画力ゼロの俺が絵で物を生み出す魔法を手に入れた

御剣ひかる

口は禍の元っていうけどこれはない

 学校から帰り道。いつも通りのはずだった。


 フラフラしながらすごいスピードで近づいてくる車が、まるで俺に吸い寄せられるみたいに突っ込んできた。

 あ、俺死んだなこれ。

 車にはねられる直前に、冷静に状況を分析していた。




「死にたてホヤホヤのが来たよ。どうする? この子、結構魔力高いよ?」

「魔法使いが必要だって嘆いてるあの国に転生させてみる?」


 真っ暗な中で聞こえる二人の女のやりとり。

 転生? 別世界に行くのか?


「そうよ。前世の記憶を残したまま、新しく魔法を一つもらって異世界へ行くの。悪い話じゃないでしょ?」


 暗闇の中に現れたのは、妖精みたいな恰好をした女だ。

 背中に二対の細い羽が生えてて、ふわりと空を飛んでいる。


 ……けど、さぁ。


 妖精っつったら、若い女の子だろ? フツー。

 目の前にいるのは、もういい年こいたオバサンだ。

 なんか幻滅だ。妖精のイメージを壊された。


「ちょっとぉ、何失礼なこと考えてるのよ」

「まぁまぁ。考えちゃうのは仕方ないじゃない」


 オバサン妖精はむぅっと頬を膨らませた。

 はっきり言ってかわいさなんてない。


「しょーがねぇだろ、ほんとのことだし」


 つい、口から本音が出た。元々考えてることが筒抜けなんだし、いいだろ。


「これは、お仕置きが必要ね」

「あんまりなことはしちゃだめよ」


 妖精達がボソボソと話し合って、クスクス笑う。


「それでは、あなたを新しい世界へご招待するわ」

「苦労するだろうけど、頑張ってね」


 二人に見送られて強制的にどこかへと放り出された。




「おぉっ! 召喚成功だ!」


 次に耳に入ってきたのは老人っぽい男の声と、それに続く歓声。

 目を開けると、いかにもファンタジーな王城って感じの部屋に数人の人がいた。みんな、俺を見て嬉しそうにしている。


 本当に、転生したのか?

 きょろきょろしながら頭を掻いてると、裾の長いローブを着た魔術師っぽいのが近づいてきた。


「気分はどうですか? 召喚されし者よ」

「悪くない、けど……」


 オバサン妖精が言ってた「魔法を一つもらう」ってのは実行されたんだろうか?


『あげたわよ』

「うおっ!?」


 急に頭の中でオバサンの声がしたから跳びあがってしまった。


『あんたも懲りない子ね。失礼なことばっかり言ってたら消滅させちゃうわよ?』


 何気に怖いこと言ってる!


 失礼しました。それで、俺にはどんな魔法が?


『描いたものが実物になる魔法よ』


 オバ、いや、素敵な妖精様が教えてくれたのは、俺が自分で描いた絵に魔法をかけると、実物になる、っていうとっても判りやすいものだった。魔法をかけてるからその物はマジックアイテムになるんだそうだ。


 素晴らしいな。けど一つ、とんでもなく大きな欠点がある。

 絵の出来具合でそのアイテムの能力が決まっちまうことだ。

 つまりうまい絵じゃないと、強力なマジックアイテムにはならないんだ。


 俺、美術の成績は万年五段階の二だっつーの! 一にならないのは作品はちゃんと提出してたからだ。出来はともかく。


 よりによってそんな魔法……、あ。

 これが「お仕置き」かっ!


『ピンポーン。それじゃ、頑張ってうまい絵が描けるようになりなさいね』


 くそっ、なにが「ピンポーン」だよ!


「あ、あの……」


 俺を召喚した連中が不安そうにこっちをじっと見てる。

 そりゃ、あの妖精の声はこの人達には聞こえてないんだろうから、連中からすれば俺が勝手に驚いたりがっかりしたり怒ったりしてるように見えるだろう。


「あはは。えっと、魔法のこと、だよね」


 俺は妖精から説明されたことを伝えた。

 召喚者達は喜んで、では早速、と紙とペンを持って来た。

 俺自身、自分の力を確認するために、ここは描いてみるしかない。

 失敗しても害のなさそうな……、リンゴとかでもいいか?


 頭の中でおいしそうなリンゴを思い描きながら、紙にペンを乗せ、走らせる。

 出来上がったイラストは、自分で言うのもなんだが、イビツな何かだった。


 覗き込んでいた男達が微妙な顔で笑うのを無視して、絵に手をかざして魔力を込めるイメージをしてみる。


 すると。

 ぽんっと軽い音を立てて、絵に描いたリンゴもどきが飛び出してきた。


 じっと見ると、リンゴのステータスが頭の中に流れ込んでくる。


 まずいリンゴ

 食べるとHP-20

 付与:毒


 これってまずいってレベルじゃなくて毒リンゴじゃねぇか。

 それともまずいってのは味じゃなくて絵のレベルか? イヤミなステータスだなっ!


「な、なるほど、小さく切って敵国の食べ物に混ぜるにはいいかもしれませんな」


 誰かの言葉に、乾いた笑いがいくつか連なった。


 次に、武器を描いてみることにした。

 兵士が使っているという片手剣を持ってきてもらって、模写してみる。

 なんか結構歪んだ感じの剣みたいな何かになっちまったが、実物にしたらちょっとは形に補正がかかるみたいだから、これでよし。

 実体化してみる。


 マジックソード+20

 武器耐久度:5


 周りの声が、おおぉ、から、ええぇ、に変わった。

 武器の+20ってのは、かなり強力な数値らしい。けど武器耐久度が5では一度殴ったら壊れるレベルだそうだ。


 くそっ! 絵の練習を兼ねて量産してやるわっ!




 こうして俺は王宮付きの魔法使いになった。「マジックアーティスト」なんて称号ももらえた。

 けど作り出すのはどれも欠陥品。

 どうにかしないといけないが、十数年絵心がなかった俺がそんな簡単に上達するわけでもなく。


 陰で「欠陥アーティスト」なんてささやかれてるのも知ってるがどうにもならない。


 それなら、別の方法を考えるしかないな。

 思うに、いろいろなものをうまく描こうとするからなかなか上達しないんだ。


 付与する魔法は強く念じれば結構自由にできるみたいだし、ひたすらペンを描く練習をして、うまく描けたやつで「画力が上がるペン」を作り出すなんてどうだ? なかなかよくね?

 よし、その方向性で行くぞ。


 そして一週間。ひたすらペンを描き続けた。

 なかなかいい出来のが描けたから、これに魔法をかけてみよう。


“画力が上がるペンになれ!”


 魔力と一緒に念を送って、出来上がりを待つこと二秒。

 ポンっといつものように軽快な音を立ててペンが宙に浮かんだ。手に取って、アイテムの能力鑑定。


 画力アップのペン

 これで描いた絵はとても素晴らしいものになる

 画力アップ +30


 おおおっ! いいじゃないか!

 アイテムの耐久値については書かれてないから普通にあるんだろう。

 これでどんどん強い武器防具や魔法アイテムを作って「欠陥アーティスト」の汚名を返上だ!


 試しに片手剣を描いてみる。

 ……すげぇ、目をつぶってでも描けるぐらいに手がすいすい動くぞ!

 今まで見たことのないぐらいの強くて丈夫そうな剣が描きあがった!


 これに魔力を加えて……。

 あれ? 出てこないぞ?


 ペンをもう一度鑑定してみる。

 なんだ、この小さい「注釈」は? テキストが閉じられていたから、開いてみると。


 ただしこのペンを使用した絵はすでに魔法が行使されているので他の魔法を受け付けない。


 なんだとー!?


『ざーんねんでしたーっ!』


 急に頭の中に、あの忌々しいオバサン妖精の声がっ。


『なかなかいいアイデアだったけど、そんなズルしないで画力の向上に力を注いでよね』


 いい年してキャハハハと笑いだしかねないクソババ妖精め。


『まぁた、そんな失礼なこと考えてたら、もっときついお仕置きしちゃうぞ』


 はいすみません麗しき妖精様。どうか俺に画力をください!


『ダーメ。ペンはそこそこうまく描けるようになったんだから、その調子で他のアイテムも頑張ってね』


 それじゃあねー、と言い残して妖精の気配が頭の中から消えた。


 俺は、がくりとうなだれた。

 口は禍の元っていうけど、問答無用で思考を読まれてお仕置きされるなんて理不尽すぎるぞ!


 果たして、俺の画力が向上するのが先か、この国の戦争が終わるのが先か……。



(了)

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画力ゼロの俺が絵で物を生み出す魔法を手に入れた 御剣ひかる @miturugihikaru

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