三日目 渋谷(3)

 それから須賀君の仕事の話になった。須賀君は語学力を生かして外資系の大きな会社で働いていた。でも仕事はつまらない、と言う。 フロアから大柄な外国人がやって来て須賀君としゃべり始めた。英語だった。須賀君は僕を、友達だといって紹介してくれた。

 イスから立ち上がって握手をした。

「しょーん、と、いいます。コウジの、ともだち?」

「あ、うん、高校時代の・・・ハイスクール」

「おお、ハイスコー」

 何ということの無い会話をしているのに、わりと楽しかった。

 ショーンも笑顔だった。もしかしたらショーンと気が合うのかもしれないと思った。須賀君がどこかに行った後も、いろいろ話をした。英語がわからなくて、簡単な単語しか知らず、ショーンはカタコトの日本語だったが、会話するには充分だったし、なんとなく通じた。

 ショーンは、アメリカのシカゴというところの出身らしい。シカゴと聞いて僕は、マイケル・ジョーダンしか思い浮かばなかった。そのことを言うとショーンはハッハッハッと陽気に笑った。

 そしてショーンはすごいエリートだった。いまは大阪に本社のある大手電機メーカーに勤めていて、そこに勤める前は、九州大学の大学院で研究をしていたということだった。僕が九州出身だというと、明太子がおいしい、うまい、と言ってきた。何歳?と聞くとサーティ・ファイブ、と答えた。

 しばらくして突然に、ショーンは近くにあるソファを指さして、あそこに行こうと言いだした。そこには若い女の子二人が、お酒を飲みながらしゃべっていた。それはやめとく、というと、ショーンは笑顔で「オーケー」と言って、フロアに消えた。

 それからまた椅子に座って、ぼんやりとフロアを見ていた。緑のワンピースの子はバーカウンター近くに移動して友達の女の子達としゃべっていた。小柄な男の子はあいかわらず、踊っていた。おそらくひとりで来ているらしい。あの男の子は人と関わらなくてもいいと思っているのか、人と関わることが苦手なのか、どっちなんだろう、と思った。フロアの前の方では、また別の女の子二人組が踊っていて、時々男が寄っていって口説いていた。その女の子達がセクシーに踊るのを見ていると、男が寄っていくのもしょうがないと思う。何かマタタビみたいだと思った。


 突然どおおお、と会場が爆音に包まれて、目が覚めた、どうやら寝てしまっていたようだった。フロアはものすごい盛り上がっていた。緑のワンピースの女の子はまたフロアに出て踊っていて、その隣にはショーンが踊っていて、口説いていた。そしてフロアを支配していた音楽がいったん落ち着くと、女の子とショーンは一緒にフロアから出て行った。

 僕はトイレに行き、洗面所で顔を洗った。今日はよく歩いて、いろんな人に会ったせいか、けっこうフラフラだった。スマホを見ると午前三時だった。フロアに戻ると、空いているソファに座り、目を閉じた。そしてすぐに深い眠りに落ちた。

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