだ捨てきれないが。


(ああ、魔族だ。……どうやらそちらの世界でもこの言葉はあるようだな)


(確かに魔族って言葉はあるな。ただ、ちょっと話してもらって良いか?もしかしたら別物かもしれないからな)


ここは一度よく確認した方が良いだろう。


(了解した。では私の知っている事を言っていく。何か疑問があれば言って欲しい)

そうしてクレアは、魔族について話し始めた。


(まず、魔族について周知されている事は少ない。私達人族とは相容れない関係だからだ)


(ちょっと待て。そもそも人族ってのはどういう集まりだ?人間って事で良いのか?)

気になった事は確認を入れていく。思い込みだけは避けたいからだ。


(いや、人族とは人間やその他人間に近い姿を持つ存在の内、他の集団と協調して集団を作る能力がある種族を指している。例えば、獣の特性と人間の特性を併せ持つ獣人は、他の人族が理解しうる言語などを用いて集団を作るならば人族に分類される事が多い。しかし、獣の性質が強く、無差別的に標的を襲うような存在は魔物として扱われる)


つまり、人族=人間では無いようだ。魔族とかがいる世界観なら、エルフとかもいるかもしれない。そして魔物なんかも居るらしい。元の世界とは大きな違いである


(では続きだ。魔族の基本的な姿形は人間に近い。多少背が高いらしいが、それも個性の範囲らしい)

クレアが説明を続ける


(人族と魔族の違いはその圧倒的な戦闘力だ。精鋭を集め、それ相応の戦術を建てた上で挑まないと、ただ蹂躙されるだけだと言われている。実際私達が襲われた時は、約150名の部下がいた。それがたった2人の魔族に皆殺しにされたのだ)


(部下?お前軍属って言ってたよな?じゃあお前はそいつらの上司だったのか?)


俺の質問にクレアの回答が一瞬詰まる。だが、それでも彼女は答えた。


(……ああ、そうだ。私はその部隊の副隊長だった。そして先程話した大切な人は部隊の隊長。私の先輩にあたる人だ)


先輩……か。話したいなら聞くべきだろうが、大切な人と自分で言っていた位だ。無理に聞く必要も無いだろう。俺も、知らない人の事を聞かされるのは面倒だしな。

知らない相手の想い出話を聞きたくない俺は、話題を変えることにした。それは俺の(そしてクレアの)目的だ。


(まぁ、だいたい分かった。それで?俺はその仇を取る手伝いをすれば良いのか?)


俺が聞くと、クレアが頷く気配がした。


(そうだ。女神様によると、世界を渡った人間には特別な力が与えられるらしい。使い方は本人が知っているとも言っていた。私は、君の力を借りたい)


特別な力って言ってもな………そんなものをジジイに貰った気がするが、使い方には覚えが無い。

そんな事を思っていると、クレアが寝ていたベットの上にある、一枚の紙が目に止まった。何となく読む必要がある気がして、それを拾う。

その紙に書いてあったのは日本語だった。そして、その紙の文章が目に入った瞬間、何故かは知らないが、明らかに覚えのない情報が流れ込んできた。たぶん、これがクレアの、そしてジジイの言った『特別な力』だ。

その紙に書いてあったものは、俺に与えられた能力の説明と使い方。それに目を通すと同時に、忘れないように頭の中に叩き込まれる感覚がする。おそらく、この情報はこれから先絶対に忘れないだろう。

この紙によると、俺に与えられた能力は4つ(それとは別に通訳能力は約束していたので、それを合わせれば5つか?)。その内2つはクレアと共用するらしい。

俺だけが使える能力は魔眼『鑑定』と空間作成『倉庫』2つだ。

魔眼『鑑定』は左目がそうなっているらしく、調べたいと思った対象を左目で見れば、情報が得られるらしい。自分の意思で調べたいと思う事が重要だそうで、例えば椅子が見えていてもそれを調べたいと思わなければ、椅子の材質や品質の情報は得られない。自分の事を鑑定するときは左目を閉じて念じれば良いと書いてある。ついでに、目の色はクレアの右目と同じ色なので、特殊な検査をされない限りはバレる事は無いらしい。

空間作成『倉庫』は、物を入れる為の空間を作る能力だそうだ。作る場所は壁や床、何らかの物の他、空気中に空間を作れるようだ。一回目にどんな空間が出るかは分からないが、二度目以降は絶対に同じ空間に繋がるらしい。大きさや重量に制限は無いが、生物を入れるには不適と紙に書いてある。

リスト機能もあるらしく、一度入れた物が分からなくなっても、作った空間に手を入れれば「何が入っているか」が頭に浮かぶようになっているらしい。

紙のこの能力が書いてある部分の最後には、「どんな開け方で空間を作ってもいいが、変な開け方だと二度目以降苦労するから注意じゃよ。あと、その空間に頭突っ込んで死んでも知らんからのう」と書いてある。しっかり注意喚起する辺り、丁寧なジジイだな。

次にクレアと共用するスキルだ。1つ目は意思疎通クレアで、クレアと意思疎通が計れるスキルだ。

俺が起きてからクレアと会話ができるのもこのスキルのお陰のようで、常時発動型の能力に分類されている。

この能力によってクレアとの会話や五感の共有は勿論の事、俺が魔眼で鑑定した情報を共有したり、言葉では説明し辛いような情報を、図などの形で送ったりできるようだ。五感の共有に関しては、一時的に共有をやめたりも出来るらしい。

もう一つは自己強化。これも常時発動していて、能力を大きく高めるというシンプルなものだ。俺が肉体を使っているときはこの能力を完全に使いこなせるが、クレアの精神が肉体を使っているときは2/3~3/ 4程度しかこのスキルの効果が無いらしい

ここまで読み、次の文を読んだ俺は目を見開く事になった。

「ここまで読んだらこの紙は消滅じゃ。では頑張るのじゃぞ?」

と書いてあり、直後に紙が「ポン!」と爆ぜたからだ。それにクレアも驚いたのか、こちらに声を掛けてきたのが分かる。


(ショウ!いきなり爆発したあの紙は何だったんだ!私には読めなかったが、真剣に読んでいたから声を掛けずにいたのに驚かせるな!!)


すぐ横で驚いた人間がいたお陰か、ちょっと落ち着く事ができた。俺は少し笑みを浮かべてこう答える。


(どうやら神様による能力説明用の紙だったらしい。俺じゃないと使えないスキルと、お前も活用できるスキルがあった)


(本当か!!)


クレアの精神がこっちに身を乗り出してきたことがわかる。俺はそれを押し返しつつ、話を続ける


(本当だ。そしてこっちに身を乗り出してくるな!元に戻れ!!)


何とか押し返した俺は、俺に与えられた能力を説明する事にした。クレアは特に疑問を挟む事もなく、静かに聞いている。


(で、俺はちょっとこの能力を試したい。試して良いか?)


(ああ、構わない。朝食まで少し時間があるし、先に確認しても良いはずだ)


この言葉にちょっと疑問を持った俺は、ここは何処なのかを聞く事にした


(そういえばここって何処だ?昨日までは軍属って言っていたけど、今は違うんだろ?)


(そういえば言っていなかったな。ここはイボールという都市の、アダンさんがやっている宿屋だ。兵士時代からここの食事は好きだったし、ここに泊まる事にしたんだ。部屋が余ってるって言ってくれて、この部屋も安くしてもらった)


何やらよく知っている宿屋らしい。それじゃあ時間はあるそうだし、ちょっと能力を確認してみるか。

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