1-6
>>峰田君、今暇?
>>愛香さん、どうしたんですか?
>>この前はありがとね、デート楽しかった
>>いえ、こちらこそ
そうしたら少し間が空いてから、私のことを疑うように返信が返ってきた。
>>しかし、用件はそれだけですか?
>>このまえの件、雅には話しておいたから
実は峰田君は、密かに雅に好意を寄せてる。私の方から関係を迫った手前、仕方がないものの、ちょっとショックだった。
>>愛香さん……へっへ、ありがとうございます
「…………」
けれど、私はこの峰田の態度が心底癪に障る。誰もが羨むような美少女の私のことを、特別な女の子扱いしていないのか。情けない後姿を蹴り上げたい衝動に駆られる。そうしたらつい意地悪心が触発されて、余計なことまでメッセージを送ってしまう。
>>ふぅん……でも峰田くん。雅の体操服盗んだの君だよね?
「くすくす……」
私は意地悪く笑った。
相手から返信が返ってこない。ディスプレイ越しに呆けた顔の峰田君を想像する。
>>最低――気持ち悪いね。しかも……君、私と付き合ってるんでしょ? どういう意味かわかってんの?
>>そ……それは――
>>君が変態ブタ野郎だって、クラス中で言いふらしてあげようか? なんだったら
しばらくの沈黙。私は続けてメッセージを送信する。
>>あははは! 嘘だよ。だって私たち、付き合ってるんだもんね?
>>愛香さん……ちょっと、それは――
私はなんだか感情的になってしまい、勢いもそのままに続けてメッセージを送る。
>>お願いがあるんだけど?
>>あ……愛香さん……
>>辻井に別の女の子がつくようにしてくれない
「……」
私は少し考えてから、トドメを刺すようにメッセージを送る。
>>そうしたらまた、おしり触らせてあげる
>>……はい
峰田君とのトークを切った。そうしたら、また新着通知が来てる。イライラしながら通知を見る。どうせまた、しつこい辻井かブタかと思った。ところが、相手は私の予想外のアカウント。
>>新着通知・宇喜田利和
「う……宇喜田先輩!?」
どきっとする。なんで、どうして宇喜田先輩が。
洗面所からベッドの定位置に戻る。放り投げたウサギのぬいぐるみを回収して、ギュッと抱きしめた。布団を被り、恐る恐るトークチャットの画面を開く。
>>突然悪いな、ちょっと気になることがあったんだ
>>どうしたんですか?
私は胸の高鳴りが止まないままに、スマホの握る手が汗ばむ。
>>昼頃に見たら浮かない顔してたからさ。何かあったのかと思って
>>あはは
思いがけずきゅんとしてしまった。きもい男子に見られるのは心底怖気が立つけど、先輩は目ざとく、こうして気にかけてくれてたのか。安心感や嬉しさがない交ぜになったような複雑な感情になる。
「…………」
本当はこの場で告白するべきなんだと思う――貴方のことで悩んでいたんですよ、先輩――と。
>>すまんな。気持ち悪かったら言ってくれ。元気のない倉科を見てるのは、なんだか辛かったからさ
>>失礼です。先輩が思ってるよりも、私、バカな陽気なキャラじゃないですよ!
宇喜田先輩とは小学校以来の仲だった。
私は中学生の頃には軽音楽部に所属していた。元々は吹奏楽部を志望してたけどあぶれて、泣く泣く軽音楽部に入部。そこでバンドマンを志望してた先輩と出合った。最初は単に優しい先輩だと思ってたけれど、いつしかそれが恋心に変わっていたことに気づく。
高校にあがって私は勉強に専念するため部活動を辞め、先輩は仲間を集めて本格的なバンド活動に精を出す。それでも付き合いは続いてて、人間関係下手な私をいつも気に掛けてくれたのはやっぱり先輩だった。高校を卒業したら、先輩との関係も終わってしまうような気がした。
>>あはは、そうだな。高校デビューした倉科は一段と可愛くなって、大人の女の子になったんだ
>>もう……先輩セクハラですよ?
可愛いなんて――――頭がくらくらとして頬が熱を帯びてくる。このままだとまずい。私はあえてゲスな話題を振ることで自分を落ち着かせるようにした。
>>それよりも先輩、今日変な奴に絡まれませんでした?
>>そうだったのか!? 俺はわからなかったけど?
>>糸川っていう男子が、先輩にすごく迷惑をかけたと思うんです
>>ああ、あいつか!
「……」
>>あいつは面白い奴だな。良い友達になれそうだ。
「――――!」
私は思わずゾッとして怖気立つ。
>>そんなこと…………絶対ダメです!
>>はは、もちろん倉科のことを虐めたら俺が許さないけどな?
「……」
>>電話……できる?
>>悪い倉科、今手が話せない――ちょっとラノベ読んでてな
「ライトノベル?」
知ってる。最近何かと話題の恋愛小説のことだ。
>>はは、今度遊んでやるから勘弁な
>>……はい
私は名残惜しくもトークチャットを切った。けれど、先輩に好き勝手に遊ばれてしまうことを想像してる。思わず我慢できなくなる。私の体の火照りは収まらなかった。
「ずるいよ……先輩」
パジャマの中に手を入れて、身体中に両手を優しく這わせる。むずむずとした感触が心地良い。思わず下半身に手が伸びる。ショーツの上から肉芽を摘む。少し固くなってる。
「んん~~っ」
部活動の途中、先輩から後ろからハグされたことを思い出してしまう。
まるで私が身動きが取れないよう、拘束するように、自分のものにするみたいに、力強いハグ。
「んんん~~っ」
◆◇◆◇◆◇
「先輩――もう、許して……」
自分の家だからって――――私は恥ずかしげもなく、一人で気が済むまで乱れてしまった。
「ん――はぁ、はぁ……」
ふと、罪悪感に苛まれる。
「もぅ――――最悪っ……」
身体に力が入らない。頭が真っ白になって、無防備な状態でベッドの上で両手両足を広げて横たわってる。幸福感でいっぱいになってしまう。
「先輩……こんないやらしい女って――引くかな……?」
なんて、ひとり考えてしまう。
情けないのは、こうして気の赴くままにやってしまうと後始末が面倒なことだ。
「はぁ」
うんざりする。自分の性欲の強さに思わず辟易する。しつけのできてないバカ犬のようだと思った。二重に落ち込んだ。せっかくお風呂に入ってシャワー浴びたのに、また洗濯しないといけない。
「ん……」
そうして、うんざりしながら作業してると、何か視線を感じた。
「……なに?」
気持ち悪い。咄嗟に、そう思った。
私は視線を感じたほうへと歩いていく。するとテレビ台の下、ガラス戸の奥、最新式のゲーム機が放置されてる上、テレビ台収納の上面の裏側部分――――私は、見つけてしまった。
「――――!」
思わず絶句する。
「なに――これ……」
それは指人形ほどの大きさの、レンズのついた小さな黒い箱。セロテープで固定されてる。
そっと取り上げると、細長いコードがお尻の部分から伸びてて、テレビの裏まで続いている。鳥肌が立つ。引っ張ると、ガタゴトと何か大きなものの落下する音が聞こえる――――まさか――――私は上からテレビ台の裏側を見た。そこには外付けHDD程の厚みのカートリッジが落っこちていた。赤いランプが僅かに明滅している。間違いない。
「盗……撮?」
放心状態だった。
まさか、どうして、なんで。多くの疑問符が脳裏を過ぎる。
けれど誰も答えなんて教えてくれない。それこそカメラのレンズの先にいる犯人にしかわかりようのないこと。ひとついえるのは、私以外の第三者が知らない間に私の家に忍び込んでカメラを仕掛けた。私は恐怖心が怒りの感情に変化して、咄嗟にラインのトークチャットを開いた。
>>通話呼出・糸川一臣
発信相手は一時と間をおかずに受話器を取る。私は応答することさえ確認せずに怒りの感情のままにまくし立てた。
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