三章 7 『祇園開戦』

 三章 7 『祇園開戦』




 辺り一帯は停止し静寂に包まれ……そう、空間に包まれていた。


「えっ⁉︎ 周りの人が止まって……でも晴香ちゃんや咲都くんは動いてる。これってどうなってるの⁉︎」


「華絵、とりあえず落ち着いて。今は説明する時間がないけどゆっくりもしてられないの。まずは瞳姉に急いで連絡をーー」


 空間に巻き込まれ数秒、晴香は瞳姉に連絡を、オレは華絵ちゃんを守るように辺りを警戒していた。

 華絵ちゃんがテンパるのも仕方がない。なんせオレの時と同じ、いきなり周りは停止し今まで聞こえていた祭の音色や喧騒が一瞬にして止んだのだから。


 華絵ちゃんが昨日見た夢はやはりアーウェルサに繋がる夢だったようだ。この状態で動いて、喋っている華絵ちゃんがその事実を証明している。

 辺りを見回しているとビルから人影が飛び降りーー


「ーーっとお待たせ。咲都に晴香……えっ、華絵ちゃんだっけ? も動いてる……わね。てことは混血なの?」


 相変わらず来るのが早いな瞳姉は。


「華絵はたった今、初めて巻き込まれたの」


「なるほどね。今このタイミングでか。少し不味いわね……」


「どうして?」


「私が咲都と晴香に祇園祭に絶対来てって言っていたのは今日空間が現れてここにアーウェルサのヤツらが来ることが分かってたからよ」


 それで来るのが早かった……はっ⁉︎ ここに⁉︎


「どうして瞳姉がそんなこと知ってるの?」


「実はこの祭の最中に毎年天族と鬼族の奴らが手を組んで数に物を言わせて乗り込んでくるのよ。去年までは私一人でもなんとかなったんだけど年々数が増えてて今年は私一人では適応までの時間的にきついかもしれなかったから咲都と晴香には来てって言ってたの。それと二人の練習にも丁度良いかな〜って思ってね」


 数が増えるからオレ達は戦闘の練習ついでに援軍として来て欲しかったわけか。そして瞳姉は毎年の事だから近くで待機していたと。

 しかし状況としてはオレ達に加え華絵ちゃんがたまたまとはいえ巻き込まれてしまったと。

 ということは数が年々増えているという敵が多い中で何も出来ない華絵ちゃんを守りながらの戦いになる。

 てか敵が来るって分かってるなら最初から教えておいてくれればよかったのに。


「で敵の想定人数は瞳姉の感でどれぐらいなの?」


「多分百以上かな……」


「「百⁉︎」」


「うん百」


 マジかよそれ。そんなのオレ達に相手出来る数じゃないだろう。

 それに華絵ちゃんを守りながらなら尚更……


「ちなみに去年はどれぐらい……?」


「七十ぐらいだったかな? それぐらいなら私一人でも何とかなるんだけど」


 一人で七十ですか……。やっぱりバケモノだ瞳姉は。

 てか数的に晴香が十〜二十相手に出来たとしてもオレは約十を相手にしなきゃならないわけだろ……。そもそも無理くね?


「一応こっちの本部にも要請してある程度したら援軍が来るかもしれないけどみんな遠いからね。私たちでどうにかすることを第一に考えて対処に当たるわよ」


「わかったわ瞳姉」


「あの私はどうしたら……。今はよく分からないけど危ない状況なんですか?」


 今まで黙っていた華絵ちゃんがーー不安だったのだろう。少し涙ぐんだ顔で瞳姉に問いかける。


「そうね。華絵ちゃんだったかしら。少し危険な状況よ。巻き込まれたからには咲都や晴香と同じように説明はしてあげるけどさっきも言ったように今は時間がないの。咲都と晴香、二人で華絵ちゃんを守ってあげてね」


「「了解!」」


 正直任せれても怖いし出来るか分からない。が、今はそう言える状況でもない。ならばやる、それだけだ。


「私は早速こっちに来てるクソどもを潰しに行ってくるわ。二人とも気をつけてね。特に咲都、咲都はまだそう強くはないわ。危なくなったら華絵ちゃんを連れて何とか逃げなさい。もちろん晴香もよ」


「ええ」


「わかってますよ」


「よし。じゃあお二人さん、任せたわ」


 そう少し早口で言い残し瞳姉はビルの上へと飛んで姿を消した。

 オレ達にも瞳姉に言われたように華絵ちゃんを守りつつ戦わなければいけない。

 本当に敵の数が多ければそれだけ殲滅に時間がかかるということ。殲滅までに時間がかかればそれだけ適応される可能性が出てくる。急がなければならない。


「華絵、ごめんね。不安でしょうけど今は私と咲都が守るからついて来てね」


「ゔん。二人とも頑張っでね」


 華絵ちゃんも状況がよく分からないなりにだが少しは察しているのだろう。

 状況への適応が早いというかなんというか。強い子だな。

 オレも頑張らなければ。


 瞳姉と別れて数秒、少し遠くでも瞳姉の魔法だろうか、無数の爆発音が鳴り響いていた。

 華絵ちゃんも流石に爆発音には恐怖心を抱いているのだろうか。少し顔が強張っている。


「華絵ちゃん大丈夫だよ。この爆発音は胸揉み変態お姉さんの技の音だからさ。ほら、こんな時だけど元気元気! 不安かもしれないけど泣いてちゃ華絵ちゃんの可愛い顔が台無しにだよ?」


「咲都くん……クスッ、うん! そうだね! 私の為にありがとう!」


 そう言って華絵ちゃんはニッコリと笑ってオレに応えてくれた。我ながら臭いセリフを言ったがそれで華絵ちゃんが少しでも不安から解放されるのならそれに越したことはない。


「流石咲都ね。こういう時だけは尊敬しちゃうわね」


「だけは余計だだけは」


 小走りに軽口を交わしながらアーウェルサから来た敵、瞳姉の言っていた天族と鬼族を探す。

 といっても鬼族は多分見たことあるが天族はない。でも鳥人間みたいなのを華絵ちゃんが夢で見たと言っていた。なのでそんな感じのやつを……っと、いらっしゃいましたね。

 背中に羽が生え顔は鳥に似ているがその口には小さいながらにも牙が生えている。

 そして全員腰に刀のような物を帯刀している。

 見た感じあれが天族だろうか。まさに人間と鳥を混ぜた鳥人間のような見た目をしている。

 ここにいる数は十。

 どうやら鬼族はあそこの集団にはいないようだ。


「晴香、何人任せられる?」


「相手は見た感じ天族ね。鬼族はいないのかしら。低級が九、下級が一ね。咲都には下級は厳しいかもしれないから低級を三から五任せるわ。あれから魔法もちゃんと練習してるんだから頼むわよ」


 五体か。正直不安ではあるが……日頃の練習の成果をお見舞いしてやる!


「おうよ! 任せとけ! 華絵ちゃん、ここで身を潜めて静かにして待っててくれ。ちょちょいとあいつらぶっ飛ばしてくるからさ」


「うん。……二人とも頑張ってね!」


 この状態でもオレ達へ元気に言葉をかけてくれる。流石元気が一番の華絵ちゃんだ。


「ええ!」


「おうよ!」


 そう華絵ちゃんに言い残しオレ達は天族の集団めがけ走り出す。

 晴香が何もない空間から銃を二丁取り出し光輝せーー


「えっ! 動いてる人間が二人こっちにーー」


「私たち混血がお相手を。こちらの世界に仇なそうとする貴方達をーー」


「排除してやる!」


「あっ! 私のセリフ!」


 晴香のセリフを横取りしてオレは両手を水色に輝かせ水魔法を集中させ刃状に保ち走っている勢いに任せ放つ!


 「くらえや『デュアルアクアカッター』!」


 ーーオレはここ最近の練習期間で片手だけではなく両手に魔法を留めることに成功していた。

 他にも少し技のレパートリーが増えたが成功率と威力、命中率、そして対多人数ようという全ての条件一致をとってこの技を放つ!

 あっ、そういやどれが下級の天族なのか聞いてなかった〜!


 オレの放った魔法は天族の集団目掛けて飛んでいき見事に数体に命中。練習の成果か確実に構築スピード、技自体の速度も上がっている。

 そこには確実に練習の成果が形として現れる。

 何体かがオレの魔法に断ち切られ胴体から下半身への繋がりを失い地面に崩れ落ちる。

 イーアさんの所で的を相手にだが対人戦もかなり練習した。


「あれ? 咲都やるじゃない! 下級もやれるなんてちょっと見直したわ!」


 あ、下級ってのもやってたんだ。

 言われてみれば一体服装が微妙に違うような。

 ならあと数体は雑魚ばっかりか。これなら楽勝だ!


「クソッ! 爆発女以外にも半端者がいるなんて聞いてないぞ! お前ら散会だ!」


 残った天族達は生えていた翼をはためかせ空に舞う。

 おいそんなのありかよ! こっちこそ飛ぶなんて聞いてねえよ! ……いや羽があるからそりゃ飛ぶか。

 しかし飛ばれては魔法が当てれないーー


「咲都任せて!」


 そういうと晴香は銃を構え光の弾丸を飛んでいる天族目掛け撃ち上げる。

 次々と……いや、百発百中で光の弾は命中し天族達は撃ち落とされる。


「私の弾は文字通り光の弾丸よ。その程度の速度で飛んでても余裕で当てれるわよ」


 おぉ、戦ってる時の晴香さんはやっぱりかっけぇ。


 二人で十の天族を十数秒で片付けることが出来た。

 この調子で残っているヤツらを潰しにーー


「っと、やるわね二人とも。コンビネーションもバッチリじゃない。まあ晴香からしたら楽勝かもしれないけど低級でも天族が十となると少しめんどくさいからね。今回は咲都のお手柄ね。しかも下級まで倒すなんてやるじゃない」


 目の前に降りてきた瞳姉がそんな事を言ってきた。

 まあそれほどでも……って、そういや爆発音がしなくなっているな〜と思っていたらビルの上でオレ達を見物してたのか。


「なにビルの上から呑気に高みの見物決めてるんだよ瞳姉。他のヤツらをーー」


「あぁ。それなら目につくヤツらは全部潰して来たわよ。大体五十ぐらいだったかしら」


 あっ、そうですか。そんなにももう倒されていたなんて。そら失礼。


「にしても今回は私が潰したのも天族だけだったし……今年はバカの鬼族は来てないのかしら?」


 そういや瞳姉の話では去年までは天族と鬼族が来ていたらしい。しかしオレ達が倒したのも瞳姉が倒したのも天族。

 今年は鬼族はいないようだ。となると……


「じゃあこれで今年は終わりなのか? オレが少しは戦力になることも分かったことだし帰って晴香の家でゆっくりーー」


「いやまだよ」


「え?」


 瞳姉が気を抜くオレを止める。


「こっちに来てたヤツらが全部殲滅出来たなら空間が解除されて止まってる景色や人が動き出すはずだわ。なにのまだ世界は空間に包まれたまま」


 晴香が瞳姉に続きその理由を説明してくれた。

 言われてみればそうだ。ここはまだ空間の中。景色も人も動いていない。

 しまった……フラグ立ててしまったのかオレは。


「とりあえずここからはみんなで行動する方がいいわね」




 瞳姉がそう言い三人で華絵ちゃんの元に向かおうとしてーー


「ーーみんな危ない!!」


 華絵ちゃんの叫び声を聞き目線を見て瞬時に上を向く。

 ーー頭上十数センチ、そこにはオレ達三人に目掛けて上空より降りてくる四本の銀刃の先端が今まさにその光景を写す目にめがけて迫って来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る