三章 5 『たわいもないテスト一週間前』
三章 5 『たわいもないテスト一週間前』
祇園祭りまであと三日。
あと三日といっても祇園祭自体は七月の一日から始まってるわけですけど。
オレたちが目当てにしてるのは夜に出る出店をまわるのと置いてある鉾を見るのがメインになる。
その朝、
「ふわぁ〜あ……眠た」
「はいはいおはよう。今日からテスト週間なんだからしっかり勉強しなさいよ」
玄関を出て開口一番、晴香から出た言葉は勉強漬けの週間の始まりを告げていた。
「へいへい仰せの通りにお嬢様」
そう、今日から我が校は二回目のテスト一週間前に入る。
祇園祭の出店が出る時期とドンピシャでテスト週間がかぶる形になってしまった。
なので鉄矢は部活でのテスト勉強があるので祭にはこれず。宇多くんも誘ったが塾のテスト勉強でパス。
結局祭に行くメンバーはオレ、晴香、華絵ちゃんの三人で行くことになった。
ラッキーなことに男子はオレ一人。うひょひょひょひょ。
「そういや咲都は七夕の短冊になんて願い事書いたの?」
実は学活の授業で七夕の短冊に願い事を書くという高校生にあるまじき授業が何日か前にあったところだった。
ご丁寧に笹は各クラスに一つ、本物だった。
「えっとな……金が手に入りますように、と可愛い彼女が出来ますようにかな」
「えっ……二つも書いたの? 欲望丸出しね」
「そりゃな。願い事は一つしか書いてはいけませんなんてルールなかっただろ。一人に配られた短冊にが一枚なんだから一枚に複数願い事書いても問題ないだろ」
書けるだけ書いてやろうかとも思ったが二つで妥協してやった。
「そりゃそうだけど……流石咲都ね。ある意味」
「そりゃどうも。オレが今の話クラスでしたら高木なんか五つぐらい書いてたぞ」
「高木くんも相変わらずね」
「そういう晴香さんは何を書いたんですかね? エッチなお願い事とかしてないですよね?」
ドスッ
「殴るわよあんた」
いやいや、すでに肩パン一発入ってるんですけど。
「私は幼馴染の変態が治りますようにって」
「幼馴染の変態ねぇ。そいつは大変なやつがいるんだな」
「あんたのことよ!」
朝から声がデカイんですけど。
「オレの事かよ。ほんとにそう書いたのか?」
「流石にそんなこと書かないわよ」
焦った〜。晴香のクラスのやつらにオレの素性がバレたのかとちょっとだけ冷や汗流れたじゃねーか。ちょっとだけ。
「じゃあ本当はなんて書いたんだよ」
「秘密よ、ひ、み、つ」
なんじゃそりゃ。人の聞いといて秘密とかありなのかよ。今度華絵ちゃんにでも聞いといてやろう。
そして学校に着きオレと晴香は各教室へ。
「じゃあ咲都、分かってると思うけど放課後は私の家に来なさいよ」
「ちょっと今日はバイトが」
「テスト期間中はバイト入れてないの知ってるのよ」
バレてました。ほんと晴香には隠し事が出来ないな。
「……へーい」
今日も学校の始まりかー、とか思いつつ教室の扉を開けーー
「おいす」
「おいすおいす……どけ鉄矢」
教室に入るとまぁ〜た鉄矢がオレの席に座っていた。何故かここ最近、ほぼ毎日オレの席に座ってやがる。
「おはよう虹夜くん」
「宇多くんおはよう。クソ鉄に毎朝オレの席に座るなって言ってやってくれ」
「いや今日は用があるんだよ。美山ちゃんが呼んでたぞ」
「またかよ。じゃ行ってくるらぁ」
ということで委員になったおかげで何回か行っている職員室に行くことに。
「失礼しま〜す。美山ちゃんいますか?」
「こら虹夜くん、職員室ではちゃんと美山先生って呼びなさいってこの前も言ったでしょ」
美山ちゃんが自分の席からオレの方に近づきながらそう言ってくる。
職員室以外では美山ちゃん呼びでいいのね。
「で何の用なんですか」
「……? あっ、そうそう。教室に置いてある笹を中庭の隅の所に持って行って欲しいなって思って」
一瞬何でオレを呼んだのか忘れてやがったな美山ちゃん。
「何でオレなんですか? 先生がやればいいじゃないですか」
「いや私これでも一応女の子だし……他の委員の子も女の子だし力仕事になるじゃない? ……だから虹夜くんにお願いしようと思って。だからね、お願い」
そうかそうか。しばいてやりたい気持ちが一瞬オレの脳裏をよぎる。
ーーしかし、
ムニュ
グボファァァ!!
またしてもその攻撃かよ!
これ絶対他の男子なら失神ものだって!
これは少し前から分かっていることだが故意にやっているわけでは無いっぽい。美山ちゃんは天性の天然らしい。
クラスの女子曰く、あれは同性にも好かれる根っからの天然なんだと。
……でもこれって卑怯だよな。
「はぁ、分かりましたよ。中庭の何処においとけば良いんですか?」
「それは行けば分かるわ」
てなわけで教室に戻り笹を担いで中庭に置きにいく。
中庭にはすでに数本、他のクラスの笹が置いてあったのでおく場所はすぐにわかった。
で教室に戻る途中、ふと思い出したことが。今置いた笹を教室に持って来たのって……
ーーザッ
「よいしょっと。じゃあ皆んな、今から短冊に願い事書いていくわよ! 書けたら私が持ってきたこの笹にぶら下げていってね!」
ーー美山ちゃんじゃねえか!
「ーーてな事が朝にあったわけ。ほんと委員になってからロクなことないわ。美山ちゃんも本当に天然なのかも正直怪しいと思うなオレは」
一日が終わり晴香との帰り道に今日の出来事を話していた。
勿論美山ちゃんの胸がオレにあったというのは伏せてだが。
「別にいいんじゃない? 美山先生も忙しいかったんでしょ。私もあの先生は作り物の天然とかじゃないと思うな。行動とか的に」
晴香から見てもそうなのか。そうなるとますます恐ろしいな美山ちゃんは。
あんなクリティカルヒットの攻撃ばかり繰り出してくるなんてある意味チートを使ってるとしか思えない。
「じゃあ部屋で待ってるから着替えたら勉強道具持って来なさいよ」
「へいへいよ」
はぁ。勉強とか誰が考えたんだよ。
いやね、好きな事の勉強ならオレも文句は言わない。むしろ喜んで集中するだろう。
しかしだな、学校でやるような勉強はほとんどが何に使うのか分からないようなものばかりだ。
とか考えつつ着替えをし晴香の家へ。
ピンポーン
いつものごとくチャイムを鳴らし
「はーい」
「隣のスーパーエレガント天才です」
「咲ちゃんね。開いてるわよ」
「お邪魔しまーす」
いつもの挨拶を交わし晴香の部屋へ。
億劫な気持ちになりながらも晴香の部屋のドアを開ける中に入ーー
「邪魔するなら帰って」
……そう来たか。ならば、
「はいよ〜。じゃあ帰ってアニメでも見ますか」
と言ってオレは再び来た道を戻る。
「ちょ、本当に帰ろうとしてどうするのよバカ咲都」
本来「邪魔するなら帰って」と言われれば「はいよ〜ってなんでやねん」と返してツッコむべきなのだろうが向こうから帰れと言われては乗らない手はない。
「まったく、早く座って勉強しなさいよ」
と言われても視界に入ってしまった。
ボファッ
「ーーベット以外にねっ……てベットに座るな!」
そう来ると思ってベットに座ってやった。さすが晴香さん、突っ込みが早いですわ。
ドスッ
「グェッ!」
……腹パンの速度も一級品ですわ。
ピンポーン
「ん? 誰か来たぞ?」
「華絵じゃないの?」
そういえば華絵ちゃんも勉強会に来るって言ってたな。今思い出した。
晴香が迎えに行き華絵ちゃんも到着。
「あっ、咲都くん! お隣さんだし来るの早いね! 今日からテストまで頑張ろうね!」
「おお。華絵ちゃんも頑張っ……え? この勉強会テスト終了まで毎日やるの?」
「毎日よ」
マ、マジですか……。明日は溜まってるアニメを消化しようかなとか考えていたのに。
「あ〜マジか……バ・ナーナちゃんとはしばらくのお別れか」
「誰よそれ」
「神の実芭蕉ってアニメのヒロインだよ。華絵ちゃんも知らない?」
「知らないなぁ」
それもそうか。二人とも深夜アニメを見そうな感じじゃないもんな。
ここは一つ、オレの二次元嫁を見せてやるか。
「これだよ。めちゃくちゃ可愛いだろ〜」
「へ〜。最近のアニメは凄く綺麗な絵なのね」
そうなんだよ! 特に神の実芭蕉は作画もトップクラスだ。
正直あの内容でどうしてあそこまで作画が凄いのか分からないが。
「そうなんだよ。二人とも深夜アニメ見てみたら?」
「確かに可愛い子だね! アニメか〜。私趣味とか無いし見てみてもいいかもな〜」
「ぜひに! 結構面白いの多いよ。もしよかったらオススメも紹介するよ」
「そう? じゃあまた携帯で聞くね!」
「さ、そろそろ勉強するわよ。咲都もだけど……華絵も勉強出来ないのが分かったからね。厳しくいくわよ」
流石に華絵ちゃんがおバカさんなのは晴香には知られているようだ。可哀想に。
「「お、お手柔らかに」」
「あなた達二人次第です」
そう言って晴香は俺たちを笑顔で見る。その笑顔逆に怖ぇ〜。
こうしてスパルタ晴香さんの勉強会が幕を開けた。
先生っぽいからという理由で伊達眼鏡をかけている晴香がいつもと雰囲気が違いこれもまたいいなと思ったのはここだけの話。
なぜかやたらと鍔をクイクイしてるのは少し面白かった。
ーーそれから一時間半ほど経った頃だろうか。
部屋の扉がノックされ開けられる。
「あ、お母さんどうしたの?」
「咲ちゃんと華絵ちゃん、よかったら今日うちで晩御飯食べて帰ったら?」
「えっ⁉︎ いいんですか?」
「もちろん。簡単なのしか作らないけどそれでもいいならご馳走しちゃうわ」
「じゃあ御言葉に甘えて頂きます!」
「うんうん。咲ちゃんはどうする?」
「いただきま〜す」
「じゃ決定ね。それと三人とも勉強少し休憩したら? お茶でも入れてくるわね」
てな訳で今日の晩御飯は晴香の家でいただくことになった。
晴香のお母さんも料理は上手い。それに簡単なのしか作らないとか言っていたがいつも凝ったのを作ってくれる。
「じゃお茶もお母さんが入れてくれたし休憩ね。お茶取ってくるわ」
時刻は5時過ぎ。結構疲れるな。
そういや晴香の短冊の話を華絵ちゃんに聞いてやろう。
「私友達のお家でご飯いただくなんて初めてだし嬉しいな〜!」
「か、華絵ちゃんちょっといいですか?」
「えっ、何?」
慎重に、平静を装って聞く。
「晴香がこの前の学活の授業であった七夕の短冊になんて書いてたか知ってる?」
「ああ、えっとね『いつか分かってくれますように』だったかな?」
「……? どういう意味なんだそれ?」
「私も意味を聞いたんだけど教えてくれなかったな〜」
そこへ晴香が三人分のお茶を持って帰って来た。いいタイミングですな。
「おい晴香、短冊の分かってくれますようにってどういう意味なんだ?」
「えっ⁉︎ なんで咲都が……華絵教えたの?」
「あっ、ごめんなさい。駄目なやつだった?」
「華絵は悪くないわよ。聞いた咲都はお仕置きね。ま、しょうがないか。理由は秘密よひ、み、つ」
またかよ。少し顔が紅潮してるのが気にはなるが華絵ちゃんにも言ってないってことは知るすべはないな。
「そ、そんなことよりも思い出したけど瞳姉が祇園祭には咲都と晴香は絶対来てくれって言ってたわよ。瞳姉には咲都と華絵の三人で行くって言ってはおいたんだけど」
「はあ。なんでわざわざそんなこと言ってくるんだろうな」
「さあ?」
しかしわざわざそんなことを瞳姉が言うってことは何か理由がありそうだ。
…….な〜んか嫌な予感がする。
ーーで時刻は九時過ぎ。
晩御飯や休憩は挟んだとはいえなんだかんだで結構勉強させられた。これからこれが毎日続くと考えただけで萎えそうだ。
「ほんとに送らなくて大丈夫?」
「そんなに遠くないし大丈夫だよ。それにバスだし。じゃあ晴香ちゃんと咲都くんまた明日〜!」
「「おやすみー」」
ーー
バス停まで華絵ちゃんを送り晴香とも玄関前で別れる。
「じゃ咲都もおやすみ。明日もちゃんと来なさいよ」
「へいよ。おやすみなさいませ。ケツ出して寝るなよ」
「どうやってお尻出して寝るのよ変態咲都!」
またまた言葉の勢いのままドアを閉める晴香。
……えー晴香さん、外で変態咲都って大きな声で言わないで下さい。近所の人に聴こえてしまいますので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます