第二章 妹と同居人 (3)
ファミレスを出てしばらく歩いたところで、
「ホテル、どっちかわかるか」
隆二は立ち止まり、真緒に声をかけた。
「待って、ナビ起動する」
隆二に荷物を押し付けると、スマホを取り出す。
他のことは不器用なのに、スマホの操作だけは片手でも異様にうまくなっている。好きなものこそ上手なれとかいうもんなーと、ぼんやりと思う。使い方が合ってるのかは知らんが。
真緒は左手でスマホをいじりながら、
「っていうか、道わかんないんだったら、円さんに送って貰えばよかったのに」
「あー」
思わず濁してしまった返事に、
「車、まだ苦手なの?」
呆れたように言われた。見透かされている。
「なんかなー。昔轢かれたことあるからかなー。落ち着かないんだよ」
「昔って、本当大昔でしょ」
ホテルあっちみたい、と進み始める。
「それに、あの車、絶対高いじゃんか、落ち着かないよな」
「それは、ちょっとわかる」
こくこくと頷かれた。
「円さん、変なところでお金持ち感強くて、たまに引く。今日履いてた靴だって、十万とかするやつだよ」
「は? あのバカみたいにヒール高い靴?」
「そう」
「……あの人、バカなのか?」
ヒールの高さもバカだと思ったが、値段もバカだった。どうして、そんな靴で、走ったり跳んだり、斬りつけたりできるのか。
「もっと報酬ふっかけときゃよかった」
まあ、護衛と言いつつ全然仕事してないから、今の金額でもぼったくってるとは思うが。
二人で並んで歩きながら、
「今日は何してたんだ?」
「買い物ー。お洋服、買っちゃった」
それね、と隆二に持たせた袋に視線をやる。
「楽しかったか?」
「うん!」
「そうか」
ならいい。
「ね、怪我してない? 本当に大丈夫?」
「してねーって。見ればわかるだろ」
「……まあね」
どこか不満そうに真緒はつぶやいた。
「なんで納得してないわけ?」
「隆二はそういう点ではちょっと信用できない。あたしにバレなきゃ怪我してもいいって思ってるよね?」
「……思ってねーよ」
いや、ちょっと思ってるけど。
「気をつけてね、本当に」
「ああ、わかってるってば」
まだ何か続きそうな真緒の言葉を、その頭をぐしゃぐしゃっとかき混ぜることで遮る。
「ちょっとー!」
「ほら、さっさと行こう」
なんとなく誤魔化しながら、少し早足で歩きだした。
自分の怪我なんて、取るに足らない瑣末だ。そうは思うけれども、そう言ったらこの同居人は怒るだろう。だから、今日のところは内緒にしておこう。
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