杉野颯太Ⅱ-3
また携帯が震えた。
こんなにも連絡が来ることなんて、いままでなかったのに、今日はいったいなんなのだろうか。
画面を確認する。連絡してきたのは秀一だった。
まだあいつの連絡先を消してなかったのだなと颯太は自嘲気味に微笑んだ。そのままおもむろに電話に出る。
「もしもし、杉野くん?」
昨日と同じおどおどとした様子がその口ぶりからも感じられた。
「何年ぶりだよ、電話してくるの」
「うん、急にごめん。いまだいじょうぶかな」
「ああ」
「柊さんからメールが届いたんだ。月島さんが行方不明になってるって……」
颯太は心の中で舌打ちをした。優花は秀一にも同じ内容のものを送ったのか。
「そうみたいだな」
「そうみたいって……心配じゃないの?」
「べつに。ここ何ヶ月か会ってないしな」
「会ってない? 月島さんはそっちに戻ってきたんじゃないの?」
「あいつ出たのは転校初日だけで、それ以降は学校に来てないんだよ。不登校ってやつだ」
「そうなんだ……」
秀一は意外そうに声をくぐもらせた。
「柊さんは昨日の小学校に行ってみるって言ってた。月島さんを探すって……」
「そうみたいだな」
「僕も行ってみようと思っている」
「お前もかよ!」
颯太は上体を起こし、声を荒げた。
「優花もお前もどうしたんだ。急になぎさなぎさって。昨日小学生姿のなぎさを見て、お前ら頭がおかしくなったのか? なぎさは俺たちと同い年だぞ。小学生の姿のままなわけがないだろ。幽霊か幻覚か何かだろ」
「幽霊か幻覚だとしても、僕は行こうと思う」
颯太は絶句した。本当にこいつらはどうしてしまったのだろう。
「杉野くんはどう思った?」
「どうって?」
「昨日、月島さんと会ってどう思った?」
「別に、どうも思わねーけど」
「泣いているように感じたんだ」
「はぁ? 何言ってんだ。小学校のときのままだっただろ」
そういって颯太はすこし妙な気持ちになった。小学生姿だったのだから変わってないのは当たり前だ。それにいまさっきあれは幽霊か何かと否定したばかりなのに、あの少女が小学生のときのなぎさそのものだと認めている自分に気付き、すこしうろたえた。
「うん、口調も態度も変わってなかった。小学校のときのままだった」
秀一はそこには触れず、同じことを思っていたようでそう答えた。
「小学校を卒業するときね、月島さんが話しかけてくれたんだ。離れ離れになってもずっと友達でいようねって言ってくれたんだ。そのとき月島さんは笑っていたけど、でも、僕にはどうしてもそれが笑顔には思えなかったんだ。どこか悲しげで寂しそうだった」
「それがなんなんだよ」
「そのときの表情と一緒なんだ」
「あっ?」
「昨日、消える前に月島さんが見せた表情、それがあの時とまったく一緒なんだ」
秀一は優花とまったく同じことを言っていた。
「杉野くん。小学校のときの僕らは毎日一緒に遊んでいたよね」
「お前は途中で抜けたけどな」
颯太が嫌味たっぷりにそう答えた。
「そうだね、うん。そのとおりだ。だから、僕はこんなこと言う資格はないかもしれない。いまさら月島さんに合わす顔もないかもしれない」
秀一の言葉には迷いがあった。それを彼は必死に抑えつけているようだった。
「でも、僕は行くね。杉野くんのことも待ってる。きっと柊さんも杉野くんが来てくれることを期待していると思う」
「優花にも言ったけど、俺は行かないよ」
そう颯太は吐き捨てた。
「楽しかったんだ。すごく幸せだった。そのことを僕は思い出したんだ」
秀一は颯太が示した拒絶の意志に対して、反発も否定もしなかった。彼もまた優花と同じように一方的に言葉を紡ぐだけだった。
「電話切るね、急にごめんなさい」
それだけ言って電話は切れた。
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