第14話 不機嫌


「ネヴィ、今日は機嫌悪いな?」


 バーカウンターでカクテルを注ぐネヴィに、ラドゥヌは鼻で笑った。注ぎ終えた手を止めて、ジッと睨む。


「悪くない」

「見ろ、コイツ機嫌悪いんだぜ」


 ラドゥヌは隣の席の男に笑いながら告げ口する。ちなみに知り合いではない。


「機嫌悪くないし」


 カクテルグラスを雑に置いてやれば、すぐさま受け取り一気に飲み干す。へらへらとした態度は変わることなく、顔を赤くしたまま喉を鳴らして笑った。


「コイツは機嫌が悪い。そういうときは笑ってる癖に黙ってるんだぜ」

「なんかラドゥヌに知られてるのやだな」


 いつも愛想笑いをして相手の様子を伺うネヴィが、不機嫌な時は様子を伺うのをやめるのだ。


「・・・いいや、ちょっと聞いて」


 カウンターに腕ついて、囁くように言った。ラドゥヌは「よしきた」と耳を向ける。


「ヴィラモと、チェシ…あー、新しい同居人がさ、俺に内緒でどっか出かけたの」

「あの料理人戻って来たのか」

「料理人じゃなくてヴィラモ」


 ラドゥヌは酒のないグラスを齧りながら笑う。ネヴィはジトりと睨みながらグラスを回収した。


「俺にだけ内緒なんだよ」

「それだけで拗ねてんのかよ」

「・・・拗ねてないよこれ」

「拗ねてるって言うんだよ」


 ネヴィは眉をひそめた。「違うし」と呟きながら、姿勢を正して新しいグラスを取り出した。綺麗な布巾で埃をふき取り、瓶を開けて直接注ぐ。

 アルコールの香りがツンと鼻を突いて、ラドゥヌはまたにやける。


「帰ってきたら、聞いてやれ」

「・・・うん」

「そんで、また飯に呼んでくれよ」

「ヴィラモに言っとくよ。チェシとも仲良くしてね」


 ラドゥヌはよくヴィラモの手料理を頬張りに来る。ネヴィの酒も飲みに来る。それほど仲が良い。素の態度をとるネヴィにも慣れたものだった。


「チェシって奴は俺と仲良くできそうか?」

「今度後ろに乗せてやれば?」


 彼の仕事はいわば機械弄りだ。お気に入りは原動機付二輪車の改造。それに2人で乗って、湿気った路地を走るのだ。ネヴィはそれを気に入っている。湿気た空気も温い風も、どうでも良くなるのだ。


ラドゥヌは笑った。


「そんなもの好きはお前だけさ」と。

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