四章 『本当の異なる世界へ』
四章 プロローグ 『最近の悪い予感は百発百中』
四章 プロローグ 『最近の悪い予感は百発百中』
やっぱりだ。やっぱりこうなった。正直なところ心の何処かで今回ぐらいは大丈夫だろうと思っていた。オレの幸の方の運はいったい何処にぶっ飛んで行ってしまったのか。
いや、一通り通して振り返ると悪い事ばかりではなく良いこともありはした。あんな事やこんな事。しかし比率がおかしくないか?
そんなこんなでオレの頭の中は全く目の前の物事に集中出来ていない。
「……なあ晴香? 少し休憩していいだろ?」
目の前にあるそれに突っ伏す形で晴香の答えを待つ。
「さっきしたばっかりじゃない。急がないと明日には提出なのよ? 付き合ってあげてる私の身にもなりなさいよ」
「「ごめんなさい」」
横で聞いていた華絵ちゃんとも声が被る。
「あっ、華絵はちゃんと半分は終わらせてあと少しだから気にしなくていいわよ? 今日中に終わると思うし。問題は咲都の方よ」
「仕方がないだろ? こんな事になるなんて思ってもいないーー」
「だいたい!」
まだ喋っているのに勢いに任せて言葉を遮られる。
「さっきから口を開けばこんな事になるなんて思わないだ休憩しようだグチグチグチグチ……」
おっと不味い。晴香がキレかけている気がする。いや、気じゃないなこれは。
どうにかして気を直して貰わねば。
「手伝ってくれって言ったのは誰よ⁉︎」
「ごめんなさい晴香様。お菓子にございます」
そう言ってオレは両の手のひらに乗せた梱包されているバームクーヘンの一欠片を差し出す。今日の為に用意したお茶菓子だ。
「そんな事しなくていいから早く続きをやりなさいよ!」
と、怒鳴りつつ晴香はオレの手の上にあるバームクーヘンの袋を開け食べ始める。
食べはするんですね。
こんな言い方をしてはあれだが晴香にはいて貰わないと困る。
これだけ言ってはいるが晴香は聞けば教えてくれるし何よりいないとオレはこいつを諦めからほっぽり出して手を触れもしないだろう。そこは自分でもよ〜く分かってはいる。
しかしだ。今回ばかりは全てオレが悪い訳では無いというのがタチが悪い。全てオレが悪ければ何も思わずに少しは集中出来るかもしれないがそういうわけでもない。
……あ〜ダメだ。こんな事ばかり考えているから集中出来ないんだ。でも人間の集中力は一時間中五分程度しか持たないとも言うしそもそも集中というのは物理的に無理なのでは?
……ってまたダメな方に思考が進んでしまっていた。いかんいかん、しっかりしろオレ。
気合いを入れ直す意味も込めてカフェインの入っているコーヒーを一気に飲み込む。口から喉に流れるコーヒーが鼻腔をくすぐりそして胃に到達。あまり何も食べていないので胃にコーヒーが触れるのごよく分かる。
「よっしゃ! やったるか!」
「その勢よ咲都。やれば出来るんだから頑張りなさい」
「おう、いっちょ本気を出しますかな」
さっさとこいつを終わらせてオレは溜まっているアニメを観るんだ。そう己に言い聞かせ脳と手をフルスピードで動かす。
勢いに任せて次々とそれを消費する。
出来る。今のオレには出来る!
ーーっと、そう思っていた時期が私にもありました。
典型的にダメなパターンですねオレは。
アレから集中力はやはりというか当たり前というか……五分も持たずしてはち切れた。
現状としては半分がやっと終わったぐらいだった。
午前中にコッチに着きお昼から始めて休憩や晩御飯を挟みつつ現在の時刻は午後の九時を回っていた。
残り半分。もうこの辺りで諦めてしまおうか……。半分は出来たんだから怒られるのも半分にはなるだろうか。だがここで諦めては長く付き合ってくれている晴香にも悪い気がする。
とそんな事を考えていると
「やったぁ! 終わった!」
隣で同じように進めていた華絵ちゃんが思わぬ一言を発した。
おわった……? そう聞こえたような?
「お疲れ様華絵」
「ありがとう晴香ちゃん。晴香ちゃんがいなかったら絶対に途中で諦めて明日怒られてたよ」
「いいえ、どういたしまして。でも友達としてこれぐらい協力するわよ」
「本当にありがとう晴香ちゃん!」
という会話が目の前で繰り広げられていた。
「ーーどうしたの咲都? あっけらかんな顔して」
自分でも思わず口を開けバカみたいな顔をしていたようだ。しかしそれも仕方がない。
何故ならーー
「えっ、だって華絵ちゃん今終わったって……全部?」
「うん! 全部!」
華絵ちゃんはとびきりの笑顔でオレにそう告げる。
マ〜ジですかぁ⁉︎ てことは後はーー
「咲都だけね」
続けて考えていた事が晴香の口から発せられる。
……いや、もうなんかねぇ。今この瞬間に何故だか一気に眠たくなって来た。
全てを終えた華絵ちゃんに対してオレはまだ後半分は残っている。目の前が一気にボヤけて来る。
「あっ! 咲都寝ないでよ!」
そんなオレの状態をいち早く察したのか晴香のゲキが飛ぶ。
しかしこのままでは本当に眠ってしまいそうだ。
「晴香さん、一発ビンタお願いしてもいいですか?」
「……えっ、なに? 眠たくなって変態が発動したの?」
「違うよ! なんでそうなるんだ。眠気を覚ます為にだろ」
アホかこの女は。どうしてオレがこの状態で変態を発動しなきゃならないんだ。
「そういうことね。咲都の事だからてっきり変な方に考えちゃった」
……晴香のやつ実は中々の変態な気がして来た。
オレは正座に座り直し目を閉じてゆっくりと息を吐く。そしてーー
「よっしゃ! 本気で来ぃーー」
バァチーン!!!!!!
思っていたより本気のフルスイングが飛んできた。しかも捨てゼリフを言い終える前に。
ぶたれた勢いのまま床に倒れ込み赤く染まっているであろう方の頰をそっと撫でる。
「うわぁ! 晴香ちゃん凄いビンタだったね! 咲都くん、大丈夫?」
「多分大丈夫じゃないです」
あまりに痛すぎて少し涙目になっている顔を床に伏せつつ華絵ちゃんに返事を返す。
何とか痛みを堪え目の端に浮かんだ涙を拭い目の前のーーそう、多分皆さんもうお分かりの夏休みの宿題を終わらせにかかる。
ーーそしてこの夏の色々ありすぎた思い出がふと蘇る。本当、色々ありましたなぁ。
そしてこうも思う。
悪い晴香。多分今日は朝までコース確定な感じです、と。
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