杉野颯太Ⅱ 忘れ去られた写真
杉野颯太Ⅱ-1
颯太はベッドに寝ころび、何でもない天井を見つめていた。
いまが何時かはわからない。目が覚めてからどれくらいの時間が過ぎたのかも知らない。ただカーテンの隙間から漏れる明かりから、もうとっくに日は登っていた。それなのに颯太は起き上がろうともせず、閉め切った部屋で蛍光灯もつけずにただじっとしていた。
リビングのTVから、たわいもない話し声が漏れていたが、それははるか遠くから流れてくる残響のようで、颯太の耳には残らなかった。エアコンのルーバーがきしむ音が聞こえた。自動的に最適な風を送るよう設定されているのか、それはぎこちない動きで、ゆっくりと開閉していった。
携帯が鳴った。突然の振動に、颯太は体をこわばらせた。
同時に颯太は携帯電話に電話機能がついていたことを思い出した。電話なのだから当たり前なのだが、それほどまでに颯太の携帯に着信があるということは珍しいことだった。
しかし、そうにもかかわらず、颯太は電話に出ようとはしなかった。それどころか、無視するように寝返りを打った。携帯はしばらく震え続けたのち、止まった。
電話帳には10人も満たない人しか登録されていない。叔父叔母以外で連絡してくるとしたら1人しかいない。おそらく優花からだろう。会話の内容もわかっている。おそらくなぎさのことだ。
颯太にとって、それは億劫なことでしかなかった。昨日の出来事が現実だろうが、幻だろうが、どうでもいいことだった。なぎさがいまどうなっていようが、彼にとっては外国の子供が飢えに苦しんでいることと同じように、知ったことではなかった。
ふたたび携帯が震える。今度はさっきよりもあきらかに短い時間で振動は止まった。電話ではなく、メッセージかなにかなのだろう。
颯太はしばらくの間ぼんやりと虚空を眺めていたが、やがて物憂げに枕元にある携帯を掴み画面を見た。
予想通り、そこには優花の名前が表示されていた。
画面にはいますぐ確認してというコメントと、ニュースサイトへのリンクが貼ってあった。おもむろにそれをタップする。
そこには高校生1年生が行方不明というニュースが掲載されていた。
なんでニュースなんかを送ってきたんだと疑問に思いつつ、斜めに文字を追う。月島なぎさという名前が目に入ったとき、颯太は勢いよく体を起こしていた。今度は最初からしっかりと文面を読む。記事にはなぎさが27日から行方不明になっており、いまだ手掛かりがない状況であることが記載されていた。
——家にはいない。
昨日の小学生姿のなぎさの言葉が思い出される。あの少女が言ったことは本当だった。
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