三章 10 『楽しんでたんですね美山ちゃん』

 三章 10 『楽しんでたんですね美山ちゃん』




 祇園祭の一件が終了しオレ達は晴香の家に集まっていた。


「あ〜疲れたんもぉ。祭に行ってあんなことあるなんて思いませんやん普通」


「はいはいお疲れ様。じゃあこれから華絵にアーウェルサの事について教えるから……華絵ちゃん、何から聞きたい?」


「ゔーん……さぁいしょぉからがなぁ」


 持ち帰ったチョコバナナをモグモグと美味しそうに食べながら華絵ちゃんは答える。

 な、なんかさぁ……チョコバナナを頬張る華絵ちゃんが何故だかエロく見えてしまうのはオレの心が腐ってるからなのかな。




 ーーオレの時と同じように一通りの説明を終え後日華絵ちゃんのステータスを見てもらうためイーアさんの所に行く事になった。


「一応テスト期間だし私も華絵もテスト終わってからでもいい?」


「私はいつでもいいわよ。ほか何か聞いておきたい事とかある?」


「はい!」


 オレは勢いよく手を挙げた。


「……なに咲都?」


「今は戻ってるけどさ、天族と戦ってた時瞳姉の目が赤くなってたのってどうしてなんだ?」


 瞳姉の目は天族と戦っていた時、明らかに何時もの黒目とは違う色、真っ赤に染まっていた。しかもあの時瞳姉は少し苦しそうだった。

 ゲームとかでよくある強力な力を使えるが体に負担がかかるとかそういうものだったのかな。

 なにか危ない状態とかになっていたとかじゃないといいんだが。


「ああ、あれね。私の目は戦ってると混じってる血の影響で段々赤くなっていくの。ちょっとしんどくなるけど気にする程の事じゃないわ。そんなところかしら」


 あらかたの予想通りか。

 本当に気にする程ではないのか気にはなるが本人がそう言っているんだ。信じる他ない。

 今後は少しでも瞳姉に負担をかけないようオレが強くならなければいけないな。

 ……一応頑張ろっ。


 瞳姉はなにやら報告があるとかなんとか言って華絵ちゃんへの説明が終わり次第先に帰った。

 オレ達は少しゆっくりしてから解散する事に。


「じゃあおやすみ晴香ちゃん、咲都くん」


「「おやすみ」」


 華絵ちゃんをバス停まで見送り夜の道を晴香と歩るく。


「あ〜ほんと今日は疲れたな。帰ってアニメでも見とこ」


「勉強は?」


「し、しますよぉ……多分」


「最後なんで小声でなのよ」


「じゃあ晴香もおやすみ。暑いからって裸では寝るなよ」


「寝ないわよ変態咲都!」




 して翌日。

 結局アニメをワンクール分ぶっ通しで観たオレはあまり眠れず朝を迎えた。


「おはよう。今日はえらく眠そうね。昨日の事のせいであまり眠れなかったの?」


「おはようございます晴香さん。昨日はアニメを観ててあまり眠れなかった……あっ」


 あまり脳が働いていないオレは言わなくてもいい思った事を何気なく口に出してしまった。そして後悔が遅れて頭をよぎる。


「あんたねぇ……勉強する気あるの?」


「あっ、ありますよ! 今日から、そう今日からやるんですよオレは!」


「そういや分かってると思うけど今日も放課後私の家で華絵と勉強会あるから来なさいよ」


 そういやそうだった……。

 帰ったら昨日観れなかったアニメを消化しようと思っていたのに。何か手はないのか……あ!


「勉強会ってもよ、そう毎日晴香の家に行ってたら華絵ちゃんのバス代がバカにならないんじゃ」


「なに言ってるの? 華絵は学校バス通学なんだから定期券持ってるに決まってるでしょ?」


 おっとそれもそうか。こんな当たり前の事に気づけないなんてやはり頭が働いていない。

 クソ、こうなれば


「あっ、そういやオレバイトがーー」


「今回のテスト週間はバイト入れてないんでしょ」


 これもバレてる。


「なにを企んでいたのか知らないけど諦めて来なさい。てか来ないとどうせ勉強しないんでしょ? 今日からするって言ってるならたまには誠意ってものを見せてみなさいよ」


「へ〜い」


 てことは学校から帰ったらすぐに晴香の家か。これは学校で寝ておくしかないな。


 学校につき晴香と別れ教室へ。


「よぉ咲都。昨日は楽しめたかクソ野朗?」


 もはや当たり前のようにオレの席に座っている鉄矢。

 どうやら晴香と華絵ちゃんの浴衣姿が見れなかったことが悔しいらしい。


「まあな。目の保養にはなったけどめちゃくちゃ疲れたな」


 疲れた理由は祭りには関係ないんですけどね。


「あ〜いいなぁ。オレも行きたかったぜ……くぅ! あっ、美山先生が呼んでたぞ」


 最後のを先に言えや!

 てかなぜニヤニヤ笑ってやがるコイツ……。


「まあお前があの場にいたら華絵ちゃん見て失神してたんじゃね? じゃちょっくら行ってきますわ」


 呼ばれているとの事でこちらももはや行き慣れた職員室へ。


「美山ちゃーん、いますかー」


「こら、だから職員室では美山先生って呼びなさいって言ってるのるでしょ! 他の先生方に怒られても知らないわよ」


 それを職員室で言うなよ。説得力のカケラもないんですけど。


「それよりも見て見てこれ! 綺麗でしょ? 昨日出店の福引きで当たったの」


 そう嬉々として言う美山ちゃんの服の胸あたりにキラキラと電気的な光を放つペンダント? のようなものがつけられていた。

 小学生の低学年か!

 まあ、これで喜んでいる美山ちゃんが可愛くないかと言われれば明らかに可愛いに類するのはわかるが。

 てかなぜこれを付けていて他の先生に何も言われないんだ。そちらの方が気になってしまう。


「……よかったですね。それより用ってなんですか?」


「ああ、そうそう。今日の六時間目にある学活の授業で多くのプリントを使うから休み時間に持って行くの手伝ってくれない?」


 そんな事かよ!


「いいですけどそれをなんでわざわざ今呼び出して言うんですか? 休み時間でもよかったんじゃ……」


「朝早くに来てる鉄矢くんにも言ったんだけどこれを早く誰かに自慢したくってね!」


 そう言い美山ちゃんの指差す先にはキラキラと光るペンダントが。

 鉄矢のやつも既に犠牲者だったのか。それでニヤニヤしてやがったのかあのクソ野朗は。

 てかそんな理由で呼ぶなよ!


 ーーそして学活の時間、美山ちゃんによる夏休みに向けての授業ーーではなく例の光るペンダントの自慢がみんなに向け始まっていた。

 クラスのみんなはなぜか文句の一つも言わず嬉々として話す美山ちゃんの話を聞いていた。


「でね、A賞だからゲームソフト一本って言われたんだけどこれが欲しかったからお店のおじさんに頼んでD賞のこれにしてもらったの。あのおじさんいい人だったな。何回も本当にいいのって聞かれたけど」


 バカかよこの先生は。それならA賞のゲームソフト売ってその金でいくらでもそのキラキラ光るやつ買えるだろうに。


「それとね、屋台で焼きそばとたこ焼き買って〜、唐揚げとケバブも買って〜、あとチョコバナナとりんご飴も買って〜」


 食い過ぎだろ!

 よくそんなにもその細い体に入ったな。


「めちゃくちゃ楽しんでたんだな美山先生」


「ぽいな。オレらよりゆうに祭を楽しんでたんじゃね。見回りってなんだろうって疑問が湧いてでてくるな」


「でも美山先生ってお茶目なところがあるんだね」


 オレと鉄矢、宇多くんは美山ちゃんの話に対しての感想を小声で話していた。

 何故かオレらの席にまで来て喋っている鉄矢は喋るのに夢中な美山ちゃんには気づかれていない。


「お茶目ってレベルじゃないだろ美山ちゃんは。委員やって数ヶ月だけど思い知らされたわ」


「そうなんだ。確かに虹夜くんは僕らより先生に接すること多いもんね」


「そうなんだよ。今日の朝もあのキラキラペンダントの自慢のためだけに職員室に呼び出してくれちゃってよ。てかクソ鉄知ってたなら言えよな」


「ああ、やっぱりそうだったのか。いやオレも半分はないだろうって思ってたからな。まさか本当にあのペンダントを自慢するために咲都を呼んだとは」


 とか言いつつまた笑ってやがる鉄矢。てめぇ席移動してるの今すぐチクってやろうか。


「あっ、鋼くん、どうして席移動してるの?」


 ざまぁみやがれクソ鉄。オレをはめた天罰が今下ったんだよ。怒られろ。


「えーっと……美山先生の素晴らしい話を聞いて感想の交換をしてたんですよ」


 なんの言い訳だよ。そんなすぐバレる嘘でどうにかなるわけーー


「そうなの? ならいいけど。でねーー」


 ええっ⁉︎ 怒れよ美山ちゃん!


 そして美山ちゃんの話からみんなの話になり各自が昨日何していたかというどうでもいい話で時間は過ぎ


 キーンコーンカーンコーン


 無事授業は行われることなく六時間目は終了した。




「ーーてなわけで朝から呼び出して自慢されるわ六時間目もまた自慢話に付き合わされるわでさぁ。あれ本当に先生なんだよな?」


 帰り道、晴香に今日の美山ちゃんによるお祭の感想について少し愚痴っていた。


「ふふっ。面白い先生じゃない。私は美山先生好きだけどなぁ」


「いやオレも嫌って訳じゃないけどさ。むしろこう色々とそそるというか……」


「変態な欲望丸出しの感想ね。少しは純粋な美山先生を見習ったら?」


 て言われましてもね。思春期真っ盛りの男子なら仕方ないと思うんですが。えぇ。


「そういう咲都は昨日の祇園祭、あの事抜きにして楽しめたの?」


 あの事ってのは多分天族との戦いのことだろう。


「まあ祇園祭なんて一人じゃ絶対行かないし晴香と華絵ちゃんと一緒ってのはそれなりに楽しかったよ。二人の浴衣も見れたしな」


「そう。ならよかった。来年もみんなで行こうね」


 ーーそういう晴香の横顔は美山ちゃんに引けを取らない純粋な笑顔を浮かべていた。




「ーーあっ、この後の勉強会ちゃんと来なさいよ」


「……はい」

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