MIX

エリー.ファー

MIX

 書いて読んで、殺す。

 それから、殺す。

 紙にペンで文字を書いて、今の状況を克明に記す。

 記す。記す。確実に記す。

 すべて記してから殺す。

 殺す殺す殺す。すべて記してから殺す。

 飛び去ったフクロウが近くにいるせいで、こんなにも自分の生き方が制御されるとは思わなかった。近寄るな、と手を振ったのに、フクロウは直ぐに耳元でささやく。

「夢、かないますよ。」

 分かっている。

 十割分かっている。

 私の夢は間違いなくかなう。

 そんなことは百も承知だ。

 それは確実だ。

 目の前の女の死体を見つめながらただ一人、意識して長めに息を吐く。

 その死体の上にもフクロウが止まると、直ぐに女が起き上がってこちらを見つめてくる。

「あなたのことが好きなのだけれども。」

「すまないが、二番目なんだ。君は。」

「二番目でもいいわ。」

「そうかい。」

「でも、あたしにとっても貴方は二番目だわ。」

「申し訳ないけれど、私は誰かの二番目は嫌だ。」

「勝手すぎる。」

 フクロウが飛び去ると女はまた死体へと戻っていく。直ぐに土色になり、肉が腐り、気が付けばすっかり骨だけになって、それも崩れ去ると何か白くて小さい石のようなものに成り下がる。

 私は隣に座り込んだフクロウを見つめる。

「着地したところに命を与えます。」

「それは、見ていたら分かる。」

「何か生き返らせたいものがあれば。」

「あの女性の死体を。もう一回。」

「一番好きな方なんですか。」

「二番目だ。」

「あちらの女性も貴方が二番目だと言っていました。じゃあ、気が変わって付き合うことになったと。」

「ふるのが楽しかったから、もう一回やりたい。」

「これは身勝手。」

 私は少しばかり考える。このフクロウに生き返らせてほしい人などいただろうか。例えば、弟、姉、そして父、母。皆、戦争で亡くなってしまった。唯一、兵士として戦線に送られたはずの私だけがのうのうとここへと帰って来てしまった。

 罪悪感はない。その代わり、多幸感もない。

 感情もなければ、記憶も僅かしかない。

「戦争で俺を殺すためにマシンガンを片手に突っ込んできた敵の将軍に会いたい。」

「もう一度、殺したいんですか。」

「そういうんじゃない、会って話してみたいんだ。」

「何故ですか。」

「初めて半獣を見たからさ。」

 フクロウが光り輝くと、そこにはマシンガンを片手に軍服に身を包むミノタウロスが現れる。

 人間対半獣の戦争を思い出して、ない交ぜになった感情があふれ出し、涙が出た。

 つらく険しい時間だった。

 しかし。

 今思えば、あの瞬間が生きていたような気さえする。

 これも戦争という病の末期症状なのか。

「あの時は、殺してしまってすまなかった。私も半獣を憎むよう教育を受けていたんだ。でも、君の雄姿を見て何かが変わったんだ。マシンガンを持って人間の陣地に駆け込んでくるなど、そうそうできるものではない。少し、羨ましい気すらしたよ。私はそんなに自分の国を、人類を愛してはいない。勝利のためにそこまで身を犠牲にできるような、その心の熱が羨ましかった。敬意を払わせてもらう、本当に、本当に、ありがとう。君は最大のライバルであり、最大の友だった。」

 ミノタウロスは何かを言った。もちろん、使っている言葉が違うので分からない。

 私は頷いた。

 ミノタウロスが首を傾げる。

 私は微笑んだ。

 ミノタウロスが苛立ち始め、足で地面を叩く。

 私はおどけたような表情をする。

 ミノタウロスが唾を吐きだしなながら、いななき、私を睨む。

 私は頭を軽く下げる。

 ミノタウロスが歯をむき出しにして地面を叩き、何度も何度もその場で回りながら顔を真っ赤にして首を振る。

「話して分かる奴じゃねぇわ、こいつただの馬だもん。あぁ、マジで時間無駄にしたわ。翔んで埼玉見にいけたじゃん。」

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