三日目 下北沢(2)
「ちょっと用事があるから、じゃ元気でね」
タイ料理店を出ると、弟はすぐに帰って行った。
しばらく下北沢をぶらついたが、たいして時間も過ぎなかったので、午前中に見つけた、ネットカフェに入ってみることにした。
須賀君からの電話はまだ無い。
個室の席を取り、ジュースを用意し、数時間、アイドルの動画を観たり、マンガを読んですごした。
それからスタンドの明かりを消し、しばらく眠った。
起きると夜の七時を過ぎていた。電話はまだ無かった。
店内の自販機でフライドポテトを買い、コーヒーをポットから注ぎ、自分の席で食べた。それからまた、マンガを読んですごした。
夜の九時をまわった。電話はまだ無かった。僕はとりあえず一度しっかりと食事をしようと思い、ネットカフェを出た。
外は寒かった。風が冷たい。ダウンジャケットを羽織る。
夜の下北沢は、フリーターか、大学生かと思われる貧乏そうな集団が行きかっていた。夜だからといって犯罪とか、怖い感じは無かった。
食べられれば店はどこでも良かったが、入りやすいという理由でファーストフード店にした。それに、食べ終わった後もしばらく席にいたかったというのもある。
セットを注文して食べ、コーヒーをおかわりし、しばらく文庫本を読みながら電話を待った。もう夜の十時をまわっていた。さすがに遅すぎやしないかと思い、須賀君に電話してみたが、つながらない。
だんだん、このまま連絡が来なくて、クラブイベントに呼ばれないんじゃないだろうか、という気がしてきた。
今晩泊まるところ、どうしよう、と思った。ネットカフェに戻り、朝まで居ようかとも思ったが、できればベッドでゆっくり寝たいな、とも思う。
そんな事を考えている時、電話が鳴った。須賀君からだった。
「ごめん、遅くなって」
電話の向こうでは、重いビートがずんずん響いていた。須賀君の声はよく通って、聞き取りやすい。
「ああ」僕は心持ち、声を上げめにしてしゃべった。そうしないと相手に聞こえないと思ったからだ。
「今どこにいんの?」
「えー下北沢」
「下北沢あ?・・・今から渋谷に来れる?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ渋谷の、西武の、向かいにマックがあるんだけど、その三階だから、マックの所まで行くから、マックに着いたら、電話して」須賀君は一音一音はっきりと区切って、そう言った。
「わかった。いくわ」
「オッケー?」
「オッケー」
「じゃあまた後で」
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