天宮聖羅Ⅱ-3

「ふー」


 少女が安心したように息を吐く。


「危なかったね」


 そう言って、少女はにこっと笑顔を見せた。


「なんなんだよ、いまのは……」


 颯太が左腕を押さえながらよろめく。押さえている右手の指の隙間からは血がとめどなく流れていて、それが制服の色を濃く染め上げていた。


「颯太、だいじょうぶ?」


 少女は心配そうに颯太の顔を覗き込んだ。その顔にひどく慌てながらも「かすり傷だ」と颯太は答えた。


「優花!」


 少女に呼ばれた優花はびくっと体を震わせた。


「手のひらをかざして、傷を癒したいって願って」


「願うって……」


 迷っている優花の手を、神那がそっと掴む。「あっ」と優花は声を上げ、一瞬体を固くしたが、抵抗はしなかった。神那に促されるまま、手のひらを颯太の傷口へかざすように持っていく。


 青緑の粒子が手のひらから排出され、傷口に降り注いだかと思うと、血が止まり、痛々しい内面を見せていた傷口がゆっくりとふさがっていく。やがて切断された事実自体がなかったかのごとく、傷跡1つない肌がそこには露出していた。


「なにこれ……」


「やっぱり思ったとおり」


 少女は自分の考えが正しかったと納得するようにうなずいた。


「優花は優しいから。回復魔法が使えると思ったんだよね」


「なんでそんなことわかるんだよ」


 颯太が疑問を投げかける。


「そりゃどんなゲームでも回復役は1人くらいいるでしょ! なんかみんな光の珠とか電撃とか攻撃型っぽいし、これは残った優花が回復役かなと」


 誇らしげに少女は腰に手を当てた。


「あの、君は月島さんなの……?」


 秀一のその言葉に、颯太と優花が体をこわばらせた。まるでその現実からいままで目をそらしていたかのように、空気に緊張が走った。


「楠原くん、知り合いなの?」


「知り合いというかなんというか……」


 秀一は何と表現していいのかわからないのか、口をまごつかせている。


「月島なぎさだって、言いたいんだろう」


 颯太の言葉に天宮ははっとなった。


「どういうこと? 月島さんって、うちのクラスの月島なぎささん? そんなわけないでしょ」


 そう天宮が問いかけたが、誰も否定しようとはしない。3人は皆この少女が月島なぎさだと思っているらしい。


「ちょっと待って、月島さんはあなたたちと同じ高校生でしょ? こんな……言葉が悪いけど、小学生じゃないでしょ?」


「たしかにそうなんですけど、でも先生、この子の姿は間違いなく小学校のときのなぎさなんです」


「毎日一緒にいたからな、忘れるわけねぇよ」


 愕然とする天宮をよそに、月島なぎさと呼ばれたその少女は目をくりくりとさせてこちらを見ている。


「君は……月島さんなの?」


 秀一がもう一度問いかけた。

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