第16話 放棄
大声でヴィラモの愛称を叫び、駆け寄るひょろひょろの男。周りと同じ黒い服を着て、腕には真っ白なギプスを着けている。
「あ、ジェルワン。生きてたんだ。相変わらず酷い猫背にスールは似合わないね」
「“スーツ”だアホ。お前の方こそ、どっかでくたばってたと思ったよ!それがなんだ、いきなりルオヴでしただのターボラなりたいですだの、寝言は寝て言え」
「そういうアンタは飽きもせずイカサマやってんの?その骨折はネヴィ?」
「馬鹿野郎。アイツんとこにゃもう行かねぇ。二度とな、二度と!」
「あーはいはい」
彼の「二度と」を何度も聞いてきたヴィラモは面倒そうにあしらった。
「それよりだ。ターボラ志望を連れて来るってなんだ。ここは芸人雇ってるわけじゃねぇんだぞ」
「俺だって芸人になった覚えねぇよ」
嫌味をつらつらと言い合う彼らをチェシはそっと見上げる。ジェルワンと呼ばれた男は視線をチェシに移すとジッと見つめる。
「な、何…」
「…こいつとは言わねぇだろうな」
「チェシって言うんだ」
チェシはきゅっと口を結んだ。睨んではいるのだが、髪で隠れて見えない。
「こんなガキが?」
「少なくともあんたの体は粉砕できるね。一瞬で」
「相変わらず嫌味な奴だな。一言が余計なんだよ」
「あんたに言われたくないね」
ジェルワンは鼻で笑うと、背を向けた。「さっさと死んどけ」と言い捨てた彼に舌出すヴィラモ。
「・・・何アイツ」
チェシはそっと尋ねる。
「ルオヴの管理職やってるジェルワンだよ。俺らが居る区の管轄だから、ネヴィもアイツの管理下にある」
「あんなのに管理されるの?」
「ネヴィは知らねぇから、言うんじゃねぇぞ」
「・・・わかった」
受付で話を済ませるヴィラモ。その間も、チェシはヴィラモの裾をしっかり握り、ぴったりとくっついていた。
ジェルワンが話を通していたこともあり、受付の者がヴィラモと関わりたくないこともあった。話は早急に済まされた。ヴィラモは「楽だぁ」と呑気に呟いたが、ルオヴというだけで冷たい態度をとる者達を見ているのは、チェシには不快だった。
「チェシ、行くぞ。」
「どこに?」
「チャーヴィウ。ころ、じゃない。悼儀場だよ」
ヴィラモは口元抑えながら「殺し合い場っていうと怒られるんだった」と訂正をした。耳当てをしているチェシにも聞こえていた。ごまかすようにニッカリと笑って、「詳しい話は外でな」と歩き出した。
「分かった」
そっと返事をして、チェシはヴィラモに着いて行った。
ヴィラモは冷たい態度を取られても笑っていた。気楽に流している。チェシも敵意を向けていたのに、さらりと流されている。まるでその対応が当たり前であると思うように。
ささやかな同情だった。彼は、ポケットに隠されたヴィラモの腕を引き抜いて、ぎゅっと握った。
「え、何」
「こうしたい」
「手ぇ繋ぎたいの?」
「そう」
「・・・いいぜ」
優しい微笑み。受け入れられたことを理解する、無邪気な微笑み。どうでもよくなっていたのだ。
住処を追われたことも、獣たちを死に追いやったことも、
獣の神を貶めたことも。
「ヴィラモは良い奴だなぁ。」
「今更気付いたのか?俺はすーっごく優しい。」
全部が全部、彼にとってはどうでも良くなっていた。
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