三章 15 『フォンデュは強かった』
三章 15 『フォンデュは強かった』
夏休みが始まるまであと一日。というか数時間。
今日さえ乗り切れば明日から夏休みという最高の気分の一日。
そんな日の放課後にさしかかろうかという六時間目。
授業という授業でもなく夏休み用の大量のプリントを配る時間だったので余った時間は皆が思い思いに喋っていた。
「この時間が終われば晴れて夏休みの始まりだな!」
「おう」
「そうだね」
オレのテンションの高さとは違い鉄矢と宇多くんはむしろ曇った表情をしているように思えた。
「どうしたんだよ二人とも。夏休み何して遊ぶか大まかに決めようぜ」
「いやオレさ、部活の合宿と練習があるから夏休みあって無いようなものなんだよ」
「僕も親が塾を毎日のように入れちゃったんだ。夏休みは勉強漬けになりそうだよ」
んマジか! 二人とも夏休みに何も出来ないなんて……目の前にエロ本があるのに見れないみたいなことじゃないですか!
流石に今回は鉄矢も可哀想だ。この状況でザマァとは言えないな。
「……そうか。まあ頑張れよ二人とも。オレはその分遊んでおくからさ」
「お前は気楽でいいよなぁ」
「確かに今は咲都くんが羨ましいよ」
おいおい、オレだって夏休み忙しいんだよ! バイト行ったり夏休みの宿題したり趣味に没頭したり……あっ、あと魔法の練習もしなきゃならないんだった。てなわけで忙しいんだよ……多分。
こうして学校も無事終わり鉄矢は部活へ、宇多くんは塾へと消えていった。
こうして始まったオレの夏休み。
ビバ! 夏休み! とはまだならず。今日はバイトが無いのでいつものごとく魔法の練習をしにイーアさんの所へ。
もちろん晴香、瞳姉、華絵ちゃんも一緒だ。
「同じような練習ばっかりで疲れるなぁ」
「まあ最初はみんな基礎を徹底的にだからね。特に咲都は今のところ他の属性はまだ出せないんだから」
魔法の存在を知って数ヶ月、オレは未だに水魔法しか使えなかった。
瞳姉が言うには他の属性が使えるのはもちろん使える、使えないという基本的な運もあるがふとした時に使えるようになる事もあるらしい。
そして聞いたところによると瞳姉は最初から全属性が。晴香はしばらくしてから他の属性が少し使えるようになったらしい。
「他の属性が使えないと考えてる魔法が試せないからなぁ」
「まあそのうち使えるようになるわよ……知らないけど」
「でた。関西人特有の『知らんけど』」
「てへ☆」
だから てへ☆ とかで誤魔化すなって。
「華絵ちゃんはどう?」
「ん〜、私はまだ難しいですかね」
華絵ちゃんはあの祇園祭のあと以来、ほぼ一緒に練習をしているがまだあまり上手く魔法が使えないようだった。
得意な属性は土との事なのでオレの時とは違い何かの形を土で作る、という練習をしているのだが出来るのは手の平の大きさ程の小さな人形のような物が出来る程度だった。
「まあほんと魔法の上達速度も人それぞれだし根気よくね」
ーー今日の魔法の練習を終えてイーアさんの家でお茶を飲んでいる時、晴香が
「咲都と華絵、今日この後って空いてる?」
「まあ空いてるけど?」
「私も大丈夫だよ?」
「じゃあさ、チーズフォンデュしない?」
ーーてなわけで買い出しに行くことになった。
勝手にやればいいだろって言いたかった。言いたかったが食べたいと思ってしまった自分がそこには確かにいた。
そして会場はオレの部屋。
晴香に部屋は空いてる? って聞かれたから親は仕事で妹は遊びに行くらしい。と答えたらオレの部屋が会場と即座に決まった。
正直に答えすぎだろオレ。まあ別にいいけどさ。
買い出し先はオレのバイトしているスーパー。もちろん新谷さんは今日もバイトに入っていらっしゃる。
「いらっしゃ……な⁉︎ 咲都、美人さん二人も連れて自慢か!」
とか何とか言われたが幼馴染と友達だということを何とか伝え嫉妬されることは凌いだ。
そして家に帰り部屋に入ると
「お帰り〜。暑かったでしょ? クーラー入れておいたから」
そこには瞳姉がまたもやオレのコレクションを眺めながらくつろいでいた。
「……今ばっかりはなんでいるんだよ」
「え? ……」
「いやいや……え?」
「瞳姉もチーズフォンデュに参加するからでしょ。そう思ってたから食材多めに買っておいたのよ」
と、晴香は当たり前かのごとく言い放つ。
なぜ晴香は瞳姉が来ることが分かっていたのか。そして瞳姉は何故当たり前のように参加しようとしているのか。……どちらも分からん。
「流石晴香ね。で、いくらだった? 出すから後で言ってね」
参加するつもりなら買い出しに来いよと思ったが金を出してくれるならまあいいか。
「そういやさ、晴香に言ってなかったけどオレの部屋今平平さんいるぞ」
「? 誰も居ないじゃない。それより準備するからみんな手伝ってね」
「「はーい」」
「オレはくつろいでていいよな」
「咲都も手伝うのよ」
……晴香って虫が大の苦手だった筈だけど大丈夫なのかな?
部屋についたオレたちは荷物を置きみんなで台所へ。
各自担当を振り分け素早く準備していく。
買ってきたフォンデュする用の食材はパン、ウインナー、ベーコン、鶏肉、えび、ちくわ、じゃがいも、ブロッコリー、プチトマト、かぼちゃ。そしてオレが買った固形チーズ。この食材たちを調理していく。
ウインナー、えび、じゃがいも、ブロッコリー、かぼちゃは茹でておく。
ここだけの話、ウインナーは茹でて食べるのが一番美味しいと思う。
パン、ベーコンは軽く焼けばよし。鶏肉は中までしっかり火が通るように焼く。ちくわ、固形チーズはそのまま。プチトマトは洗ってヘタを取っておく。
これで一通りの具材の準備は完了。後はチーズ液の準備だ。
まずピザ用チーズ全体に片栗粉をまぶしておく。フォンデュ鍋の内側におろしニンニクを塗り牛乳を入れ沸騰しない程度の温度で先ほどのピザ用チーズを数回に分けて入れていきその都度よく混ぜる。あとは塩コショウで味を整えれば
「……よし、味付けもおっけーでしょう」
完成だ!
ちなみにフォンデュ鍋は晴香の家にあったらしいのでそれを使った。
晴香がいきなりチーズフォンデュをしようと言い出したのも鍋があったかららしい。
さてさて準備は整った!
具材を皿に盛り付け食器類などを準備。
卓上IHコンロの上にフォンデュ鍋を乗せて電気を入れる。この時も沸騰しないよう注意しながら温めれば……
「じゃあ瞳姉、ご挨拶をお願いします」
瞳姉とご飯を食べる時は大概瞳姉の号令でいただきますをする。
「では諸君、手と手を合わせて」
「「「「いただきます!!」」」」
チーズフォンデュパーティー? の幕開けだ!
みながおもむろに自分の好きな食材をフォンデュしていく。
オレはどの食材から……ここは王道にパンからいこうか。
フォークの先にパンを刺しチーズにフォンデュ。チーズが垂れないように気をつけながらそれを一気に口へ運ぶ!
「……うまぁ!」
トロッとした熱々のチーズの下に外はカリッと、中はフワッとのパンが最高に合う。まさしく王道。これだけで最高に美味しい。
お次はウインナーをいただこうか。フォークに刺すとそれだけで割れた皮目から肉汁が出てくる。これだけで食べてしまいたいがその衝動を抑えチーズにフォンデュ。そしてまたおもむろに口へ。
「……熱っ! 美味っ!」
噛んだ途端、一気に飛び出して来た肉汁の熱さに一瞬ビックリはしたがすぐさまその熱さの原因はチーズと絡み合い口の中で最高の瞬間を作り出す!
濃厚なチーズにプリッとしたウインナーとが合わないはずがない! これまた最高に美味しい。
お次は……オレが気になってというかやってみたかったチーズインチーズ。固形チーズをチーズに一瞬でフォンデュ。長く入れていると溶けるかもしれないからな。そして一気に頬張る……
「チーズフォンデュにチーズなんて合うの?」
「ん……美味い。美味いけどチーズ以外の何物でもないな」
「気になるし私もやってみようかな」
華絵ちゃんは固形チーズをフォークに刺しフォンデュ。頬張り……
「確かにチーズ! って感じだね」
オレと似たようなリアクションをした。
そして順々に全ての食材をフォンデュして美味しくいただく。選んできた食材はどれもかなり美味しいかった。次にやる時はキノコ類を使ってもいいかもな。ウズラの卵なんかも合うだろう。
チーズ液が少なくなり食材も残り少しといったところか。ここでオレの天才的な脳に閃きが。
「締め食べる人、手上げて」
「私は貰うわ」
「右に同じく」
「私も少し欲しいけど咲都くんが作るの?」
あたぼうよ! 今からこの残りのチーズ液と食材で締めの一品を作って差し上げよう!
まず残った具材は細かくみじん切りに。
チーズ液が少し少ないのでピザ用チーズと少し多めに牛乳を足す。そこに白ダシを適量。今回はあえてコンソメではなく白ダシでやってみる。
沸騰する手前でご飯、切った食材を入れ焦げないように気をつけ少し煮込めば……
「ほい、お待たせ! 即席チーズリゾットお持ちしました」
残りのチーズ液と食材を使ったチーズリゾットの完成です。さてみなさん、お味の程は……
「おっ、美味しいね咲都。白ダシでも入れたの?」
流石瞳姉。白ダシを入れたことに一瞬で気づくとは。
「うん、確かに美味しいわね」
そうでしょう晴香さん?
「うん! とっても美味しいよ! 咲都くん凄いね!」
おっと、華絵ちゃんにも高評価いただきましま!
そして自分でも一口……
「やっぱ美味いね。締めに最高ですわ」
当たり前に美味しかった。コンソメではなく白ダシにしたお陰なのか少しだけあっさりとしてチーズリゾットなのに後に重く伸し掛らない。
中々良い出来になった。
みんなが締めも食べ終え皿が全て綺麗に空になった。
「さて、それではみなさん」
「「「「ご馳走様でした!!」」」」
今日のチーズフォンデュパーティー? は中々に楽しかったし美味しかった。みんなで協力して準備したのが良かったのかもしれない。
そしてクーラーのお陰で気づくのが遅れたがチーズフォンデュって冬にやるものなんじゃないか? という疑問がオレの中に少し残った。
……まあ美味かったしいいか。
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