鉄扇使いは成り上がる

マルクゥ

序章 現実世界

俺達の日常



 2018年7月2日月曜日


 朝六時半、携帯のアラームが鳴り響き俺の意識を覚醒させる。

 アラームを止め携帯を確認し今日が2018年7月2日月曜日だということを認識する。

 部屋の扉越しにリビングの方が騒がしいのが聞こえたため母と妹の常葉春香が起きている事に気が付いた為、部屋着から制服に着替え洗面台で身だしなみを整えリビングへ向かう。

 家族に挨拶を告げ自分の席へ着きテレビでやっているニュースを確認する。その間に出てきた朝飯を食べていると母が仕事へ行く為に家を出て行った。


「今日は珍しく朝から学校へ行くんだね、お兄ちゃん」

「何時もは朝から学校に行かない不良みたいな言い方はしないで欲しいな」

「だって不良じゃん」


 そうはにかむ笑顔で笑いかけてきたのは妹の常葉春香だ。年は15歳で同じ県内の公立高校に通う一つ下の妹だ。


「あのな春香。確かに俺は朝から登校できない日は沢山あるけどそれは色々と事情があってだな」

「バイクのローンの為にバイトしてるんでしょ?知ってるよそんなことくらい。けど考えてみたらバイクって不良の乗る物じゃん。てことはお兄ちゃんも不良じゃん?不良ってバカだから嫌いかな」

「待て春香!それはとてつもない偏見だ!健全なバイク乗りだって沢山いるし、てかほぼほぼのバイク乗りは真面目で決して不良ではないんだよ。だからお兄ちゃんを嫌いにならないでくれ」


 ここでこの偏見を解いておかないと今後春香に関わるバイク乗りの人間が全てが頭の悪い不良扱いされてしまう。決して俺の為ではない。


「んーそこまで言うならバイク乗りは健全ってことで認めてあげる」

「理解ある賢い妹で俺は嬉しいよ」

「でしょ?でもお兄ちゃんはその健全枠から除外の不良枠だよ」

「なんでこうも俺の妹は馬鹿なのかな!」


 涙が出てきた。


「自分の胸に聞けばすぐ答えが出るでしょ?」


 胸に手を当て心臓の鼓動を聞いてみた。しかし答えは出てこない。


「胸に手を当ててみたが何もわからん」

「昨日のお兄ちゃんの予定を言ってみて」

「8時起床、10時から21時までバイトして23時に帰宅」

「21時から23時の間にちょっと不思議な空白時間があると思うけど馬鹿な私に教えて欲しいなぁ」

「……子猫ちゃん達が戯れてきたからじゃれてたんだよ」


「わぁ! いいな~。私も身長180cmの大きな雄3匹の子猫ちゃんと遊びたかったな~!」

「毎度思うけどなんで春香はお兄ちゃんのことを何でも知ってるんだ!」


 ストーカーの才能がある妹なんてお兄ちゃんは春香の将来が不安だよ。


「蒼汰君とお兄ちゃんを迎えに行ったら喧嘩してたからその一部始終を見て。でも隠すなんて酷いな、信用ないな~」

「みんなに心配かけたくなかったんだよ」

「誰もお兄ちゃんの心配なんてしないよ。てかたまにはボコボコのボロボロにされて帰ってきてよ」

「ひっど! なにそれ!? 酷過ぎない!? 前後半の文章どっちも傷つくんだけど!? もう心がボコボコのボロボロだよ!」


 えっ? リアルな感じで妹に嫌われてた感じ?原因作り出した昨日の不良達次あったら腹いせにこの世に生まれた事を公開するほどの地獄を見せてやろう。


「お兄ちゃん喧嘩強いし心配するだけ無駄なんだもん。でも強いからこそ喧嘩の連鎖が終わらないから私はお兄ちゃんにボコボコに負けてもらってその連鎖を終わらせてほしいだけなんだよ」

「理屈をこねた結果は?」

「美形のボコボコの顔って最高に面白いとおもうんだよね!」

「美形って言ってもらえてお兄ちゃん嬉しいよ。例えクズな妹であっても」

「結論から言うとお兄ちゃんは不良で私はクズって事ね。納得した」


 納得しないで欲しい。マジ泣きしちゃうから。

 そんなこんなな話をしているとピンポンとインターホンが鳴った。


「私出るよ」


 そういい玄関まで春香は小走りで駆けて行き玄関を開けた。


「おはよう春香ちゃん。亜紀さんは?」

「リビングで泣いてるよ」

「ははは。また亜紀さん泣かせちゃったんだ。ほどほどにしないと大好きなお兄ちゃんに嫌われちゃうよ?」

「大丈夫! お兄ちゃんは何があっても私を嫌いにならないから!」


 微笑ましいやり取りが玄関口から聞こえてくる。朝の会話といいこの風景といいいつもの日常だ。


「おはよう蒼汰。立ち話もなんだし家の中に入りなよ」


 俺も玄関に向かい蒼汰にそう声をかけ3人でリビングへ向かう。




 時刻は7時30分、朝飯も食べ終わりリビングでくつろぐ3人。

 俺と春香は勿論のこと黒木蒼汰も俺たちと同じ高校に通う学生だ。年は春香と同い年で同じマンション内に住む幼馴染。とても幼い時からの付き合いな為交流が深い。

 喧嘩や夜遊び等の補導されるような事をしない正に健全な学生の為に俺が朝から学校に行けない日や学校自体に行かない日に春香との登下校を任せている。

 傍目から二人を眺めているとお互いに容姿端麗でスタイルもいい為これぞベストカップルと思ったこともある。

 春香は腰まである長く綺麗な黒髪にまだ幼さが残っているがぱっちりした目と高い鼻、出る所は出てはいないが細長く綺麗な足、兄目線で見ても完璧に美少女だ。

 蒼汰は茶色のウェーブのかかった髪形に切れ長な目にハーフを印象付ける顔つきをしている。背も15歳ながら175cmと高めで細身だがスタイルのいいイケメンである。

 そんな美少女の横にイケメンが毎朝登下校中に一緒に歩いているとなるとよほど自分に自信があるやつか馬鹿じゃない限り春香に声をかけるやつはそうそういない。

 蒼汰がいるおかげで俺もバイトに精が出せるってもんだ。今度お礼しないとな。

 そんなことを考えていると7時45分を回りかけていたので二人へ声をかけて学校へ向かうことにした。


「月曜というこの世全ての民が嫌う曜日だが今日も元気よく学校に向かうとしよう。二人とも学校行く準備はできてるかー?」

「私はとっくの昔に準備は完了しててお兄ちゃん待ちだったんだよ?」

「僕も亜紀さん待ちだと思ってたよ」

「俺なら朝から着替えてたし傍から見ても準備は完了してただろ?」

「「鞄は?」」

「そんなもんは持って帰ってきていない。学校に置いてるから問題ないだろ」


 沈黙が流れる。


「……やっぱ不良じゃん」


 ぼそっとつぶやく春香。


「学生の本文は勉強で勉強は学校だけではなくしっかり自宅での予習復習が大事であって――」


 と説教を垂れる蒼汰。


「みんな準備できてるなら問題ないからさっさと行くぞー」


 それを無視する俺であった。






 通学方法はいたって簡単、マンションを出て30分かからない位を歩けばあらびっくり学校に到着。

 校門近くになると人が増えてきて俺達3人に注目する人が増えてきた。


(仕方はないか。俺の横にいるパーフェクト高校生カップルを見たくなるのは人としての性。だがしかし俺は知っている、二人がそれを煙たがっている事実を。ここは可愛い二人の為に俺が体を張って守ってやろう!)


 周りでちらちら視線を向けていた人達を一人一人ゆっくり睨み回した。

 すぐ目を逸らしこちらを見なくなった人々がほとんどでその結果に満足そうな顔をしていた俺の耳にふと不思議な言葉が聞こえてきた。


「やっば睨まれた! 今日の常葉さんはやっぱり機嫌が悪そうだよな。ていうことは昨日の夜、✕✕高校の番に絡まれたって本当かもな」


 なにそれ常葉さんそんな噂は初耳なんですが。あとさっき見られてたのは二人ではなくまさか俺なのでは?

 校門を過ぎ校舎に入る前に二人に声をかける。


「あんまり気にはしていないけどさっきふと聞こえたんだが俺ってなんか変な噂が流れてない?」

「めっちゃ気にしてる顔してるよ? いつも派手に喧嘩ばっかりしてるから色んな人に見られてるんじゃない? お兄ちゃん不良で学校内で有名だし」

「そういえば昨日も夜遅くにクラスのLINEグループで亜紀さんが他の高校の番格を倒したとかなんとかってメッセージが回ってたかな。気を付けた方がいいよ、先生とかの耳に入ると停学とかもありえることだし」


 なるほどな、大体状況は理解した。俺の喧嘩の現場は見られることもあり、昨日の喧嘩は偶然見られていたと。そしてそれは結構回ってると見た方がいいな。そして俺は不良で有名でさっきは色んな人をガン付けながら歩いたから俺の悪評はさらに高まる一方と。


「春香と蒼汰は友達やクラスの人になんか言われたり、いじめられたりはしていないか?」


 校舎内に入り、階段を上りながらシリアスな顔で二人に問う


「大丈夫だよ。お兄ちゃんはシスコンの変態野郎で通っているから妹の私にちょっかいかけてくる人は誰もいないよ!」

「僕もそんな春香ちゃんと仲良くしてるから誰も何も言ってこないかなー」


 うーんなんだろうこの気持ちは。とても言葉では言い表せないけど一言いうなら残念かな。


「俺のこの学校での印象がどうなってるのか怖くなってきたよ」

「不良で喧嘩っ早くてシスコン変態サボり魔かな?」

「俺がクラス内でいじめられそうで不安になってきた!」

「亜紀さんにそんなことできる人はこの学校内探しても誰もいないよ」


 そんなこんなの話をしていると3階まで上がってきた。

 2階が3年生の教室、3階が2年生の教室、4階が一年の教室となっている為、二人とはここで別れる事になる。


「じゃあ着いたからまた放課後な」

「蒼汰君、賭けしよ! お兄ちゃんが放課後まで学校に残ってるかで当てたらジュースね! ちなみに私はお兄ちゃんが途中でバックレるに賭けます!」

「僕もそっちに賭けたいんだけどな。仕方ない、負けるとは思うけど僕は放課後まで残っている方でいいよ」


 まったくふざけた二人だ。俺を何だと思っている。


「妹よ、俺がバックレないからって放課後キレないでくれよ」


 そう言い残し俺は教室の方へ向かっていく。

 廊下を歩き進み教室の中へ入るとクラスメイトからの視線が向けられすぐその視線は外された。

 窓際の一番後ろが俺の席の為そこへ向かい席へ座る。

 何人かのクラスメイトが俺の元へ来て軽く談笑をしチャイムが鳴り響く。

 担任がやってきてHRが始まり、色々な連絡事を伝えられ授業が始まる。いつも通り真面目に授業を受けて気が付いたら昼休みへと入っていた。


 ピンポンパンポーン。


 昼食をクラスの友人達と取りながら談笑を行っていると学内放送の音が鳴り響く


『2年〇組常葉君、直ちに職員室まで来てください。繰り返します。2年〇組常葉君、直ちに職員室まで来てください』


「……呼ばれてしまった。ごめんな、ちょっと行ってくるわ」

「昨日の喧嘩の件だろ!? しっかりしぼられて来いよー!」


 職員室に呼ばれたおかげで周りで一緒に昼食を食べていた友人達に笑われながら、教室を出て職員室の方へと向かって行く。

 職員室に呼ばれるのは今回に限ったわけではないが、やはり職員室に向かう足取りは重くいつまでたっても慣れない。

 謂れもない事なら足取りも軽くなり、なんだこのぐらいの意気込みで行けるのだが悲しい事に思い当たるふししかない。


(十中八九昨日の喧嘩の件だろうな。毎回喧嘩をするたびに職員室に呼ばれているから、学校中に言いふらしている相手と先生方にその情報を流している人物は多分同一人物だろう。それにしても怒られると分かって いながら職員室に向かうのは気が向かないな)


 そんなこんなを考えていると職員室に着いてしまった。

 そのまま職員室へと入り、生徒指導の先生の元へと向かう。


「2年〇組常葉です。何の用でしょうか?」


 生徒指導の先生の前に立ち職員室に呼ばれた理由の聞いた。


「何故呼ばれたか分からないか?」


 見当はついてはいたがしらばっくれることにした。


「皆目見当もつきません」


 生徒指導の先生の眉がひそめる。


「7月1日の20時頃何をしていた?」

「バイト帰りの時間帯で帰っている最中に子猫3匹にじゃれつかれてしまったので猫達と遊んでいました」


 先生の目が一度閉じてから俺の目をしっかりと見つめてきた。


「その時間帯にお前が〇〇高校の3人組と揉めているという情報を生徒からの告げ口で情報を入手した。勿論言い訳するようならそれが出来ない様に証拠を見せつける準備も出来ている」


 しっかり裏を取られていて言い逃れが出来る状況ではなかった。 先生は俺の目を見続けながら言葉を続けた。


「本来なら停学処分物だが、そんな事をすると残念なことにお前が何をするのかわからない」

「失敬な。先生方にも告げ口をした人にも俺は何もしないですよ」


 まあ原因を作り出した奴には何かをするのだが。


「とりあえず停学は無しにしても罰を受けないというわけではない。お前夏のプール開きの為にプールの清掃しろ。そうだな今週の日曜日の朝から頼むよ」


 そんなこんなで今週の日曜日はつぶれることが決定してしまった。25mプールな為丸々1日かかるだろう。肩を落としながら教室に戻ってると階段の踊り場にある人物が待っていた。


「停学おめでとう。やっぱり不良で確定だね」


 可愛い妹だ。俺が心配できっと待っていたんだろう。


「そんなに俺が心配なのか、可愛い妹だ。そんな君には一緒に今週の土曜日にプールを清掃する権利を与えよう」

「色々と文章が繋がってないんだけどとりあえず停学ではなさそうだね。つまんなー」


 そう不満げに呟くが清掃を嫌とは言わないあたりやはりいい妹だ。


「停学なんて不名誉を俺が受けるわけがないだろうに。俺を誰だと思っているんだい」

「不良で喧嘩っ早くてシスコン変態サボり魔のクソヤローだよ!」

「なんでそんなに不機嫌なの!?ちょっと辛辣じゃない!?」

「ちょっと心配してたのになんか元気そうだしいきなり人に仕事押し付けてくるしなんかイラっとしたから」

「心配させてごめんな。抱きしめてあげるからおいで」


 そういって手を広げおいでとマイスイートエンジェル春香ちゃんへと呟く。


「バッカじゃないの!? 場所考えてよ! 人に見られたらどうするのよ!?」


 めちゃめちゃ怒られた。


「大丈夫。朝蒼汰が言ってた様に何か思われても俺に直接言ってくるような人はそういないから」

「私がいろいろと言われるの! いじめられたりしたらどうするのよ!」 

「そうはならんさ。何故かって? 春香は美人だからさ!」

「もう、わけわかんない。とりあえず停学じゃなくてよかったよ。じゃあとりあえず家でね」

「何故家? 放課後でいいじゃん」

「私蒼汰君と賭けをしてるから、お兄ちゃんに途中で帰って貰わないと困るんだよね。だから途中で帰ってよ」


 なんて妹なんだ。この妹のせいで俺は不良になったに違いない。


「んーとりあえず授業には出とかないといけないけど、まあなんとかしとく」


 妹に甘すぎないかって? そりゃあ世界で一番可愛い妹だ、甘やかしたくもなる。


「そういうことだからまたね」


 そう春香と別れを告げ、教室へ戻る。


 教室では食いかけの昼飯を食べ、友人達に呼ばれた理由や処分について聞かれているうちに昼休みが終わり午後の授業へと移っていく。

 午後も真面目に受けて6限目が終わった。これからHRと清掃を行ってくと言う流れになるが、春香の言葉を思い出しそそくさと帰宅することにした。俺は基本鞄を持たずに手ぶらが登下校するのでその辺をふらついていても割と不自然に思われない為、普通に靴を履き普通に校門を出た。

 今日はバイトもない為夕飯作りは俺の役目。その為家に帰る前に近場のスーパーへより食材をいくつか買った後家に帰宅する。

 きっともう10分~20分もすると春香が帰宅しすぐ蒼汰も家に来るだろう。

 二人が帰ってくる前に食材を片付け、部屋を掃除器で綺麗にしてテレビを付けソファーでだらけるて二人を待つ。如何にも学校をサボってダラダラしていました風を装う為に。

 きっと蒼汰に小言を言われるだろう。それを笑って見ている春香がいて言い訳をする俺がいる。

 大切な日常だ。いつまでも続いてほしいと思うほどに。

 そんな事を考えていると春香がただいまと告げ帰ってきた。ジュースを持っている所を見ると間もなく蒼汰も機嫌を悪くしてやってくるだろう。


 面倒くさいが言い訳を考えるか。


 と無駄な努力をしたがすぐさまやってきた蒼汰にこっぴどく小言を貰い、一日が終るのだった。

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