三章 12 『新たな絆』
三章 12 『新たな絆』
テスト返却日の翌日、オレ、晴香、華絵ちゃんは予定通りイーアさんのところへ行くことになっていた。
特に変わったこともなく学校が終わり三人揃ってオレの家へ。
なぜ晴香の家じゃないかというと瞳姉が待ち合わせ場所をオレの部屋に指定したからだ。理由は大体予想がつく。
家に着き晴香と華絵ちゃんを部屋に入れる。華絵ちゃんはオレの家に来るのは今回が初めてだ。
晴香や瞳姉以外の女性がオレの部屋に入るのは初めてじゃないか? もちろん家族は除いて。
やべっ、ちょっと嬉しいかも。
「どうぞここがオレの聖域です」
「失礼しま……ひゃっ⁉︎」
華絵ちゃんがオレの部屋に入ろうとして驚いたのか小さな悲鳴を上げる。
ひゃっ、だなんて可愛らしい悲鳴だ。
まあ悲鳴をあげた理由も大体は予想が出来る。
「お帰り〜。どうしたの華絵ちゃん? なにか変なところでもあった?」
「いや、まさか咲都くんの部屋に瞳さんがいるなんて思ってなかったから……」
オレの部屋には当たり前のようにくつろいでいる瞳姉がいた。
華絵ちゃんが驚いた理由は予想通りだった。そら普通人の部屋にその家族以外の人間がいたらビックリもするわな。しかもその部屋の主の帰宅よりも先に。
「ああ、なるほどね。まあ自分の部屋だと思って座って座って」
というセリフを瞳姉が言う。それオレのセリフな。しかも晴香は当たり前のようにカバンを置きお茶を入れに行っている。
「咲都くん、座ってもいい?」
「もちろんどうぞ。てかなぜか瞳姉に先に言われたけど自分の部屋と思ってくつろいでくれていいから」
それを聞きニッコリ笑った華絵ちゃんは机の前に座り部屋をキョロキョロ見渡している。
な、何か普通の女子高生には気に入らないものでもあるのか?
「な、なにか気になるものでもあった?」
「あっ、ごめんなさい。人の部屋見渡すなんて……。でも男の子の部屋入るの初めてだし咲都くんの部屋っていっぱい物があるんだなぁと思ってつい」
まあオレの部屋は趣味で溢れているからな。現代の女の子、現役女子高生からしたら珍しいものが多いだろう。
「別に漫画とか本なら好きに見てくれていいからね。そこの乳揉みお姉さんがやってるように……」
瞳姉はオレの部屋にそれとな〜く隠して置いてある声優さんの写真集を読みあさっていた。
なぜそれとな〜く隠して置いているのに瞳姉にはバレるのだろうか。
まあオレの部屋を集合場所にしたのはこれが目的だろう。こちらも大体予想通りだ。
「乳揉みとは失礼な! あれはただの晴香へのスキンシップよ」
失礼もなにも実際揉んでんじゃねーか。
そこへお茶を四人分晴香が持ってくる。
「お茶を用意してから言うのもなんだけどイーアさんのところに行くんじゃなかったのかよ」
「大丈夫よ咲都。イーアはいつ来てくれてもいいって言ってたから。あんた達三人も学校終わってすぐは疲れるでしょ? 休憩してから行きましょ。それより華絵ちゃん見てこの声優さん!」
「えっ……あっ、可愛いい! しかもこの写真、この近くの桜綺麗な所じゃないですか?」
「そうなのよ! 来てるの分かっていたら会いに行ったのにぃ!」
華絵ちゃんはオレの部屋についてほんの数分で瞳姉のペースに乗せられていた。
「咲都も突っ立ってないで座りなさいよ。自分の部屋でしょ?」
そう言って晴香はいつのまにか座りお茶を飲み瞳姉と華絵ちゃんの話に参加していた。
三人の女子達は見事にオレの部屋でミニ女子会を開催しくつろいでいた。
この服装はあーだこーだ、この人にはこれが似合うやらそんな話が飛び交っている。
いや君ら、流石にくつろぎすぎだろ。
ーーで、一時間程の女子会の後、オレ達はなんとかイーアさんのところに向かっていた。
「長かった。実に長かった」
「ごめんってば。てか咲都も参加すればよかったのに」
んな無茶な。さすがにあの中に飛び込むほどの知識がオレにはない。
「少し遅くなっちゃったから晩御飯は三人とも瞳お姉さんが奢ってあげよう。華絵ちゃん来れる?」
「はい! 親に連絡入れれば大丈夫です。それより奢ってもらってもいいんですか?」
「いいのいいの! 何か理由が必要ならお近づきの印って事で」
「じゃあお言葉に甘えて。やったー! みんなでごはん〜」
というわけで晩御飯は瞳姉の奢りに。まあいつもの店だろうけど。
歩いてやって来たのはいつもの山の中。
みんなで瞳姉に触れ一瞬にして擬似空間の中に入る。
華絵ちゃんの反応としてはビックリして声も出ないような感じだった。なにせ目の前にいきなり家が現れたのだから。
家の中に入ると相変わらずものすごい甘ったるい匂いに包まれている。
「みんないらっしゃい。と、言うわけで……晴香ちゃ〜ん!」
イーアさんが忙しかったのに続きオレ達のテスト週間がかさなりしばらく会えていなかったからだろうか。初めてイーアさんと会った時の再現のようにイーアさんは晴香に抱きついた。
「ちょ、イーアさん!」
「んん〜久しぶりの晴香ちゃん……ハァハァ、相変わらずいい匂いがしますなぁっと。そっちの子が?」
「そう。この子がこの前の祇園祭の時に巻き込まれた……」
「荒川華絵です。よろしくお願いします!」
なぜか華絵ちゃんはあまり引く事なく目の前のイーアさんと晴香の惨状を見ている。この前の瞳姉で少し慣れたのだろうか。
「なるほどね。華絵ちゃんね。私はイーア。甘いものと可愛いものが好きな魔法使いのお姉さん。これまた可愛い……よろしくぅ!」
そういうとイーアさんは華絵ちゃんにも飛びついてスリスリしている。
初対面でいきなりこの行動にでるイーアさんはある意味すげぇ。そして羨ましい。
「おお! 華絵ちゃんもいい匂いがしますなぁ……。これはかなりいい!」
華絵ちゃんはというと……イーアさんに為すがままに揉みくちゃにされていた。
晴香も疲れて華絵ちゃんを助けないでいられるらしい。
「今日日の女子高生はみんなこんなにいい匂いなの? ハァハァ」
オレの周りの大人はまともな人間がいない気がしてきた今日この頃。
「咲都くんも久しぶりね。仲間外れにされるのはいやでしょ? ほらいらっしゃい?」
イーアさんはそう言って二人を相手にした時とは明らかに違う妖艶な雰囲気でオレに近づいてくる。
羽織っているフードを脱ぎ捨て胸元や脚が露わに。
これは色んな意味でいけませんぞぉ! ここでこの言葉に従うとオレの欲望は満たされるかもしれない。しかし! 晴香や華絵ちゃんから痛い目で見られるどころでは済まない可能性がある。
オレは必死で、必死でなんとか自分を押し殺し……
「え……遠慮しときます……うぅ」
何とかこの一言を喉の奥から絞り出した。
「あら残念」
「なんで尻すぼみなのよ咲都」
オレも残念ですよイーアさん! そして晴香! オレがどれだけこの言葉を吐き出すのに力を振り絞ったか! うぅ……なぜか泣きそう。
瞳姉はというと一人椅子に座りお茶を嗜んでいた。
「で、今日は華絵ちゃんだっけ? の用事かな?」
「そうよ。またステータスの計測をお願い」
「分かったわ。じゃあ華絵ちゃん、こっちの椅子の前に来てくれるかしら? それにしても咲都くんに続いてすぐにもう一人混血が見つかるなんてね。しかもこんな身近に」
そう言ってイーアさんは持っていた杖を投げ捨てる。
相変わらずなんの為にその杖を持っているのかわからない。確か魔法使う時も持ってなかったし……。
華絵ちゃんは言われた通りイーアさんの椅子の前に行き両手に触れる。
……特にこそばゆくは無さそうだ。やっぱりオレの時だけむず痒くしてたのか。オレがあれに耐えるのにどれだけ必死だったか。
「さて、結果はと……魔力は普通ね。属性は土かしら? それ以外も特にはないわね。じゃあ華絵ちゃん、これから大変だと思うけれど瞳を頼ったらいいからめげないで頑張ってね」
その言葉に対し瞳姉は華絵ちゃんに向けて手をヒラヒラ振っている。
「はい! まだまだよく分からない事が多いですけど頑張ります!」
とりあえず用事を終えたオレ達は時間も時間だったのでイーアさんのところをあとにしいつものラーメン屋へ。
「いらっしゃい! お? いつもの三人に新しい子もいるね? 咲都くんの彼女さんかい?」
「ち、違いますよおじさん! 華絵ちゃんみたいな可愛い子がオレの彼女なわけないじゃないですか!」
「可愛いなんて照れるよ咲都くん!」
「てことはまさか瞳ちゃんの……コレ?」
「「違いますよ!」」
またしても晴香とセリフが被る。
ーー瞳姉の奢りでラーメンを食べたオレ達は今日のところは解散することに。
「瞳さん、ご馳走さまでした。それとこれから色々お世話になると思いますけどよろしくお願いします!」
「華絵ちゃんは元気いいね〜。まあイーアも言ってたけど何かあったら私を頼ってくれていいから。もちろん晴香も咲都も。これからは三人頑張らなきゃね」
「そうね。華絵にも魔法を教えなきゃだし」
「私もついに魔法使いか〜。なんだかワクワクするね! 晴香ちゃんも咲都くんも使えるんだよね?」
「まあ一応はね。この前の祇園祭の時に使ってた……何て説明したらいいかな。キラキラしてたやつ? でいいかな。あれ魔法だよ」
今思ったが魔法の説明って難しいな。ずっと当たり前にあったことじゃないことだけに余計に。
「へ〜! 私も二人に追いつけるよう頑張らなくっちゃ!」
「私も咲都や華絵に負けないように練習しないと」
「晴香も華絵ちゃんも頑張れ」
「なんで咲都は他人事みたいに言ってるのよ。あんたも練習するの!」
こうしてオレに続き華絵ちゃんがアーウェルサとの間に巻き込まれ数日、三人の間に普通の世界ではありえない新たな繋がり、絆が出来た。
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