誕生日前夜



 2018年7月5日木曜日

 突然の告白だが俺と春香と蒼汰は誕生日が一緒だ。三人とも7月7日生まれである為に毎年の誕生日は三人でプレゼント交換会を行っている。今年もあと二日で俺と二人の誕生日が来るのでその日の為に二人のプレゼントを買わないといけないのだがなんとビックリまだ何も用意をしていない俺であった。

 何度か買おうとはしたものの去年一昨年と年々被らないよう注意をしている為、どんどん物の選択肢が減ってきている。それでここまで選べずに引き延ばしてしまったのだがそろそろ不味い。きっと今日あたりに二人からもう買った? とか色々とプレゼントトークが始まる恐れがあるがそこで買ってないなんて言おうものなら春香に何を言われるか分かったものではない。かといってそこで嘘をつく訳にもいかない。


 なので。


「お兄ちゃーん?今日は学校に行かないの?」

「ああ、ちょっと今日は用があってね。今日は休む事にするよ」

「ふーん。そうなんだ」


 えらく物分かりがいい。機嫌がいいのだろう。


「そういうわけだから、蒼汰。頼んだ」


 と、蒼汰に全て投げて二人は学校へと向かった。その後俺も準備をし始めて30分後位に家を出た。

 家から歩いて10分の駅までむかいそこから電車で市内で一番栄えている駅まで向かう。残念なことにまだ何を買うか決まってはいない。いや、ちゃんと何買うかは絞ったがその中から何を買えばいいのかが決まらない為、電車を降り駅と隣接している大きなデパートへ向かう。

 財布・時計・指輪・ネックレスととりあえず4種類に絞ったもののそこからが決まっていない為、デパート内を物色。

 物色していて思ったのがとにかく高いのなんの。安物を買ってもあの二人が喜んでくれる事は分かってはいるが、二人の兄としての意地もあり、格好良く、可愛く、もしくは意味のある物を買ってやろうと思っていたもののやはりそういうものはしっかりとしたブランド名があり、中々にいいお値段をする。

 だが、高いなどとは言ってられない。春香には俺がバイトでいない時など不安にさせたり心配をかけている。蒼汰はそんな春香に付き添って不安や心配を取り除いてくれている。何より俺は二人の高校祝い品を買っていない為なんというか気持ち的な面での負い目を感じる!

 とそんな理由でLとVが合体したような財布を買おうと思い店に行き物を選んだ所、財布の中身が足りるはずなく泣く泣くATMへ直行した。


(バイクローン一括返済の為に貯めた貯金達よ。俺は背に腹は代えられない状況に陥ってしまっている。だが理解して欲しい、二人の為なんだ! 理解してくれ!)


 と泣きながら大量の諭吉を引き下ろした

そして大量のお金を持ち例の店に向かっている時にまだ寄っていないアクセサリーショップがあり何故か目についてしまったので少しだけ寄ることにした

 その店は所謂パワーストーンを扱っておりパワーストーンでオシャレなアクセサリーを作っている店らしく、中々いい感じのデザインの物があった

石にも一つずつ色々な意味があるらしく、その意味の一覧のような物を見ていたら二人にぴったりな石があった。

 俺自身ハッキリ言って何一つそういうものは信用はしていないが俺がそうなだけであって二人は分からないし石の意味を伝えて二人にアクセサリーを渡せばその意味を意識してきっと生活してくれる。 そうなればある意味石に効果があるとも言えるし何より綺麗なパワーストーンのネックレスを付けている二人を想像するととても合っている。


(財布よりも遥かに安いしな)


 と、冗談交じりに半笑いしてしまうほど、色々とただのいい財布よりも意味があると思った為店員さんに二つの石の男性用と女性用ネックレスをプレゼント用に包装して貰うようお願いした。


(二つとも違う意思で色も若干濃ゆい薄いはあるが遠目から着けているの二人をカップルと間違えそうだな。ある意味では魔よけの役目も果たしてくれるのか)


 とまたまた半笑いしている所で包装が終わったらしく店員に呼ばれた。変な所を見られてしまった、恥ずかしい。

 そんなこんなで二人のプレゼントを買いデパートを後にしたが現在昼の12時、小腹が空いた為駅内にあるラーメン屋へと向かった。

 バイト先が駅近辺の為バイト前や終わりによく行くラーメン屋で謂わば行きつけの店、ならば駅に寄った際に食事をするのはそこだと俺に深く関わってる人なら誰でも知っている。

 きっとプレゼントを決めきれず先延ばしにした事が原因だったかもしれないし、今日そのラーメン屋に寄らなければまた未来は変わったのかもしれない。

 店に着き中に入ると見覚えのある3人がいた。目が合ったが面倒事になりかねんと思った俺はそれはまあ華麗に無視を決めた。

 だが奴さんはそういう訳にはいかないらしい。


「何無視してんだこら! 日曜の件で礼がしてぇからちっと表出ろや!」


 と、日曜日に絡んできた子猫ちゃん3人に再び絡まれてしまった。何故このラーメン屋にこの時間にいたのかは気になるがとりあえずそれを考えるのは後にし、言われたまま店の外に出た。


「どちら様?」


 とりあえず手荷物もあるし何よりさっきまで色々とスムーズに行っていた為とても機嫌がよかった。その機嫌を悪くしたくない為ここは知らぬ存ぜぬで通して事無きに終えたい。


「ふざけてんじゃねぇぞ!」


 と3人組の一人が蹴りをかましてきた。

 痛いのは嫌いだ。蹴られたくないから横に避けたが手に荷物を持っていることを忘れていた。蹴りがプレゼントが入っている袋に当たってしまった為、そのまま袋が破けプレゼントが床に落下した。包装自体は破けてなさそうなのでとりあえずはプレゼントに関しては大丈夫そうだが機嫌は大丈夫じゃなかった。


「あーとりあえずここじゃ目立つし駅の外の高架下に行こうや。不良辞めさせてやるよ」


 そう告げプレゼントを拾った後駅の外へ向かい人通りの少ない高架下までいった。

 3人組と少し距離を開け水平に歩いた。横にいる奴が先ほど蹴りをしてきた茶髪、その横がリーダーらしきやつで店の中に声を掛けてきたピアス野郎、その横の奴は短髪で全員身長が180cm超えていて俺よりも5cmほどでかい。

 ちらちら横目に睨まれながら歩き、少し冷静になり何故こんなに恨まれているのかと疑問に思った為不良達へ声を掛けた


「お前達なんで待ち伏せまでして俺に絡んでくるわけ?」


「うるせぇ! 話しかけんなくそが!」


 相当恨まれているらしい、とここで高架下までたどり着いた。


「まあお前達が俺の何が気に食わないか知らんがお前達のせいで俺はすこぶる機嫌が悪い、礼がしたいならさっさとこい」


 と、プレゼントと上着のシャツを邪魔にならない所に置き相手の動きを待った。

 前回は一人ずつ来てくれたが為ゆっくり一人ずつ倒してあげたが学習したのか3人で殴り掛かってきた。


「すかしてんじゃねぇぞこらぁぁ!」「死ねやこらぁぁ!」「うらぁぁ!」


 と勢いよく来たが俺の最初の目標は決まっていた。

 素早く大きく左に避け、空ぶった3人の一番左にいた袋を破いた茶髪の顎を思い切り蹴り上げた


「舌噛んで死んだらごめんな!」


 顔が上へ強制的に向けられ怯んでいる所にパンチを一発、そのまま後ろのリーダーに抱き着くような形で吹き飛んだ為リーダーももたつく。その間に右側で遊んでいた短髪君の鼻に頭突きを決めてそのまま後頭部を掴みリーダーの顔へ向けてぶつけた。

 その一発で短髪君は鼻を抑えながらうずくまり、茶髪はうつ伏せで倒れている。

 リーダーは鼻血を出しているが距離を取りこちらを睨みつけ叫ぶ。


「くそが、お前等何してんだ!さっさと立てや!」


 叫んだおかげかうずくまっている短髪君は立ち上がろうとしたが、そんなの許すわけがない。


「もうちょい寝ててくれや」


 短髪君に前蹴りを決め尻もちをつかせた所にそのまま上がった足で踵落とし。そのまま地面とキスをする形で倒れその後動かなくなりそれを見たリーダーは慌てふためきだす。


「くそっ! 使えねぇ! お前なんて俺一人で十分なんだよぉー!」


 叫びながら走り出し左、右と殴りかかってくる。つくづく思うがよくもまあこんなのが腐るほどいるがよく色んな高校で番長が務まるもんだ。後ろに下がりながら、空ぶらせた所に腹部に蹴りを一発.。

 宙に浮き尻もちをつかせ苦しんでいる顔に膝を一発。そのまま勢いよく仰向けで倒れた。


「色々と聞きたいことはあるけどとりあえずどうする?まだやる?俺としては疲れたから帰りたいんだがまだやるということなら腕の一本ずつへし折って帰ろうと思うんだが」


 そこまでされれば不良を辞めるかどうかは置いといてもう二度と絡んで来ないだろう。

 質問したはいいが一向に返事が返ってこない。取り巻きの二人は呻きながらうつ伏せに倒れている。リーダーに関しては仰向けで倒れてはいるが目は空いている為倒れている所まで近づき声が聞き取りやすいようしゃがみ込む。


「どうする? まだやる?」


「……やりません」


 その言葉を聞きやっと帰れると安堵する。


「じゃあ俺帰るから。もう二度と絡んでくるなよ」


 そう告げ寝転がる3人の不良達を高架下において帰路についた。この時には明後日どうやってプレゼントを渡すしか頭にはなかった。二度あることは三度あるとは考えもせずに。




 その後は家にたどり着いた後二人が帰って来るのをいつも通り待ち帰ってきた二人に何故サボったのかを聞かれたりプレゼントを買ったのかどうかや土曜日は何時から集まってケーキを食べてプレゼントを渡しあうかなどを話し合った。とりあえず心配を掛けたくもない為今日不良達に絡まれたことを伏せ今日何していたかは適当にごまかした。


「でもお兄ちゃんがもうプレゼントを買ってる事に私はビックリしたな~!」

「そうだよね、亜紀さんいつも基本前日だったりするし一回買い忘れてそのままみんなで買いに行ったことなんかもあったよね」

 

 確かにそんな事も何度かあったりしたがこの二人は俺を何だと思っているんだ。


「昔は昔、今は今だ。そんな昔の事を掘り下げてばかりだとモテないぞ、蒼汰君」

「ばっかだなぁお兄ちゃんは。蒼汰君は学年一のモテ男だよ!顔・性格・頭脳・何をとっても高水準の男がモテないわけないじゃん! 顔しかないお兄ちゃんとは違うんだよーだ! 蒼汰君! こんなヤンキーで近寄りがたい雰囲気のせいで欠片もモテてない男の言うことなんて説得力ゼロのなんならマイナスのうんこみたいな物だから全然聞き流して、なんなら無視してもかまわないよ!」

「酷過ぎるでしょ!? 蒼汰ぁ! 何をした! こんなに機嫌が悪いなんて聞いてないぞ!」

「僕は何も」

「そうか、てことは女の子の日か。仕方ない、なにか落ち着くものを持ってkうごぉぉ!」


 ソファーに座って話しかけていたら鬼の顔になっている春香が顔に向けてクッションをぶつけられた。


「馬鹿! アホ! そういう所だよ、もう!」

「まあまあ落ち着いて、亜紀さんもそんな発言ばかりしてると春香ちゃんに嫌われるよ?」

「大っ嫌いだからこんな馬鹿!」


 情緒の起伏が激しい妹。だがこうなると後々面倒な為機嫌を取っとかないといけない。


「ごめんごめん、明日バイト終わりになんか春香の好きな甘い物買ってくるから嫌いにならないでくれ。蒼汰もなんかいるだろ?ついでに買ってくるから食いたい物あるか?」


 マイスイートエンジェルの顔が一瞬笑顔になるがすぐしかめ面でほっぺを膨らます。可愛いやつめ。


「駅前にあるおいしいクレープ買ってきて」

「あ、そういうのね。なら僕は近くにある店のカスタードの鯛焼きで」

「ちょっと待って、そういうのなんだ!? もっと手軽に持って帰ってこれるコンビニのスイーツにしてよ!?」


 クレープと鯛焼き両手に俺は電車に乗り家に帰らなければならないのか、もうそれ違う罰ゲームじゃないか。


「それじゃないと許さないから。蒼汰君も妥協してお兄ちゃんに楽させたら怒るからね」

「亜紀さん、責任をちゃんと取って春香ちゃんの機嫌を7日までに元に戻しといてよ」


 理不尽過ぎる気がしたがよくよく考えれば自分で蒔いた種だ。その種が速攻芽を付け開花するとは思わなかったが仕方がない、きっちり責任を取ろう。


「わかったわかった、鯛焼きとクレープな。ちゃんと買ってくるから帰って来た時に二人とも寝てたり帰ってたりして結局俺が食う羽目になるとかだけはやめてくれよな」


「「それは約束は出来ないかな」」


 甘やかし過ぎたと心から思うのであった。





 2018年7月6日金曜日


 朝、目が覚めまず一番最初に学校に行くか悩んだ。今日はバイトの日でもあり、出席日数的にも休んでも平気な為だ。だが昨日の春香と蒼汰とのやり取り、主に春香だが機嫌を取っておきたいと思った為しゃあないと割り切り登校の為の支度を行う。


「あ、今日バイトなのにちゃんと学校へ行くんだ。まあ行かないなんて言っても今日は気分的に許さなかったんだけど」


 朝の選択は正しかったと思いとても安堵した。


「当たり前だろ?バイトの為に学校を休む奴がいたら何の為に高校に入ったと思ってるんだと俺が説教してやるよ」

「僕もそんな人見かけたらそう説教してあげますよ」

「今日は早いな蒼汰。もう来ていたとは知らなかったよ。それはそうとさっきの言葉はそんなありがたい言葉じゃないから忘れてもいいんだからな」


 そんなに睨んだら怖いじゃないか蒼汰。サボった時の春香の面倒を見させているのをそんなに根を持っていたのかい?


「そんなことはどうでもいいからさっさとご飯食べてよね!あんまり時間ないんだから!」


 そう言われ時間を見ると7時30分。もう15分もすれば家を出る時間だ。俺はともかく二人を遅刻させる訳にもいかない為急いで朝食を済ませ家を出た。


「そう言えば、お兄ちゃん忘れてないよね?」


 学校へ向かっている最中、不意に聞かれた。当然忘れてないとも。


「ちゃんと買ってくるから二人ともちゃんと起きてろよ。10時過ぎ位になると思うから」

「……ちゃんと今日は一緒に学校行ってくれてるから仕方ないなぁ。起きててあげる!」

「春香ちゃんがそういう事なら僕もちゃんと待っているよ」

「よし、ならバイト終わりダッシュで帰って来てやるからな!楽しみにしててくれ!」


 そう話していている所で学校に辿り着いた。


「うん!楽しみにしてるから気を付けて、早く帰って来てね!」


 満面の笑みでそう告げられ、二人と別れた。

 そしていつも通り授業を受け、あっという間に帰りの清掃の時間になるが、いつも通りサボりバイト先へと向かう。

 17時からバイトの為学校が終わるとすぐにバイト先へ向かわないと行けないので平日のバイトの日は基本帰りは二人とは別々に行動する事になる。

 いつも通り手ぶらで学校を後にし電車でバイト先近辺の駅まで向かいそこから徒歩でバイト先まで向かう。

 バイト先は普通の小さな喫茶店でそこで料理やコーヒーを作り提供するだけの簡単な仕事で平日は人もあまり来ない為ありていに言えば暇だ。

 その日もいつも通り21時まで就業し、そこで閉店の為その後の片付けを店長に平日はいつも任せて帰路につく。

 そこで忘れてはいけないのが二人へのお土産だ。しっかり忘れずにクレープと鯛焼きを買いに行き両手にスイーツという状況で電車に乗る。

 乗りにくいったらありゃしない……

 21時45分、家の前まで着いたが部屋に明かりがついていないのを確認する。嫌な予感がした。


(あれだけ寝るなといったのに寝やがったな! 叩き起こしてやる!)


 そう活きこんで家の中に入ったがやはりどこの部屋も明かりがついていない。それどころか春香の学校の指定靴もない。

 基本、春香はこの時間帯は外に出ない。出るにして必ず蒼汰か俺を連れて出るように伝えてあるし蒼汰と出る場合は必ず連絡をするようにさせてある。

 とても嫌な予感がした。急いで春香の部屋の前まで行きノックするが反応もない。勝手に部屋に入るのは気が引けるがそんな事を考えている暇はない。部屋に入り中を確認するが部屋内に春香はどこにもいない。春香の制服と鞄の在りかを確認したがどこにもない。

 リビングへ行き置手紙があるかもと思ったが置手紙もない。携帯のほうにも何一つ連絡もない。

 春香に何かがあった。きっと蒼汰にも。

一度深呼吸して落ち着き手に持っている物を皿を取り出し置く。その後春香の携帯に電話をかけてみた。何があったかは分からないが帰ってる際に二人に何かがあった。交通事故の類なら病院なり警察や母から連絡があると思うが連絡がないということはそれ以外の何かが起こった。

 繋がるか不安だったが電話をかけて3コールもしないですぐ繋がった。


「春香! 今どこにいるんだ!?」


 声を荒げ、そう伝え返事を待つ。その返事を聞き安心するつもりだったが想像と違う返事が来て背筋が凍った。


「今はなぁ○○市の○○っていう廃工場だよぉ! 常葉亜紀お兄ちゃーん!!」


 男の声が聞こえその声の周りから笑い声の様なものが聞こえた。

 その声に聞き覚えがあった。それもそうだろう、昨日出会った不良達のリーダーの声なのだから忘れるはずもないだろう。携帯を握る手に力が入り、今にも携帯を握り潰しそうになる。


「何でお前が春香の携帯を持っている」


 冷静に情報を引き出して二人を助けに行かなければと思うが喋る口が震え、まともに喋れているかの自信がない。


「それは仲良く歩いている二人を見つけたから攫ったに決まってんだろぉ! お前からの連絡をずっと待ってたのに連絡するの遅いんもんだから暇つぶしにイケメンの男の子をいじめっちゃったじゃんかよぉ~。ぜ~んぶ亜紀お兄ちゃんが悪いから悪く思わないでくれよなぁ!」


 汚い声が聞こえる。頭の血管が切れそうになるが落ち着け、まだ今じゃない。


「目的は何なんだ? 金か?」

「お前に決まってんだろうがぁ! こちとらお前に二度も負けて居ても立っても居られねぇんだよぉ! お前の大切な妹ちゃんには手を出してないから安心しな。今からお前が一人でここに来るっていうんならこのまま何もせずに妹ちゃんとイケメン君は返してやるよ。でも警察やらに連絡してみろ、お前の大切な二人がどうなるか知らねぇぞ~?」


 またもや周りからの笑い声が聞こえる、その声を聞くたび心と体が震える。


「二人の声だけ聞かせてくれないか?頼む」


 そう懇願し、声だけ聞かせてもらった。


「お兄ちゃん?」

「春香、ごめんな。不甲斐無くて悪いお兄ちゃんで本当にごめんな。酷い目に合わされていないか?」

「私は何にもされてないよ。でも、でも蒼汰君が。助けてお兄ちゃん、助けて」


 声が震え涙声になり、少し枯れていた。きっと蒼汰を守る為にたくさん叫んだのだろう。


「怖い思いをさせたな。大丈夫、今すぐに助けに行くから。必ず助けて見せるから待っててくれ」


 そう告げ次は蒼汰に代わった。


「蒼汰。ごめん、俺のせいで」

「僕こそごめん亜紀さん。二人で帰っていて春香ちゃんを守れなかった。亜紀さんのせいってのは全面的に肯定するけどそれでも春香ちゃんを守れなくてすみませんでした」

「いや、蒼汰のおかげで春香は何もされていない。身を張って春香を守ってくれたんだな。ありがとう。春香を蒼汰に任せて本当に良かったと今状況が状況なのにそう思っちまったよ」

「本当だよ、人生でこんなに殴られたの初めてなのに。全く亜紀さんはこんな状況なのによく言えるよそんな事」

「今すぐ助けに行く。まだ春香を守れるか?」

「任せてよ。何があっても守って見せるから、すぐ助けに来てよ」


 そこで不良にすぐ来いと言われ電話が切れた。

 笑い声からして結構大量にいることがわかった。春香は蒼汰が守ってくれた事も分かった。蒼汰には当分頭が上がらなそうだな。

 そう考えながら制服から急いで私服に着替えバイクのカギを持つ。

 家のカギも閉めずに飛び出し駐輪場まで行く。ポケットの中に二人のプレゼントを入れっぱなしになっていた事に気が付いたが置いていく時間もない。


「必ず、何をしても助け出してやるから、待っててくれ」

 

 そう一人で呟きバイクのエンジンをかけ二人が待つ工場まで急いで向かった。


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