四章 6 『京の八月の七夕。願いを込めて』
四章 6 『京の八月の七夕。願いを込めて』
暇人の一日は終わりを告げ舞い込んだ予定に合わせ着替えている最中、ふと思い出した。
「……七夕って学校でもやったじゃねぇか」
美山ちゃんに少し振り回された経験が蘇る。
そういや晴香のお願いの意味は未だによく分かってないな。今回それを露わにしてやるいい機会だ。
「おはよう咲都くん!」
玄関を開けると華絵ちゃんが晴香の家の前で待っていた。
おっ、デニム生地のショートパンツに白のTシャツとな。シンプルだが可愛い華絵ちゃんにはとても似合う服装だ。そして黒く長い髪をポニーテールにしている。
そして何より、何より素晴らしいのが露わになっている生足。白くすらっとした綺麗な脚がとても映えている。
「おはよう華絵ちゃん。今日も相変わらず可愛いねぇ。特に脚が綺麗のなんの」
「ありがと! 脚は少し自信あるの! 咲都くんはさりげなく褒め上手だよね」
褒め上手、と褒められてしまった。自分ではそんな気は特にないのだが。
「でも脚は晴香ちゃんも綺麗だよね。私も自信はあるけど晴香ちゃんには敵わないかなぁ〜」
確かに晴香も脚はかなり素晴らしい。本当に日本人かよと思うぐらい白い肌にすらっと長くかつ少し肉付きもある。
そしてシリウスかなんだかが出てきた時に触って思ったが触り心地もかなりのものだった。
あの時の触り心地は記憶にはっきり焼き付いている。
何様目線やねんと思ったそこの貴方、ごもっともです。
「晴香の脚もかなり素晴らしい。触り心地も良いものだったしな。けど二人とも素晴らしい。これは間違いないね!」
「だよね! 私も触らせて貰ったことあるけど晴香ちゃんの脚ってすらっとしてるけどモチっとしててすべすべで……ってあれ? 咲都くんも触ったことあるの?」
「二人して人の家の玄関の前で何を話してるのかなぁ?」
脚談義で華絵ちゃんと盛り上がっていると話題のご本人、晴香がやっと出てきた。
「あっ、晴香ちゃんおはよう! 聴こえてた?」
「よう晴香。今ちょうど盛り上がってた所だよ。入るか?」
「おはよう華絵。玄関まで聴こえてたわよ。そして咲都は黙りなさい。誰が自分の脚の話で盛り上がれるのよ」
それもそうか。
しかし出てきた晴香を見て気づいたことが一つ、
「見事に晴香と華絵ちゃんの服装が被ったな」
そう、晴香も華絵ちゃんと同じくデニム生地のショートパンツに白のTシャツを着ていた。違うのはアクセサリーと靴だろうか。
「……ほんとね。私着替えて来るわ」
「別にいいんじゃねそれぐらい。この前の海の時も二人似たような格好してたんだしよ。双子コーデだっけ? って事で」
「私もいいよ晴香ちゃん」
「華絵がそう言うならいいか」
あれ? オレは?
「最近さ、やけにオレを誘うけどもしかして他に友達いないの?」
近頃気になっていた事を目的地までの暇つぶしに晴香に聞いてみた。
「……いるけど近場で暇なのが咲都ぐらいなのよ。華絵とも仲良いしちょうどいいかなって」
と少し早口でこっちに顔を向けずに返してきた。
この反応、晴香のやつさては友達少ないのか? でも何故少し頰を赤らめているのか分からん……さてはこいつ実はオレに気があるのか? んなわけないか。ないない。
「それにしても二人とも本当脚が綺麗だよな。見てて飽きない」
「嬉しいけどあんまりジロジロ見ないでよ? 恥ずかしいから」
なら出すなよ、とツッコミたいが本当に出さなくなってもオレが困るのでやめておこう。
そうこう喋っているうちに目的地、岡崎公園に到着した。
そう遠くはないが時期だけに暑いな。
まだライトアップはされていないが多くの人で賑わっていた。
「三時から『岡崎プロムナード 星の饗宴』ってイベントもやってるらしいわよ。音楽イベントやフードブースも出てるんだって」
「それでライトアップまだなのにこんなに人多いのか。てかフードブース出てるなら何か食わなきゃな」
ライトアップが七時かららしいのでそらまでの一時間ちょいを色々見て回って潰す事に。
っても名前にもなっているようにメインは京の七夕。旧暦の七夕近くに合わせて京都の各所で行われるイベントに来ているわけだ。
「まずは願い事を書かなきゃね!」
という事らしいので短冊を購入し願い事を書く。
「そういやさ、家でも思ってたんだけど七夕って学校でもやったよな?」
「そうだけどせっかくだし。それに叶ってほしい事なんだから何回書いてもいいんじゃない?」
「私もそう思う!」
なるほどねと思いつつ願い事を書く……? 学校での短冊になんて書いたっけ? 綺麗さっぱり忘れていた。
なのでここ最近オレの中で気になっている事を書くことに。
「『面倒ごとに巻き込まれませんように』と。これで大丈夫……だよな?」
少し不安に思いつつも願いを込めて短冊を笹に結びつける。
身長が少し高いのを利用して高めのところへ。よし、これで完璧だな。
「っと、あれ? 晴香は?」
「ほんとだ。どこ行ったんだろ?」
少し目を離した隙に晴香の姿が消えていた。仕方がないので華絵ちゃんとこのまま待つことに。
「華絵ちゃんは何てお願いしたの? 学校の時と同じ?」
「私はね、楽しい毎日が続きますようにって書いたよ! 咲都くんは?」
楽しい毎日か。確かにここ最近はオレの中でも割と充実している方かもしれないな。めんどくさい事も多いけどそれなりに楽しく過ごせている。
「オレは面倒ごとに巻き込まれませんようにって書いたよ。ここ最近特に多いから念入りにね」
先にも言ったよう楽しい事も多いがそれに加え面倒ごともかなり多い。
こればかりは本当に心の底からどうにかなってほしい。
「咲都くんらしいね! あっ、晴香ちゃんだ」
華絵ちゃんの見る方向には小走りで戻って来る晴香の姿が。脚が綺麗だなぁ。
「ごめんごめん。ちょっと遠くにかけに行ってたの」
「何でだよ? この辺でもいいんでねぇの?」
「華絵にはいいけど咲都に見られたくないからよ」
オレだけ仲間はずれですか。いいですよーだ。美味しい物でも食べて気分転換だ。
「うまっ! これも美味いなぁ!」
「そんなに食べてたら晩ご飯食べれないわよ?」
「いいんだよ! やけ食いしとるんじゃこっちわ!」
「乙女か! ってツッコミたいぐらいね。今は無理だけどそのうち教えてあげるわよ」
そのうちっていつだよ。行けたら行くと同じで大体の場合そのうちなんて来ないんだよ。
ちなみに関西人の「行けたら行く」は基本行くつもりのない時に使います。
関西人め……あっ、オレもか。
「あっ、そろそろライトアップの時間だよ!」
華絵ちゃんの言葉で時計を見ると針は六時五十九分を指していた。
ライトアップまでもう一分を切っていた。辺りも中々に暗くなっている。
時計の針は刻々と進み残り四秒、三秒、二、一
「「「ゼロ!」」」
ーーその言葉、多分オレ達三人だけでは無かっただろうーーが耳に入るとほぼ同時に一斉にライトアップが始まる。
淡い光に染まった無数の灯篭のような物が平安神宮から大鳥居までの一本道を照らす。
終点にある大鳥居もこれまたライトアップされてオレンジ色が良く映えその大きさも加えとても迫力があり綺麗だ。
「わぁ! 綺麗だね!」
「凄い! まさかここまで綺麗だと思わなかったわ」
華絵ちゃんも晴香も光が作り出す幻想的な空間に虜になっていた。
「これは中々いいな。これだけでも来た甲斐があったかもな」
そしてオレもまたその虜になっているうちの一人だった。
ライトアップされるだけでいつも何気なく見ているこの場所がここまで幻想的な空間になってしまうなんて予想外だ。
「せっかくだし三人で写真撮ろうよ! すいません、写真撮ってもらっていいですか?」
華絵ちゃんの行動が早いのなんの。そして快くオッケーしてもらい三人で並ぶ。
「それじゃあ撮るわよ〜。千引く九百九十八は?」
「二!」
「えっ、……二だよな?」
「二だよね?」
パシャッ!
「二人とも迷わないでよ!」
「「ご、ごめんなさい」」
いきなりだったので少し不安になってしまった。割とマジで。
「ありがとうございます!」
「いいわよこれぐらい。あら、お兄ちゃん二人も可愛い子連れて両手に花ね。おばさんもどお?」
「ごめんなさい。お姉さんが素晴らしすぎて僕にはまだ早いです」
と頭を下げて丁寧にお断りをする。
オレは確かに歳上のお姉さんが好みだが流石に親に近い歳、いやこの場合はそれ以上か。には惹かれない。
そのうち魅力は分かるかもしれないが今は無理です。
「あらお姉さんなんてお世辞が上手ねぇ。じゃあまた今度って事で」
「……ありがとうございました」
おばさんはオレに手をヒラヒラと振り人混みに消えていった。
割とガチな目に感じてしまったのはオレだけだろうか? 一瞬寒気がした気がした。
「咲都やけに気に入られてたわね。良かったじゃない」
「良くねぇよ! あの目は割とガチめな目だった」
「でも優しそうな人だったね」
写真を華絵ちゃんに送ってもらいホーム画面にしておいた。これで両手に花気分がいつでも思い出せるな。
海での写真でも良かったが主に晴香に変態呼ばわりされそうだったのでやめておいた。
なんだかんだで光、食、音楽と楽しんだオレ達。時計を見ると八時五十分だった。
「ライトアップが九時で終わりか。そろそろ帰るか?」
「そうね。華絵もそれでいい?」
「うん! 楽しかったね! 綺麗だったし美味しいかったし音楽も良かったし。誘ってくれてありがとう!」
淡い光、人混みに別れを告げ帰路につく。中々に楽しめたイベントだった。今度は鉄矢や宇多くんも連れてきてやりたいな。
「そういや写真撮ってくれたあのおばさん何処かで見たことある気がしてるんだけど気のせいかな?」
「晴香ちゃんの知り合いなの?」
「いや、知り合いまでじゃないんだけどね。何処かで見たことある気がしただけかな?」
「気のせいだよ、気のせい。オレは悪いけどもう会いたくないです」
あのガチで獲物を狙うような目が少しトラウマになった気がする。
我ながら小心者だよな。狙われてあれが縮こまったなんてとてもじゃないが二人には言えねぇ。
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