三章 6 『新たな混血は祭の音とともに』
三章 6 『新たな混血は祭の音とともに』
当日。そう、祇園祭当日。オレは少し浮かれていた。
な、ぜ、な、ら!
晴香と華絵ちゃんはなんと浴衣で祭に行くつもりらしい。うひょ〜!!
これに喜ばずにいられる男子がおりますか! いやおらん!
鉄矢と宇多くんには悪いがオレ一人で目の保養をさせてもらうとしよう。宇多くん……すまない! 鉄矢はザマァ。
教室では今は帰りの会、連絡事項の伝達中だ。
「ーーと、今日は祇園祭がありますね。行く人も大勢いるとは思いますが羽目を外し過ぎないように。学校から先生達も見回りに行きますからね。それとテスト週間でもあるわけですから帰宅したらちゃんと各自勉強をしておくように。先生からは以上です。誰か他にーーないようね。じゃあ虹夜くんお願い」
「きり〜つ、礼」
「みんな気をつけてね〜ふんふん♪」
多分美山ちゃんも見回りに行く先生の内の一人なのだろう。浮かれているのが丸わかりだ。
挨拶が終わり今日行けない鉄矢に渾身のドヤ顔を向けてやる。くっくっく、睨んできてやがる。……げっ、こっち来やがった。
「……なに宇多くんの後ろに隠れてるんだよ」
「いや別に……。てかさ美山ちゃん見回りに行くとか言ってたけど絶対楽しむつもりだよな。鼻歌まで歌っちゃってさ」
「それは思った」
「僕は塾で鋼くんは勉強だけど虹夜くんは楽しんできてね」
「おう! 今日は晴香も華絵ちゃんも浴衣らいしからな。存分に楽しんでくるぜ」
「晴香と荒川さんの浴衣か。くっそ〜、行きたかったなぁ……」
「僕もあの二人の浴衣は見てみたかったなぁ」
まだ喋っている名残惜しそうな鉄矢と塾に行く宇多くんに別れを告げオレは校門に。
今日は晴香と華絵ちゃんは浴衣を着付けるらしいので晴香の家に直接行くらしい。
なので帰り道は晴香と華絵ちゃんとオレの三人だ。
「へ〜、こんなお寺の中を通って帰れるんだね! 私帰る方向が一緒の友達いないしみんなで帰れるのなんか嬉しいな〜」
「確かに寺の中通る道ってのは珍しいかもな」
「それもそうね。私達からしたらもう当たり前の道になってるからね」
「そういやさ、この前オレと晴香の短冊の話はしたけど華絵ちゃんは何て書いたの?」
「私はね〜いつまでも元気で入れますようにって書いたの! それともう少し頭が良くなりますようにって」
「えっ、華絵も二個書いたの?」
「うん。どうして?」
「流石華絵ちゃん、分かってるねぇ〜」
最近思うが華絵ちゃんもオレと同じような匂いがする気がする。
ーーとかなんとかで帰宅。
玄関前で二人とは別れ集合時間までゆっくりしておくことに。
別れる時に心優しいオレは浴衣の着付けを手伝ってやろうか、と晴香に提案したが肩パンをくらい門前払いされた。
……あいつここ最近オレに暴力ふるい過ぎじゃね?
そして集合時間。
寝ていたオレは数分寝坊をしてしまった。どうやって起きたのかと言うと部屋の窓越しに晴香の呼ぶ声で起こされたました。
「ほんと咲都は咲都ね。私と華絵は着付けしてちゃんと集合時間に玄関の前に出てたのに!」
「すいません。今回ばかりは返す言葉もございません」
「まあ晴香ちゃん、数分だししょうがないよ」
「華絵ちゃん優しいですね。わたくしその優しさに泣きそうにございます」
「ダメよ華絵甘やかしちゃ。第一私が起こさなきゃ数分で済まなかったに決まってるじゃない」
……確かにおっしゃる通りで。寝るとも思ってなかったので目覚ましなんかかけてなかったしな。
「でもまあ確かに過ぎたこと言っても仕方ないか。バスは次の乗れば良いしね。華絵に免じて今回は許してあげるわ」
「ははー! ありがたき幸せ。でもそれなら最初から怒らないでも……」
「あぁ⁉︎」
「いや何でもないですごめんなさい」
「咲都くん反省しなきゃダメだよ?」
「はい……華絵ちゃんもごめんなさい」
オレ達の家から祇園祭までは近くのバス停からバス一本、数十分で行ける。なので自分で言うのもなんだが数分遅れたぐらいでは特に問題はなかった。
そういえば皆さんに伝え忘れていた超超大事なことが。晴香と華絵ちゃんの浴衣姿の詳細ですよ!
晴香は水色と白を主体としたあっさり目の見た目に黄色の帯を巻いており髪と全体のマッチングが素晴らしい。
華絵ちゃんは紺色の浴衣で帯は晴香と同じ黄色。全体的に大人な雰囲気の浴衣を着ていた。
二人とも素晴らしいではないですか! 眼福眼福〜。
祇園祭の会場付近に降りて徒歩で数分、出店が見えてきた。
「おっ、相変わらず人多いなぁ。人間酔いしそう」
「しょうがないわよ。さ、華絵何が食べたいとかある?」
「えっ〜とね、チョコバナナ!」
「チョコバナナいいわね。了解。咲都行くわよ」
「へいよ〜」
えー人人人、超がつく人混みの中をなんとかかき分け三人で進む。
なんとかチョコバナナが売っている店を見つけて購入。
ま、買ったのは華絵ちゃんと晴香だけだけど。
「お姉ちゃん達、おじさんとジャンケンして買ったらこのハーフチョコバナナおまけするけどどうする?」
「やります。華絵はどうする?」
「私は今はこれだけでいいかな。他も食べたいし」
「それじゃあジャンケンポン!」
ーー
「じゃ咲都これあげるわ」
別にいらないんですけど。いらないならジャンケンするなよと思いつつチョコバナナを一口。
「甘めぇ……ほんとお前ジャンケン強いよな」
「当たり前じゃない。ジャンケンで負けたことないわよ私」
そう言われてみれば晴香がジャンケンで負けてるのを見たことない気が……。晴香にはジャンケンでの勝負は挑まないようにしよう。
「じゃあ次はどうする?」
ーーてなわけで射的の屋台にやってきました。
オレの射的の実力はかなりの物だ。自分で言うのもなんだが。
「華絵ちゃんどれが欲しい?」
「えっ、いいの? それじゃああの特賞て書いてあるやつ狙って……てあんなの落ちないようになってるよね」
「分かった。特賞ね。オレに任せなさーい」
「えっ?」
特賞か。景品は……ペーエスフォーね。四万超えの景品を置くなんてやりますな。
確かに射的のああいう特賞なんてのは落ちないようになってはいる。
がしかーし、射的が上手いプラス魔法を使えるオレには特に怖く無い。
銃にコルクを入れる時に見えないように圧縮した水魔法を一緒に装填。コルクを指で押さえたまま……
「にいちゃん、コルク押さえてたら引き金引いてもコルクが飛ばねぇ……」
引き金を引く!
ヒュッ!!
「「「えっ」」」
ものすごい速度でコルクは打ち出され華絵ちゃんや射的屋のおっさん、周りの客からあっけない声がしたと同時に特賞の的が棚から落ちる。
「はい〜特賞ゲット〜!」
「「「おお〜!!」」」
周りから歓声や拍手が起こる。
「なんでこのへん少し濡れて……いやそれよりもなんで両面テープで固定してたのに……」
「えっ? なんて?」
「あっ、いやいや特賞おめでとうございます〜! ……はぁ」
こうしてオレは無事ペーエスフォーを手に入れた。
「咲都くん凄いね! おめでとう!」
「へへーん、どんなもんよ」
「はぁ、まったく、射的屋に特賞の現物があってよかったわね。なかったらあんた財布から出せとか言ってペーエスフォー分のお金取る気だったでしょ」
「あ、バレてた?」
「当たり前でしょ? 昔のあんたが出てくるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたわよ」
「昔の咲都くん?」
「あっ、ちょっとね。昔の話よ。それより次は何しよっか? 華絵他に何かしたいこととかある?」
「ん〜じゃあーー」
昔のオレね……。一応あの過去があっての今のオレでもあるんだけどね。
そんなつもりなかったとはいえ確かに軽率にああいうことをするのは良くないな。現に晴香を心配させたわけだしな。
「ふ〜、屋台のご飯でお腹も膨れたね!」
「そうね。そろそろ帰ってうちでゆっくりする?」
「賛成〜。オレは人混みに疲れて死にそうです」
「華絵も帰るって事でいい?」
「うん!」
結局屋台や鉾を見たりといろいろと歩いた。久しぶりに足が痛い。
まあ二人とも楽しんでくれたみたいだしよかったとするか。
浴衣姿ではしゃぐ二人を見れたオレも少しは癒されたってものだろう。
おっと、そういや……
「はい華絵ちゃん、特賞のペーエスフォー」
「えっ⁉︎ くれるの?」
「いや華絵ちゃんが特賞狙ってって言ってたからさ。あげる」
晴香はゲームをやらないからあげても意味ないしな。
「でも咲都くんのお金じゃん。悪いよ〜」
「いいっていいって」
「ん〜……晴香ちゃんはいいの?」
「えっ、私? 私はゲームやらないし咲都がいいって言ってるなら貰っちゃえば?」
「……じゃあお言葉に甘えて頂きます。咲都くんありがとう! 大切に使うね!」
そういって華絵ちゃんはとびきりの笑顔を見せてくれた。
あぁ……オレはその笑顔だけで満足ですよ。ほんと晴香と同じく可愛いな華絵ちゃんは。
てか第一ペーエスフォーは持ってるしね。売るぐらいしか使い道が無いんですわ。
帰り道、少し人混みから抜けたぐらいのとこで三人で話していると
「そういえば私ね、昨日変な夢みたんだ〜」
「変な夢?」
「うん。晴香ちゃんと咲都くんと……あとこの前のパンツスーツの変態お姉さんが出てきてね」
……あぁ、パンツスーツの変態お姉さんって瞳姉のことか。
そういや華絵ちゃんの目の前で晴香の胸揉んだとか言ってたな。……ほんと羨まけしからん!
「なんかね鳥なのかな……人間にも見える人達とみんなが戦ってたの!」
ん? なんかそんな感じの夢ってオレも見たことあるような……いや、内容は違うが……
「しかもね、夢だって分かってるのにやけにリアルだったんだ」
そのリアルだったという言葉にオレが最初のテストの時に見た夢を思い出した。
そう、オレが異世界と結びつけられたあの夢。人狼、シリウスに腕を吹っ飛ばされたあの夢……。
何故かデジャヴを感じてーー
「ーーでね、かっこよかったし凄かったんだよ! みんな魔法みたいなのを使ってたんだ〜」
その言葉にオレの晴香は顔を合わせ目を見開く。
おい! もしかしてそれって!!
ーーそう晴香に言おうとしたと同時、あたりの音が止み動きが止む。
刹那にして空間に包まれた。
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