三日目 渋谷(1)

 下北沢から渋谷へは、井の頭線であっという間だった。

 渋谷駅前は、人がとてつもなく多い。夜の十時を過ぎているのに、活気に満ちていた。とりあえず荷物が多かったので、駅前のコインロッカーにボストンバッグを入れ、少し寒かったが邪魔になると思って、ダウンジャケットも入れた。

 渋谷の西武に行けるか心配だったので、スマホの地図を見ながら歩いた。見ると、駅からすぐのようだ。

 信号が青に変わり、交差点を渡る。

「こんばんは!これからどこに行くんですか?」

「あのさー******」

 前を歩く女の子が話しかけられていたが、無視して歩いている。たぶんナンパだろう。


 西武に着いた。向かいにはマックがあった。

 電話をかけ、マックの前で待っていると、須賀君は建物の裏手からひょいと現れた。

「ひさしぶりい」須賀君は肩をたたいてきた。かなりのハイテンションだ。Tシャツにジーンズという格好で、外見は、最後に会った二年前とそんなに変わっていない。

「ひさしぶり」僕も会えて嬉しかった。

 マックのビルの裏手の階段を、三階まで上った。

 クラブは初めてなんだ、と言うと、クラブのシステムを説明してくれた。

「手のスタンプ見せたら、再入場できるから…途中、外に行って休んでもいいし、女の子と消えてもいいしね」

 須賀君はニヤっと笑った。

 重たそうな鉄の扉を開けて中に入ると、銀色のシャツを着た綺麗な女の子がいた。

「友達だから二千円で」

「コウジのお友達?」女の子が笑顔を作る。

「どうも」僕は陰気に言い、二千円を払った。

 手に螢光塗料のスタンプを押してもらい、ドリンクチケットをもらい、店内に入る。

 フロアには数十人の男女がいて、すでにかなり盛り上がっていた。重低音でパーカーの生地がビリビリ振動する。

「まだ、これから、どんどん盛り上がってくるから…俺はだいたい前のほうにいるから、まあ楽しんでよ」と言って、須賀君はフロアの前のほうに消えた。

 とりあえず、バーカウンターへ行って、ドリンクチケットをビールに換えた。ビールを飲みながら、フロアをよく見わたすと、外国人の男がけっこう多かった。女の子は日本人が多い。

 フロアの前の方、ターンテーブルの近くで、緑のワンピースを着た髪の長い女の子がひとりで踊っていて、その子がとてもスタイルがよくて目立っていた。リズムに合わせて体を揺らすと、グラマラスなボディラインがくっきりとうつし出されて、とてもセクシーに見えた。女の子はひとりで来ているわけでは無いらしく、時々友達らしき女の子が近くに行き、何かしゃべっていた。

 そのうち、外国人の男が踊りながらその子に近づいていき、笑顔で何か話しかけはじめた。その二人の隣では小柄で顔色の悪そうな男の子が、頭を揺らしながら一心不乱にステップを踏んでいた。その向こうのDJブースでは、須賀君がスタッフらしき人と話をしている。


 もともと自分は普段からテンションが低くてノリが悪い方で、なにかハッチャケられないというか、こういう時も、フロアに出て行ってノリノリで踊ったりとかは、できなかった。フロアの真ん中で踊ったり、女の子を口説いたりする男を、うらやましいとは思ってただ見ていた。

 そうはいっても、突っ立っているだけなのは良くないと思ったので、フロアの壁沿いにあるソファ席の近くに立って、ビートにあわせて体を揺らしながら、ビールをちびちびと飲むことにした。そうやって体を揺らしているだけでも、けっこう楽しい。

 緑のワンピースの子には、別の外国人が近寄っていき、口説いていた。そして相変わらずその隣では小柄な男の子が踊っていた。緑のワンピースの子と小柄な男の子の間には、何か交流が生まれそうな感じは無い。

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