三章 エピローグ 『悪い方のおむすびころりん的な?』

 三章 エピローグ 『悪い方のおむすびころりん的な?』




 チーズフォンデュパーティー(仮)の片付けをあらかた終わらせ食後の紅茶を淹れる。今回の紅茶はいつもと一味違いオレの最近のお気に入り、キャラメル風味のついたものだ。

 淹れ終えた紅茶を特に何も言わず部屋にいる三人の元へ……そこでは既に女子会の様なものが繰り広げられていた。オレの隠していたコレクションは当たり前のごとく女子会のいい話題になっている。


「……紅茶淹れて来たぞ」


「ありがと」


「ありがと咲都」


「ありがとう咲都くん。この紅茶普通とは違ういい匂いするね」


 おっ、気づきましたか華絵ちゃん? 是非飲んでみてくだせぇ。


「……なんだろうこの味? 知ってるような分からないような」


 少し分かりづらいか。晴香と瞳姉はどうだろう?


「ん〜、確かに知ってる気がするけどなんだったっけ?」


 晴香も分からないか。言われればすぐに分かると思うんだけどな。


「これってキャラメル……? どうよ咲都」


「おっ、瞳姉正解ですね」


 白ダシに続き今回のキャラメルも当てて来たか。いい舌をお持ちのようだ。


「確かに言われてみればキャラメルね」


「ほんとだ! 確かにキャラメルだね!」


 やっぱり少し難しかったかな? 風味がするぐらいだからな。

 何はともあれオレのお気に入りを三人とも美味しいと言って飲んでいるし良かった。

 食後のひと時がゆっくりと過ぎていく。


 と、ここで瞳姉が唐突に一言、


「そういえばさ、三人ともアーウェルサに興味って無い? 異世界行きたいな〜って思ったりしない?」


 そんなことを言ってきた。


「いきなりなんだよ。てか三人って、晴香は行ったことあるんじゃないのか?」


「ないけど」


「あれ? そうなの?」


 てっきり晴香はアーウェルサに行った事があるものだと思っていた。

 正直な話、興味が無いわけでは無い。晴香や瞳姉から最初にアーウェルサの説明を受けた時に魔法は向こうの世界では普通にある、と言っていたしそのへんの興味はそそられる。

 なにより一番気になっているのは世界観だ。

 二次元の話では異世界は色々な形で描かれる。特にその中でも多いのが中世のヨーロッパ風の世界観だ。

 あまりアーウェルサの事について詳しく聞いていなかったのでこの辺はかなり気にはなる。

 しかしだ、その反面行きたいかと聞かれれば微妙なところだ。

 ノーとまでは言わないが今まで戦ってきたようなヤツらがいる世界と考えるとどうしても行きたくは無くなってくる。

 そして何よりめんどくさい。めんどくさそうだな、というのが一番大きい。先ほども言ったように異世界には今まで出てきたようなヤツらもいる。そしてなんとなく、いや確実に厄介ごとに巻き込まれる気がしてならない。

 なのでやはり行きたいかと聞かれるとノーに近いな。

 晴香に華絵ちゃんもなんとも言いづらいのか少しだんまりだ。そりゃいきなりだしそうもなるだろうな。実際オレもそうだ。ここはめんどくさい事になる前に先手必勝。

 というわけでオレの答えは……


「ハイ! 私は少し行ってみたいかもです!」


 少しの沈黙ののち勢いよく手を上げ発言をしたのは華絵ちゃんだった。しかもオレの脳内整理とは真逆の方向で。

 しかしここで焦るオレでは無い。華絵ちゃんには悪いが色々と危ないかもしれないと説得をしてアーウェルサ行きは無しにしてもらう方向へ持って行こう。めんどくさいというオレの中での一番の理由は隠しつつ……


「ーー私も行った事ないしこの際だから行ってもいいかなぁ」


 おぉっとぉ⁉︎ 晴香さんまで何を言い出しますのやら。

 いや、まだだ。まだ諦めるのには早い。晴香を説得すればなんとかなる。なんとかなると信じて、


「ちょい待ち、二人とも乗り気な感じだけどさ、色々あぶなーー」


「はいはーい咲都? 三分のニがアーウェルサ行きに賛成。多数決はこの時点で終了よ。それに晴香の言うようにこの際だからいいんじゃない? それともまさかビビってるとか?」


 色々危ないんじゃないだろうか。そう言おうとしたところで瞳姉の言葉でオレの発言は殺される。

 いつから多数決だったんだとかツッコミはしたいが雰囲気的に無理な感じだ。

 そして気になることが一つ。瞳姉の発言には一応オレのクソみたいなプライドにも引っかかる部分はあった。


「べっつにぃ……。ビビっては無いけどさ」


 これだけは一応、ほんと一応言っておきたかった。しかしこの発言はもちろん特大の地雷でもあり、


「ならいいじゃない。アーウェルサ行きは決定ね」


 あら不思議、と言わんばかりに話はオレに対して悪い方に転がっていく。

 さっきも言ったように特大地雷を設置したのはオレだけどもね。


「三人が夏休みの間に……そうね、一週間くらい行こうと思うんだけどもちろん泊まりでーー」


 一週間、そして泊まりで。この二つのフレーズを見逃すオレでは無い。まだ諦めてはおらんのだよオレは。


「ちょい、マジでちょい待ち。夏休みという格好のバイトのやり時に一週間も休むのはちょっと無理がーー」


「テスト週間もそれぐらい休むんだし大丈夫でしょ? それにその分他の日に入ればいいんじゃないの?」


 ……晴香に論破されました。


「そ、そうですね……」


 ちくしょう! 何も言い返せない。こういう時、己の話術の低さが憎い。


「で、話を戻すけど一週間くらいアーウェルサに行くつもりよ。その間はさっきも言ったけど泊まりね。咲都は暇だとして……二人都合の悪い時とかある?」


 オレだけ扱い酷くね? まあ実際、遊ぶ以外する事なんて特にないんですけどもね。ええ。


「私は特に無いけど」


「私も無いです」


 なんだ。晴香も華絵ちゃんも以外と暇なのか。オレと変わらないのかと思い少し安心した。


「じゃあ……八月の十七から一週間、アーウェルサに行くって感じで大丈夫かな?」


「えーっと、学校が二十七からだから大丈夫よ瞳姉」


「私もそれでオッケーです!」


「咲都もそれで良い?」


 あ、一応聞いてはくれるんですね。


「大丈夫ですよ。今のところ遊びの予定も入れてなかったし」


 十七からってことは送り火の日を最後にコッチの世界とは一週間おさらばになるのか。でも携帯電話も持っていくし本や漫画だってーー


「そういや先に言っておかなきゃいけない事があったわ」


 ……嫌な予感がプンプンするんですが。


「アーウェルサにあまり干渉しないようにコッチの世界の物は基本持っていけないから。電気なんかも無いしね。着替えがあれば他は向こうで何とかなると思うわよ」


 予感的中! みた事か! オレの嫌な予感は当たるんだぜ! はぁ。

 てことは、だ


「娯楽品なんかも持ち込みは……」


「もちろん禁止ね。持って行っても向こうで預かられるか消されるか」


 ですよねぇ。てか預かられるは分かるが消されるって何だよ。


「他に誰か聞いておきたい事とかある?」


 絶対いっぱいある。いっぱいあるはずだがこういう時に限って頭がこんがらがって出てこない。


「ーー特に無さそうね。まあ行くまでにまだ日もあるしそれまでに何か気になることがあったら言ってくれればいいから」


 てなわけでアーウェルサに行くことが決定しましたわけでございます。

 どうしていつも事態はオレの望まない方向に転がるんですかね。オレの人生永遠の謎になりそうな気がする。

 そして晴香がここで一言、


「咲都は分かりやすいぐらいめんどくさそうね」


 げっ、何故バレてるんだ。


「……バレた?」


 続けて瞳姉も


「バレたも何も顔にずっと書いてあるからねぇ」


 うっそだぁ! 出来るだけめんどくさいオーラが出ないように頑張ってたんだけどな。


「え! 咲都くんの表情で何考えてるか分かるなんて晴香ちゃんも瞳さんもすごいね!」


 華絵ちゃんにオレの本心は見抜かれてはいなかったようだ。


「「何分付き合いが長いもので」」


 その通りだけど晴香も瞳姉も綺麗にセリフが被ったなおい。

 特に二人にはオレが何を考えているか見えているんじゃないかと思うぐらい思ったことを当てられる。おっと二人だけじゃないな。鉄矢もだった。

 そのうち華絵ちゃんや宇多くんとかにも心境を読まれるのかなぁ……。この先が怖い。


「あ、それともう一つ。三人の心の持ち用の為、特に咲都ね。少しネタバレになるかもだけど三人ともアーウェルサの景色を見たらおったまげると思うわよ。もちろん内容は行ってからのお楽しみだけどね」


 おったまげるって今日日聞かない言い回しだな。

 まあ瞳姉の言う行ってからのお楽しみ、は一応楽しみにはしておこう。てか楽しみにしておかないと他の事で頭が埋め尽くされそうだ。特にめんどくさいで。


「っと、話も一区切り着いたし咲都のコレクションでもうひと盛り上がりとしますか」


 そしてオレ以外の三人はオレのコレクションを話題に女子トークに花を咲かす。ファッションがどうたらこの人にはこの服装が似合いそうだとか。


 時刻は十時を回ったところか。

 長々と続けられるその光景を横目に見つつ存在を忘れていたそれに気づく。

 ティーパックを取り出すのを忘れキャラメルの風味がすっかり苦味に変わり、更に最悪な事に温度もすっかり低くなった紅茶を気分に任せ一気に飲み干す。


 ーーてかそろそろ帰れよ。と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る