三章 11 『勉強会の成果をご覧あれ!』

 三章 11 『勉強会の成果をご覧あれ!』




 テスト週間、祇園祭の日を除きその他の日の放課後を全てテスト勉強に費やさせられたオレはかなりの趣味ロスに陥っていた。

 なにせ学校が終り帰ったらすぐに着替え晴香の家へ。そして勉強。晩御飯の時間になると一旦解散。

 一旦とはいうものの華絵ちゃんはそこで帰りオレは晩御飯を食べ終わるとまた晴香の家へ。そして勉強。

 そして夜十時ぐらいに勉強会は終了し風呂に入り勉強、勉強、勉強による疲れですぐに就寝。朝になると学校。という地獄のローテーションを約一週間繰り返していた。

 オレの数多い趣味に触れる時間はこのテスト週間中ほとんどなかった。


「どうしたんだよ咲都。最近やけに疲れてる感が漂ってるというか……」


「わかるかクソ鉄よ。勉強のし過ぎで死にそう」


「そういや晴香と華絵ちゃんと勉強会してるんだったな。いい機会だ、明日からのテストでそれなりの点数取れよ」


 確かに今までよりは点数は取れるような気がしなくもない。なにせこんなにもの時間を勉強に費やしたのだから。

 てか取らないと晴香になんて言われるか……。


「でも虹夜くんがそれだけ勉強頑張ったなら今回はいい点数取れるよ」


 お、嬉しい事言ってくれますね宇陀くん。


「あたぼうよ。テストなんか楽勝じゃ! 今回は全部八十点以上かなぁ! 明日からはアニメ三昧じゃぁ!」


 ーーと思っていた時期がわたしにもありました。

 今回もテストは五教科ある。それが二日に分かれて行われる。ということはだ、明日も一日、明後日のテスト分の勉強会が行われるということになる。

 明日こそアニメ見ようと思ってたのにぃ!

 あーつら。つらたん。

 誰だよテストとか考えたボケナス野郎は……。

 あーつら。


 放課後、


「あの晴香さん? 明日のテスト終了後の放課後も勉強会ってするんですか?」


「当たり前じゃない。もう一日テストはあるんだから」


 オワター。一縷の望みをかけて聞いてみたがその一縷は虚しく玉砕された。

 もういっそ諦めて勉強するしか道がないのかオレには。

 どうしてそんなに勉強するのが嫌いかって? オレだって好きなことについては勉強すれば頭に残る。しかしだ、どうでもいいことの勉強はしてもそのほとんどが頭から消えていく。こんな無駄なことがあるだろうか。

 なので嫌いというよりかはやっても意味がないと思ってしまう。


 さらには中学、高校とレベルが上がるにつれてこれ将来どこで使うんだよってものが増えている。

 せめてもう少し実用的な勉強をさせてくれないものかね。

 そういうわけで授業ではとりわけ家庭科や技術などの実際に使えるものは得意だ。

 じゃあなぜグローバルな社会に必要不可欠と言っても過言ではない英語のテストの点数が前悪かったかって? ……単に覚えられないからです。ごめんなさい。


「じゃ、着替えたら来なさいよ。待ってるからね〜」


 と、晴香はオレの気も知らないで陽気に家に入っていく。

 ちょっとゆっくりしてから行こう、そう心に決めたオレはオレは優雅に紅茶を入れアニメを観ていた。


「ここでこんな展開になるなんて。神の実芭蕉泣ける……ウゥ」


 ーー時間は過ぎ勉強会のことなどすっかり忘れてアニメ鑑賞に浸っていた。

 まさかあの笑える展開からこうもってくるなんてなんて泣けるアニメなんだとしみじみ……。

 なくなった紅茶を入れようと席を立ちーー窓の外から視線を感じる。

 オレの部屋の窓は晴香の部屋の窓と向かい合わせになっていて……。

 御想像の通りそこにはこちらを睨んでいる晴香と手を振って笑っている華絵ちゃんがいた。

 そこでようやく思い出す。


 ヤベっ、勉強会忘れてた!


 オレは窓をそっと開け晴香の顔色を伺いつつ……


「何してたの?」


 ニコッと笑い問いかけてくる晴香さん。


「え、ちょっと休憩をと思ってアニメをーー」


「言い訳してる暇があるなら早く来なさい!」


「咲都くん待ってるよ〜」


 バンッ!


 晴香はそう言い自分の部屋の窓をかなりの勢いで閉める。

 ……おっかねぇ。これは出来るだけ早く行かねば。


「ーーというわけで咲都二等兵、ここに即座に参上いたしました!」


「よろしい。早く座りなさい……ベット以外にね」


「ははぁー!!」


 今日は流石にやらないがいつかそのうちベットにダイブしてやろう。


「咲都くんどんなアニメ観てたの?」


 ついに来ましたオタク心くすぐられるこの質問。

 オレの観ていたアニメはもちろん神の実芭蕉だ。

 しかし説明する時は相手を引かせない程度に内容を分かりやすく……


「神の実芭蕉ってアニメ観てたんだ。女子高生に扮した女神様が実芭蕉を食べて世界を救うって話」


「あぁ! この前話してた!」


「……なにそのストーリー」


 晴香からしょうもないものを見るような視線が送られてくる。


「いや笑いあり涙あり時々エロありの色んな意味で神アニメなんだって!」


「実芭蕉ってなんなの?」


「ああ、バナナの事だよ」


「「バナナ?」」


「そうバナナ」


「あっ! それでこの前言ってたヒロインがバ・ナーナちゃんなんだね!」


「さすが華絵ちゃん! 鋭いね!」


 女神さまがバナナを食べて人々を幸せにする。ん? よく考えるとクソストーリーのような……。いやそんなはずはない。なにせ周りの友達は大体ハマっている。

 そしてバナナを食べるだけで世界を救うなんて素晴らしいことじゃないかと、自分に言い聞かせ浮かんだ疑問を打ち消す。


「バナナ食べるだけで世界が救われるなら私達混血は苦労しないで済むのにね」


「アニメに現実的な文句つけるなよ。てかテロップで『バナナなどの食べ物で遊ばないでください』ってちゃんと最初に入る良心的なアニメなんだぞ」


「へー。じゃ、明日のテストの勉強しなさい」


 なんだよその生返事。アニメでやってたみたいにバナナでスケベな事してやろうか……いやいかん。テロップに出てた事はちゃんと守らねば。




 ーーで、無事にテストは終わり返却日、オレと華絵ちゃんは晴香の家への道、まあオレからすればいつもの帰り道なんですが、を重い足取りで歩んでいた。

 なぜ重い足取りかって? ……察してくださいませ。


「さて二人ともテストお疲れ様。早速勉強会の成果を見せてもらおうかしら」


 晴香はなぜかルンルンしている。勉強会の成果がオレ達に出せたと思っているのだろう。

 チラッと横目で華絵ちゃんを見ると……ダメな雰囲気だなこりゃ。目が死んでいる。


「てか晴香と華絵ちゃんはクラス同じなんだから点数知ってるんじゃないの?」


「まだ私も華絵もお互いの点数は見てないわ」


「さよですか」


 それで華絵ちゃんも晴香の家に来る、もとい連行されているのか。


 無事、連行は完了し晴香の部屋へ。

 オレと華絵ちゃんから出ている空気は更に重たいものへと変化していく。


「さあ二人とも座って。テストを出していきましょうか」


 この晴香の冷ややかな物言い。さすがにオレらの空気を感じ取ったか。

 てなわけで点数は……


 国語ーー晴香、九十二点。オレ、五十二点。華絵ちゃん、五十六点。


 数学ーー晴香、七十五点。オレ、秘密。華絵ちゃん、四十八点。


 理科ーー晴香、八十三点。オレ、六十三点。華絵ちゃん、五十七点。


 社会ーー晴香、八十八点。オレ、四十二点。華絵ちゃん、七十点。


 英語ーー晴香、九十点。オレ、三十八点。華絵ちゃん、五十九点。


「……はぁー。咲都はまだしも華絵も中々の点数ね」


「「申し訳ありません!」」


 しかしいつもに比べれば確実に点数は取れた方だ。英語は置いといて。


「私の教え方が悪いのかな……」


「そんな事ないよ晴香ちゃん!」


「覚えても知らぬ間に記憶から抜けていくオレの頭がダメなんでございます。どうかご自分を卑下なさらぬよう……」


「で、咲都は数学何点だったのよ? 最後まで隠すなんてまさか数学得意の咲都が三十点以下とかじゃないでしょうね」


 そう、オレは数学の点数を最後まで隠しておいた。もちろんあえて、である。

 なんだって評価は落として上げる方が褒められやすいものだ。それを見越しての隠し球といったところだろうか。


「このオレが三十点以下、赤点な訳あるか! 見よ! この煌びやかで美しい数字を!」


 オレはそう言ってカバンの中から数学のテスト用紙を取り出し両手で広げる。


「1と……0が二つ……百点⁉︎」


 オレが今回の数学のテストで取った点数は百点だった。そう百点! 満点ですよみなさん!


「すごいね咲都くん! 私百点なんて小学生以来ぶりに見たかも!」


 オレも百点なんて小学校の低学年ぶりに取った。


「まあオレからすりゃ楽勝かな。このテスト用紙が目に入らぬかぁ! なんつって〜」


「ははぁ〜」


 華絵ちゃんはノリよく頭を下げている。


「確かに百点は凄いわね。しかも今回の数学はみんなの間でも難しかったって話題になってたのに」


 おお、いいぞいいぞ。他のテストの悪い点数の印象が薄れつつあるなこれは。

 そしてもっとオレを褒めたまえ!


「でも」


 ん? でも?


「それで他の点数が良くなるわけじゃないし……。ていうか英語の点数はどういうことなの? もう少しで赤点じゃない!」


 あっ、早くも作戦失敗しました。




 ーーてなわけで晴香にはコッテリしぼられオレと華絵ちゃんはテストの復習を長々とさせられたのでした。

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