始まりの日と旅立ち
第2話
「……っ」
眼が覚めると、左目にかかる真っ赤な髪が目に入った。夢か冗談にしか思えないが、あの時の爺の言葉が妙な説得力を持って、「この世界は異世界で、俺は転生したんだ」と伝えてくる。
「あー、マジでここは異世界ってことか?」
とりあえず体を起こして周りを見ると、そこは1人用の寝室だったようだ。左手の方には机が見えるし扉もある。ベッドが1つしかない所から、たぶん1人部屋だろうと当たりをつける。
「やぁ、やっと起きたか」
と、女性の声が聞こえた。周りを見るが誰も見つけられない。
「見える筈がないだろう、私は意識だけの存在だぞ?」
ふと、ジジイとの会話を思い出す。「相手の精神は生きている」「その女子おなごの果たすべき使命」つまり、この声は元々の肉体の持ち主って事だろう。
馴染みのない長さの前髪に少しばかりむしゃくしゃするので、俺は左目に掛かる赤髪を乱暴にかき上げて、問いかける様に口を開いた。
「お前が元の身体の持ち主って事か?」
当然ながら出てきた声はいつもと声音が違っていた。その事に俺は驚いたが、相手は俺の動揺には気がつかなかった様だ。
(そうなるな。あと、口は開かなくても聞こえるぞ?私の声で話されると多少違和感がある)
……口を開かずに会話もできるのか。仮に誰かに見られた時に変に思われても困るので、意識だけを相手に向けて会話をする。
(こういう感じで良いのか?で?幾つか聞いていいか?流石に今までの事とか目的とか、色々整理しねえとな)
(ああ、了解だ。ではまずは自己紹介をさせて貰おう。私はクレア。19歳で昨日付けで軍属を辞めたから、今は元兵士で冒険者予定の一般人だな)
声の主、クレアがスラスラと自己紹介をする。19歳って事は同い年だ。俺も自己紹介くらいはしないとな。
(俺は如月翔だ。年はクレアと同じ19歳。元の世界では学生をしていた。事故で死んじまったらしくて、今はこうして居るけどな)
俺の自己紹介にクレアが頷いている気配がする。
(名字持ちで学生、か。君は貴族の生まれだった様だな)
ん?何か妙に勘違いされているな。面倒なので、一応訂正しておく。
(いや。そんな大層なものじゃねえよ。俺の世界では貴族なんて存在は無くなってるし、学生って結構一般的だしな。あと、俺の事は翔って呼んでくれ)
(そ、そうか。私の常識では測れない世界だったのだな。失礼した)
どうやらクレアは真面目なタイプみたいだな。まぁ、真面目な事自体に問題はないだろう。
(それで、だ。お前の目的ってなんだ?俺はジジイにそれを果たせって脅されたんだが)
クレアに本題を尋ねるが、これを聞いた彼女は少し困惑したような気がした。
(ジ、ジジイから?)
(ん?俺は、お前が力がほしいから手を貸してやれって言われたぞ?)
(いや……。確かに私は夢の中で力を求めた。しかし、その相手は女神様だった筈だ)
あー、話しの相手が違ったからそこに戸惑ったのか。話が進まなくなりそうだから、神の気まぐれか何かと思って適当に流しておく
「それで?目的ってなんだ?」話を進めるようにもう一度聞き直す。
「あぁ、目的だな。私の目的は……」
そこでクレアは言葉を切り、
「私の大切な人を奪った魔族。その者に仇討ちをしたい」
強く、そう言い切った。
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