出会い



 眩しい光が瞼に当たり失っていた意識を取り戻す。

 意識は朦朧としている中、目を開ける。光のせいで目を細めてしまうがぼんやりと景色が見えた。

 樹が真っ直ぐに空へと伸びているが、沢山の緑の葉によりすっぽりと覆い隠されてしまっている。枝葉の隙間から太陽の光だろうものが丁度目にかかっていた。

 首と目線を少し動かし周りを見てみると真上へと伸びている樹から少し距離を置いた場所にまるでこの木を中心に円を描く様に大量の樹々が生えていた。

 どうやら俺はこの広場の様な場所の中心に生えている大樹のすぐ傍で仰向けになって寝っ転がっているらしい。

 訳も分からずに、とりあえず立ち上がろうとした時に身体中に痛みが走る。立てない、動けないという程の痛みではない為そのまま立ち上がるがその痛みにより、朦朧としていた意識が覚醒する。


「ここはどこだ!? 春香、春香!! 蒼汰!」


 そう叫ぶが返事は無く、樹々の葉が風に吹かれ葉擦れた音だけが聞こえる。

 何が起きているかが分からない。春香と蒼汰が鉄筋の下敷きになり、そこから助け出した後救急車を呼んだ。

 その後は確か……二人に球体上の光が二人を包んで、その光に触れてから。


「そこからの意識がない……」


 とりあえず二人の姿を探す。大樹の周りを確認したがいない、広場を一周してみたがどこにもいない。

 二人が先に目を覚まし俺を置いて行ったのかとも考えたがそんな薄情な二人ではない。状況が状況だったし色々とそれはあり得ない。。

 きっと二人はここには元々来ていない……いや、連れて来られていない。

訳の分からない場所・廃工場での出来事などを含めて一つのある結論に至った。


「ドッキリか……?」


 普通に考えると誘拐と大人数の不良対俺一人という時点であり得ない話でもあるし、その後普通鉄筋が二人に落ちるか? いや、落ちない。現実はそんなに理不尽では無い。

 全てモニタ○ング的な番組での撮影で仕組まれた事ならどうだ? そうしたら全てが辻褄が合う。多少過激で蒼汰の殴られ後などは本物臭かったが俺を騙す、ドッキリさせる為ならやりかねない……。

 頭からの血も血糊だったとか……。

 そこから後は俺を気絶・眠らせてどこかの秘境チックな場所に運べば俺のパニックした状況をカメラに収められ視聴率が取れるという寸法か。

 全くふざけている……とてもふざけている。

 だが、そう考えれば考えるほど心が軽くなる。二人は無事なんだと思える。ドッキリで本当に良かった……。

 ともすれば今からの俺の行動は簡単だ。ドッキリに気付いていない振りをして春香と蒼汰を探し出してドッキリ大成功の看板を見せられた後泣きながら二人を抱き締めればこれはもう最高視聴率を叩き出す事も夢ではないだろう!

 身体中が痛かったが二人にもうすぐ会えると思うと力が湧いてきた。


「よし! 気張って二人を探すか!」


 誰もいない広場の中心で独り言を叫び歩き出す。決してどこにあるかも分からないカメラを意識したわけではない。




 大樹には一ヵ所祭壇の様な場所があり、そこから一直線に綺麗に整備された道がある。活き込んだもののどちらに進めばいいか分からなかったが整備されている道があるという事はどこかしらに繋がっていると見てそこを道なりに進む事にした。

 特に曲がる事もなく真っ直ぐの道が続く。歩いている最中は道を挟む様に生えている樹々を見ていたが代わり映えの景色が30分ほど続いた為すぐ飽きた。

 樹の種類を見て今自分がどの県辺りにいるのかを考えてみようとも思ったがまず樹の種類が分からない。気温も少し汗が滲む位には暑いが俺達が住んでいた所とさほど変わらない位だ。

 県内に、または近くの県にここまで綺麗な森はあったかなどと考えていたがここで景色がやっと変わる。

 綺麗な清流とそこを渡る為の橋だ。

 俺は橋の上で歩みを止めてその清流を眺めた。なんの変哲もない清流なら俺も足を止めずにそのまま先程と変わらぬ景色の橋の先へと歩みを進めるつもりだったのだがこの清流あり得ないほど綺麗なのだ。

 水底まで透き通るような青い水、そこに流れる魚達、清流を囲むように置いてある石、全てどれを見ても心を奪われる情景だ。

 俺の知っている日本にここまで綺麗な清流があったか? と思うがまずそんなに俺は清流にも詳しくない。だがそれを見て一つ思う事がある。

 大分、かなり遠くまで連れて来られたかもしれない。

俺がいた県はまあまあ栄えている県でその栄えている市内に住んでいた為まずあまり森や山など無かった。加えてキャンプなどが出来る所も車を1時間も走らせればあるがそこの清流は汚い、とまでは言わないがここほどではない。レベルというか桁が違う。

 世界絶景スポット見たいな番組に出て来そうなほど綺麗な清流な為ここ日本なの? とすら疑いたくなる。

 そんな事を清流を見ながら思ったが、二人の事を思い出し橋を渡り切り清流を後にする。

 その後も30分ほどまた整備された道を歩いていると漸く森の出口付近に辿り着く。

 森の外にも整備された道が続いていそうなのでとりあえずそのまま道なりに行くかと思い森の外に出る。

 そして外の景色を見て唖然とした。

 一言でいうなら大草原。

 なんというかWindowsnoの待ち受けやアルプスの少女ハイジの中に出て来る様な青い空に、大草原。

 ここ、本当に日本なの? そう疑問に思ってしまう。だがそこで現代人の誰もが持っている最強の道具の存在を思い出す。携帯である。

何故一番最初に思い出さなかったのかと思うほどのど忘れであったが今はそんなことはどうでもいい。すぐ様ポケットの中から携帯を取り出しGPSにて居場所の確認と春香達からの連絡の確認、電話をしようと思ったが。

 …………ポケットから出てきたのは二つの包装されたプレゼントのみ。

 廃工場での出来事を思い出し、てきとうな所に携帯を投げ捨ててしまったのを思い出す。

 行動が裏目に出てしまった事にショックと、自分の馬鹿さ加減にがっかりするが無い物は無い、と諦めて道なりに歩き出す。

 そこから30分ほど歩きやっと人がいそうな街が見えてきた。

 今の俺自身の状態は空腹、疲労、喉の渇きなど最低といってもよい。そんな状態の人間が普通街を見かければ喜ぶと思うが俺は今絶望に落とされた様な気分である。

 俺がいる場所から見えるものは街なのだ。民家でも村でもビルでもない。ご立派な壁が横一線に並んで途中で途切れて、角になっているのかここからじゃ分からないが壁付きの街が見える。

 目が覚めてここまで歩いてきたがどれもこれも目新しい物だらけで気持ちの整理がつかない。

 本当にあの街に行けば春香達がいるのか?ここは日本なのか?本当にドッキリなのか?

 沢山の疑問が心に湧いて出て来て立ち止まりしゃがみ込みたくなる。

 だがここで二の足を踏んでも話が好転しないのも事実。立ち止まりたくなる気持ちを抑えて遠くにある街へ向かう。

 そこからしばらく歩き街の入り口まで辿り着く。

 入り口に人が立っていれば色々と話を聞こうとも思ったが残念な事に誰もいない。

 入り口手前から壁を眺めてみる。高さ10m位だろうか……。

 作られて年月が経っているのだろうか所々に劣化が見られた。

 壁を眺めた後入り口を抜け街の中に入る。中はレンガ造りの建物が並んでおり、大通りを挟んで沢山の露店が店を開いている。そこで買い物をする人もたくさん見受けられ街はとても賑わっていた。

 赤、茶、金、色んな髪の色をしている人達が今日の夕飯の食材でも買っているのだろうか。露店の店主と会話を楽しみながら買い物をしている。

 ざっと見るが黒髪は見かけない。ここまであから様だと逆にドッキリでないとあり得ないと思うしかない。

 状況が整理できないがとりあえずここが日本なのか、日本語が通じるのかなど知りたい事が腐るほどあった為目の前を通り過ぎた女性に話しかけてみた。


「すみません。聞きたい事があるのでちょっといいですか?」


 女性の横を並行に歩き声を掛けてみる。


「――――――――」


 人が優しいのだろう。立ち止まった後少し首をかしげるが俺に何か色々と伝えてくれている。

 だが何かなのだ。何を言っているのかさっぱり欠片も分からない。

お互いにお互いの言葉を全く理解できていない状況なのだ。


「I came from japan. Where is here?」


 日本から来た、ここはどこ? と万国共通の英語で聞いてみる。聞き取れる自信はないが国名や、地方名くらいならわかるだろう。


「――――――――」


 何一つ分かりませんでした。このままずっと喋っていてもどうにもならないと考え。ジェスチャーで謝って手を振り反応を逃げた。相手も手を振り返してくれた為、ジェスチャーは通じる様だ。

 その後も数人に同じ様に問いかけて見たもののやはり反応は同じだった。

心が折れてしまった俺はそのまま漠然と街の中を彷徨い人通りの少ない路地の裏を見つけた為、少しそこで休む事にした。

 なんやかんや2時間くらい歩き通しだったせいか足の疲労が溜まっていたので日陰になっている路地の裏でしゃがみ込む。



 1時間くらい座って休んでいただろうか、身体の疲れも少し取れた。そこで今時点で分かっている事を整理する事にした。

 まず今いる所は日本ではない。清流・草原・城壁の中の街・色んな色の髪の人種に日本語も英語も通じない。

 道路には車は走ってないし、なんだったら馬が走っていた。

 ……結論が出ない。いや、こんなのを漫画で見た事はあるがあり得ない。非現実的すぎる。認められない。

 タイムスリップや異世界転移したなんて信じられる訳が無い。俺は高校2年生だぞ?そんなものに憧れている年齢は当の昔に過ぎている。その為俺はそんな可能性を認める訳に行かないし、否定し続けなければならない。

 もし仮にそうだとしても俺の近くに春香と蒼汰がいないのもおかしいだろう。あの光に触れて連れて来られたとしたら二人もいるはずだ。死んだ人間は連れて来られないなんてこともある訳が無い。あの光は二人を包んでいて俺はそれを勝手に触っただけなのだから。

 だけどドッキリなんて思うのはもう無理だろう……。たかだか高校生1人ドッキリにかける為だけにどんだけの金を使うんだ、馬鹿過ぎるだろうと思えてくる。さらによくよく考えてみたらTVで放映するものならあんな喧嘩や主犯の骨を折ったりなんて使える訳もないだろう。

 でも、そうすると二人は…………。

縋るものもなくなり、現状が理解できず今後の方針も決まっていない状態な為、座ってぼうっとしていると路地の中に野太い男の声が響く。


「――――――――!」

「――――――――!」

「――――――――!」


 こんな異国の地でも喧嘩か? と思い興味本位で、どうせやることも無い為声の聞こえる方へ立ち上がり足を向ける。

 入り組んだ路地だったが声のおかげで迷わずに目的の場所へ到着した。

 ガタイのいい男達が3人で1人を囲み怒鳴り散らしているようだ。何をしたんだか、可哀想に位にしか思えず少し離れた場所でこっそり傍観を決める。

 その後も男達は叫び続けるが我慢が切れたのか、1人が囲んでいる人を殴り飛ばそうとする。そこで囲まれている人物の顔が一瞬だけ見えた。

 少女だった。それも幼くまだ10歳そこらだろうと思えるような顔立ちの。その少女はパンを両手いっぱいに持っていたが殴られそうになるとパンを手放し頭を押さえながらしゃがみ込む。

 男はパンチは空振りに終わり、避けられた事に切れたのか声を上げながら少女を蹴飛ばそうとする。

 ただの喧嘩やカツアゲなら見るだけ見てこの場を去ろうと思っていた、助ける義理も理由もないし。俺は正義の味方でも弱い者の味方というわけではない。だが幼い少女が大の男達に怯えているとなると話は別だ。個人的な理由から見過ごす訳にはいかない。……どうせやる事もない、わけではないが行き詰っていた所だし丁度いい。


「お兄さん方ちょっと待てよ!!」


 そう叫ぶと蹴ろうとした足を止め、男達は一斉にこちらを向く。

 ……とてつもなくこちらを睨んでいる。

 正面から見ると3人とも筋肉ムキムキ、ゴリゴリのマッチョ3人だ。そんないかつい大人3人に囲まれるなんて相当に怖かっただろうに。


「――――――――!」


 蹴ろうとしていた男が何かしら叫んでいる。まあこういう時に叫ぶ言葉は大体どの国でも同じだろう。何者だ、とか邪魔をするなとか。だが何を言っていたとしても関係はない。


「3人で1人の少女を痛めつけようとするとはちょっと見逃せないな! 俺が何て言ってるか分からんだろうけど俺が相手してやるからかかってこいよ!」


 と、手でクイクイっと挑発しファイティングポーズを取る。それで伝わったのか指をこちらに向かって歩いてくる。

 ここでこいつらを倒し女の子の持っているパンを少し分けてもらいたい、水を飲ませてもらいたいなど打算的な気持ちだけで助ける訳ではないが今後の方針が決まった。よしさっさとぶっ倒すか!

 全力で走り少女を蹴ろうとした男を殴り飛ばす。


「おらぁぁ! まず一人! ってあら――」


 殴り飛ばしたつもりだったがびくともしていない。首は他所を向いているが目だけはしっかりこちらを睨み飛ばしていた。

 あ、これはまずい……。

 そう思いすぐ手を戻し後ろへ下がろうとするが。


「――――!」


 お返しとばかりに思い切り殴り飛ばされた。身体が宙を舞い意識が飛びそうになるが地面に落下した衝撃で目を覚ます。


(いってぇぇぇ!! 化け物すぎるだろこの男!? まずい、これは非常にまずい! 勝てんぞこれは!!)


 一発貰っただけで勝てないと分かった。いや、1対1なら可能性は無くはないだろうが似たようなマッチョが3人。絶対に無理だ。

勝てないなら逃げる、これに尽きる。後ろの路地を全力で走り抜ければとりあえずはこの男達を撒くことは出来るだろう。だけど、少女を置いて行くわけにはいかない。

 痛みが酷いので寝ていたいが歯を食いしばり起き上がる。そして俺を殴り飛ばした男にもう一度挑発をする。

 気に障ったのか勢いよくワン、ツーと殴り掛かってくる。俺は避ける事のみに専念し最初の一発目の左を後ろに下がりながら避け、二発目の右を出して来た瞬間、全力でその横を走り抜ける。

 男の後ろにいた二人もいきなり走り出した俺に唖然としたのか、俺を掴む手を出すのが少し遅れ間一髪捕まらずに二人の横も駆け抜ける。

 そしてその少し奥にいた少女の元まで駆け寄り、


「ちょっとごめん!」


そういいお姫様抱っこをし右側の路地へ走り出す。


「――――――――!」


 そりゃまあ追ってきますよね……。

走りながら振り返ることは出来ないが男達の怒号と足音が聞こえる。不意打ちで逃げだした為少し男達との距離がある。だが少女を抱えての逃亡の為じりじりと距離を詰められる。

 だが運がいい事にこの町の路地は入り組んだ構造をしている為、右へ左へと曲がり角があれば先も確認せずにガンガン曲がっていった。


「よしっ! これなら撒けるぞ!」

「……………………」


 走りながら呟いたが物珍しい外国の言葉な為か、はたまた誰だろうこの人的な視線を今抱えている少女からの受けた。

 気にする暇も無かったので無視をして走り続ける。2~3分位走っただろうか、男達の声も足音も聞こえなくなった。


「ふぅー。とりあえず大丈夫だろう。よいしょっと」

「……………………」


 男達を撒いた為、女の子を降ろす。逃げている最中も降ろしてからもずっと無言でこちらを見ている少女。俺としてはそんなに見られると何とも言い難い、むず痒い気持ちになるので見ないでもらいたいのだが、そんなことを言葉にしても分からんだろう。

 だからといってまだ危険も完璧に去っていない為置いて行く訳にもいかない。関わったのなら最後まで面倒を見ないと後味も悪いし……。安全な所まで送って行こう。

 そう思い大通りへとつながる出口を探そうと思い歩き出すがなんということでしょう。少女がついてきません。考えてみれば俺はこの少女からしたら見知らぬお兄さん。そんな見知らぬお兄さんが身体を張って少女を守る理由があるでしょうか? うん、ない。そう考えると俺ってこの子からしたら誘拐犯的な目で見られてるの? やだ、お兄さん悲しい。


「あー。なんていえばいいんだろう。オニイサン、コワクナイヨ。イッショニオイデ。」


 何語を喋ればいいか分からない為カタコト言葉でそう言い少女に手を差し出す。誘拐犯の誘い文句みたいになってしまったがどうせ言葉は通じん。笑みを作り手を繋ごうとする。


「……………………」


 こちらを見つめながら手を差し出す少女。そして何を勘違いしたのか俺の手を握るのではなく、俺の手にどこから出したのか扇子を乗せた。


「……………………。なにこれ?」

「鉄扇。あげる」

「ああ、鉄扇か。ありがとう」


 何故か女の子から鉄扇を貰ってしまった。本当になにこれ?ってまてよ。今この子日本語喋らなかったか!?


「待って君! 今何て――――」

「やっと見つけたぞ! おいこっちにいたぞ! 早く来い!」


 そんなやり取りをしていると俺達が走ってきた道から男達の1人が走ってきた。


「やばっ! 追いつかれた! ってあいつらも日本語喋ってんじゃん!?」

「……………………」


 何故皆いきなり日本語を喋りだしたのか謎だったが今は逃げないと。奴さんとてつもなく怒ってらっしゃる。


「またまたごめんよ!」


 女の子をお姫様抱っこし男達とは反対方向へ走り抜ける。そしてまた角を曲がるがなんと行き止まり。

 そのまま行き止まりの奥まで追いやられている内に1人しかさっきまでいなかったのがきちんと3人集まってしまった。

 やり合うのは避けようもなく、やり合えば負けは確定だろう。その後の処遇については分からんがまともな物じゃなさそうな為、なんとしても少女だけは守らなくては。

 少女を降ろし、少女の前に立つ。


「ちょっとだけ聞きたいことあるから少しだけそこで待っててね」  

「……………………」


 ちょっとだけ日本語を話してくれるかな、と期待してたが残念な事に無言だった。その代わりに、


「兄ちゃん。覚悟は出来てるんだろうな?」「もう逃がさねえぞ」「さっきは痛かったぞこら」


 マッチョのお兄さん達が日本語を話してくれた。


「おー怖い怖い。それにしてもお兄さん方、ちゃんと日本語喋れるのなら最初から喋ってくれよ!」

「それはこっちのセリフだ! 訳の分からん異国の言葉で喋りやがって! おちょくるのも大概にしときなに!」


 えー。俺が悪いみたいじゃん。でも言葉が通じるとなると俺の話術で何とでもなる様な気がしてきたぞ! てかやっとまともな会話が成立してめっちゃ今安堵しちゃってる! こんな状況で。


「それで兄ちゃん、後ろの子をこっちに差し出しな。そうすればリンチ程度で済ましてやる」

「あーごめん、それ無理」


 交渉不成立。


「なら力ずくでどいてもらうまでだ! 死ねこらぁ!」


 先ほど俺を殴り飛ばしてくれた男が1人で殴り掛かってきた。1対1なら何とでもなる! そう思い避けようとした瞬間


『左に避けて相手の手を引っ張りバランスを崩した所に膝を顔にめがけて放て』


 不意に低い男の声が聞こえた。男達の声でも少女の声でもない声が。

耳元近くで響いた気がしたので目の前の男を無視して左右に首を振るが壁があるだけだった。

 ならば後ろかと思い振りむこうとした瞬間、俺はまた同じ男に殴られ同じ様に宙に舞うのだった。


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鉄扇使いは成り上がる マルクゥ @maluxu77

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