月島なぎさⅠ ひとりぼっちの教室
月島なぎさⅠ-1
真っ暗な道だった。
いや、道なのかわからない。それどころか床なのか壁なのか、それすら把握できない。
ただ漆黒の闇がすべてを支配し、存在していた。どちらが北でどちらが南なのか、方角も判然としなかった。進んでいるようで戻っているのかもしれない。そんな闇の中を、あてもなくさまよっていた。もし穴があったら。そんな不安が胸をよぎる。足を踏み外したとしても、きっと落下したことにも気づかない。重力に従うまま地面に叩きつけられ、二度と這い上がることはできない。
なぎさは思わず優花の手を握り締めた。足元を確かめ、慎重に進んでいく。それとは対照的に神那は迷いがないのか、堂々としていた。そんな彼の無言の背中が、心底たくましく見えた。
どれくらい歩いたのか、途方もない道筋に思えたそれは、突然終わりを告げた。急に視界が白く覆われ、目の前に何かの映像が現れる。
どこかの学校の教室だった。
ややずれて並んでいる木目の机と、何も書かれていない黒板。時刻は放課後だろうか、日は落ち、残照が室内を照らしていた。蛍光灯の明かりすらついていない教室に、スカートを履いている女の子がたった1人、机にうつ伏している。表情は見えない。泣いているのか眠っているのか、何もわからない。ただ、じっとうつむいている。
「ああ……」
なぎさの口から、落胆にも似たため息が漏れた。
あれは私だ。中学生のときの、あの時の私だ。
ふたたび視界が白く光り、映像がフラッシュバックされる。
目をつぶっていても、耳を塞いでいても、些細なきっかけで否応なしに思い起こされる過去。
2度と思い出したくない記憶。常に思い出してしまう記憶。
私の意志とは関係なく流れる、けして変えられない現実。
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