四章 5 『暇人の一日。予定は……』

 四章 5 『暇人の一日。予定は……』




 釣りの日からここ十日ほどは趣味に使うためのお金を稼ぐ為にバイトに明け暮れていた。合間を縫ってイーアさんの所での魔法の練習。割とハードな日々だった。

 そして今日はバイトが休み。そして魔法の練習も瞳姉の用事があるとの事なので入っていなかった。

 と、いうことはだ。


「久々のゆっくり出来るデイじゃん!」


 一日の予定を確認し何もないことから先の言葉が生まれる。

 というわけでここからしばらくは一日をゆったりと過ごす暇人を見て頂こう。


 そこからのオレの行動は早かった。一旦布団にダイブしまな板の上の魚のように飛び跳ねる。

 嬉しさを全身で表現したあとはゆっくりと起き上がり鉄矢から教えてもらった声優さんの写真集を読みふける。これを鉄矢に教えてもらったことは本当に感謝している。


「こんな可愛い顔してるのに声も可愛いとかチートかよ。男だけど羨ましいわ」


 そんな独り言を挟みつつニヤニヤする。

 このニヤニヤについてたまに思う事があるんだけどさ、携帯電話とかで動画とか見てる時にふと画面に自分のニヤニヤ顔が反射して映った時我ながら気持ち悪いと思う。そういう事ない?


 そしてしばらく幸せに浸った後はお昼ご飯までゲームをする。

 最近ハマっているゲームはモンスターをボウルで捕まえて六匹のパーティーを作りその相棒達と共に悪に立ち向かっていく、というストーリーのゲームだ。

 ゲームからアニメにカードなど幅広く展開している人気のあるシリーズの一つにオレはハマっている。

 しかしこのゲーム、ただストーリーをクリアして終わりではないとオレは思っている。

 このゲームは見ず知らずの人とバトルが出来るオンライン対戦機能がある。

 六匹のパーティーから三匹を選出し一匹づつ戦わせる通称シングルバトル。それにオレはどハマりしていた。


「よし、今日もバトルで使うための強いモンスターを出すための厳選作業にかかりますか!」


 厳選という作業はオレのしているオンライン対戦で勝つためには必須と言っても過言ではない。

 このゲームのモンスターには目に直接は見えないステータスがいくつか存在する。そのうちの一つ、そのモンスター一体一体の個体にある見えない値を完璧な状態で手にする為に行う。

 基本的にその数値は高い方がいい。なので理想の数値を求めて捕まえたモンスターから卵を産ませて理想の一体を手に入れる。その作業を厳選と言う。

 他にも卵で産ませなければ覚えない技や個体値の偶数、奇数の配列によって技のタイプが変わるという技の為の厳選、作中に一体しか登場しないいわゆる伝説のモンスターの前でセーブをし捕まえて理想の数値ではなければリセット。そしてセーブ地点から理想の一体を手に入れるまでそれを繰り返す厳選、色違いを出す厳選など色々ある。

 これらの条件が重なるほど時間はかかる。しかし今回は先に言っただけのまだ楽な厳選なので気が楽だ。


「育て屋さんに親を預けて……と。いい子を産んでくれよ〜」


 そこからは理想の一体が出るまでひたすらタマゴを産ませて返すという作業の繰り返し。

 産まれては個体の値を確かめ理想の数値ではなければ次、の繰り返しだ。

 タマゴを返す為にはゲーム内での歩数が必要なのでひたすら本体のスティックを動かす。


「お、今日一匹目が産まれたな。さてさて数値の方は……」


 このゲームの中にはその数値を大まかに教えてくれるキャラクター、通称ジャッジさんがいる。

 より具体的な数値を知りたければどなたかが作ってくださっているツールを使うしかないが今回の厳選ではその必要はない。


「あ〜、ここが高くないな。次ですね」


 なんて独り言を言いながらまた作業へ。

 現実的に考えればこの作業はどうかと思う人もいるかもしれないがこれはゲームなのでこういう楽しみ方もある、と大目に見て頂きたい。

 先にも言ったがオレのしているルールで勝つには必須の作業なのだ。


「クソ〜今日は出ない日なのか? 頼むから理想の一体をオレにプリーズ!」


 まだ作業を始めてそう時間は立っていないがあまり気が長くないオレはまたしてもこんな独り言をゲーム画面に向けて言っている。

 タマゴを羽化させる歩数を稼ぐ為にひたすら一つの道をグルグルと周回する。この作業をやっている人なら分かる羽化ロードというやつだ。

 代わり映えのしない画面に早々に飽きたオレはゲーム片手間にアニメを観る事に。

 観るのは勿論、神の実芭蕉だ。

 録画をしているのをまたしても見返す。これで三周目だろうか? 円盤は勿論買います。そういやこの前アメゾンで買ったのが届いた。しかし全巻円盤が揃ってから一気に観たいので今回は録画を見返す。


「あ〜バ・ナーナちゃんは可愛いな〜。このショートボブな感じもめちゃくちゃ似合ってるし。晴香もこのぐらいにしてくれないかなぁ」


 という自分勝手な理想を口に出しながらゲームを片手間にアニメに浸る。




「あなた達の悪事はすっかりお見通しよ! 観念しなさい!」


 そう言い放ちバ・ナーナちゃんはバナナを一房食べ終えるとーー


「必殺『イエローバナナチョコまみれアターック』!」


「グボエェェェ!」


 バ・ナーナちゃんの持っているバナナ型のステッキから必殺技が繰り出されそれを浴びた怪人、サンカサセールは宙に吹っ飛び一瞬で見えなくなった。


「これが必殺、イエローバナナチョコまみれアタックなのか⁉︎」


 と主人公の芭蕉が驚きの表情でバ・ナーナちゃんを見つめている。


 何度見てもいいシーンだ。

 第六話、今まで隠されていた必殺技を放つバ・ナーナちゃん。最高にカッコ可愛い。

 そして技で起こった爆風でスカートがめくれているのがこれまた……最高です。

 バナナを一房食べてる間怪人は何してるんだとか主人公の芭蕉は何の為に居るんだとか色々突っ込みどころはあるかもしれないが何故か面白い。


 そうこうしていると……


「ん? これは……もしや、来たか? この数値も高い。ここも。そして最後も。キタァァァア!!」


 ようやく理想の一体に巡り会えた。厳選終了のお知らせだ。


「ニックネームは……チョコバナナで」


 神の実芭蕉を見ていた反動でチョコバナナにしてしまった。まあ見た目黄色いしいいか。

 ここからバトルで使うまでは他の見えない数値との格闘、技構成にレベル上げなどなどまだ色々な工程があるが今は一区切りつける。やっと訪れた休憩だ。

 ちなみに今回は千と十二匹目でおいでくださりました。

 かかった時間は実に約五時間! ……ん? 十一時ぐらいから始めて現在四時ちょい。五時間経過とな?


「昼飯忘れてたぁ!」


 時間を見るのを忘れゲーム片手間にアニメを見ていたオレは見事も見事、凄まじい集中力を発揮してお昼ご飯を食べ忘れていた。そりゃ神の実芭蕉も終わりに差し掛かる訳だ。

 この集中力を嫌いな学校の勉強に活かせればいいのになぁ。

 流石にあと数時間すれば晩ご飯なので今からお昼ご飯を食べる気にはならない。

 お昼ご飯を今食べて晩ご飯を更にずらす方法もあるにはあるが「夜遅くに晩ご飯を食べるのは美容の大敵!」と晴香が言っていたのでやめておこう。

 まあ美容とかあんまり気にしてないけどさ。




 と、なると次は晩ご飯を食べるまでの暇つぶしをしなければならない。

 残りあと少しだった神の実芭蕉を見終える。さて何をしたものか……。


 ♪〜♪〜♪〜


 噂をすればなんとやら。晴香からの着信が入った。面倒ごとじゃないといいが……。


「え〜、お掛けになった電話は現在使われてーー」


「しっかり咲都の声じゃない。もうちょっと上手くやりなさいよ」


「へぇ。すみません」


 て何を謝ってるんだオレは。


「で、何の用だよ?」


「今からって暇?」


「……まあ暇って言われれば暇かもしれないけれど忙しいと言われれば忙しいというか」


「暇なのね。もう少ししたら華絵と岡崎公園のところで京の七夕ってイベントがやってるから行こうって話してるんだけど来ない?」


 確か京の七夕って色々な会場があってライトアップやらなんやらをするんだっけ? 詳しくは覚えていないがそんな感じだったような。

 それの会場に岡崎公園も含まれていたのか。近場だし別に行ってもいいかなぁ。


「おけおけ。行きますわ。京の七夕って知ってはいたけど行ったことなかったし」


「じゃあ五時半に私の家の前集合ね。あと一時間ぐらいだけど寝ないでよ?」


「はいよ〜。努力します」


「努力じゃなくて寝るなって言ってるの」


 そういうわけでこれから予定が入った。

 なんだかんだで予定が入ってしまうのはオレが忙しい人間だというのを表しているのだろう……知らんけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る