三章 8 『茶色の羽と白色の羽』
三章 8 『茶色の羽と白色の羽』
眼前に迫り来る死の光景から一瞬、気がつくとオレと晴香は瞳姉に襟首を掴まれ華絵ちゃんの近くへ移動、ーー死を運ぶ刃の獲物へとはならずに済んでいた。
「うおぉ……死ぬかと思った」
「あ、ありがとう瞳姉」
「ええ……。でも不味いわね。鬼族がいないかわりにまさか天族の上級が四体も来ていたなんて」
「えっ⁉︎ 上級だなんて……しかも四体も。瞳姉どうしたら……」
目の前にいる四体の天族は上級とかいう階級のようだ。それがどれだけ強いのかはオレには正直よく分からない。
しかし晴香がこれだけ警戒しているということはそれなりにヤバい相手なのかもしれない。
「チッ! 我らの同胞をいとも簡単に葬ってくれるとは。やはり今年も鬼族と組んだ方がよかったのか……」
「いや、あやつらとは組まないと決めたんだ。しかしこうも容易くやられてしまうのは確かに想定外だな。適応までの時間も稼げないとは」
今のアイツらの会話からして瞳姉が言っていた鬼族は来ていないらしい。
そして来ている天族もコイツらで最後なのだろう。後の数という心配はとりあえず無くなった。
この四体、オレ達の前で普通に会話をしているということはやはりそれなりの手練れなのだろう。
四体とも体格はもちろん先ほどまでのヤツらとは違いがっしりとしている。
よく見ると伝わってくる。四体が四体とも素人のオレでも分かる強者の風格をかもし出していた。
そしてなにより目を引くのが四体が一本づつ帯刀している刀。
一本は青白い刀身に何か魔法でも宿しているのだろうか。刀身の色と同じ光を帯びている。
一本は全体的に赤黒く見ているだけで心が崩れそうになるような。これも魔法なのだろうか、オーラを放っている。
一本は刀身の見た目には特に変わりはない。シンプルに日本刀という見た目をしているが鞘の方が驚くほど黒く渦巻いている。
一本は三尺ノ太刀というやつなのだろうか。刀身が他のどの刀よりも長い。しかし長い見た目は以外は刀身にも鞘にも特に変わりはない。
と、オレの視線に気づいたのだろうか。漆黒の渦を鞘に宿した刀を持っている天族がーー
「おっ、にいちゃんワシらの刀が気になるか? まあそれも仕方ないわな。ワシらの持ってる刀はどれもがその辺に転がってるヘボ刀とは違う。神器や準神器級までとは流石に言わんけどそれなりに名の知れた刀やで。なんせワシのこの刀はーー」
「おい、馴れ合うのも大概にしておけ。それに我々の武器の情報を不用意に相手に教えてどうする」
「っと。それもそうか。悪いなにいちゃん。また今度教えたるわ」
「はあ」
もう少しであの刀の正体が分かるというところで話を打ち切られる。
相手の情報は少しでも多い方がいい。それに武器の情報を知れるとなるとそれなりにアドバンテージがあるだろうと思い口を挟まず聞いていたのだが。
「どうするの瞳姉? 私上級相手に戦ったことなんてないし、まして四体なんて。他からの援軍を待つしかないーー」
「いや晴香、それを待っていたらアイツらが適応してしまうかもしれないわね」
「けど瞳姉はまだしも私や咲都には上級なんてできるか……それに今は華絵もいるのに……」
「でも時間的に厳しいのは事実よ。私が三体相手にするから二人で一体相手にしなさい。時間稼ぎのつもりで戦うんじゃなくて倒すことだけ考えて戦いなさい。二人なら大丈夫よ。お互いの事を信じて! ね?」
そしてその言葉の後、瞳姉は小声でこうも続けた。
「でも死ぬのは絶対にダメ。本当に危ないと思ったらその時は私がどうにかするから二人全力で私の方に逃げて来なさい」
晴香とオレの二人で一体を相手にするということになった。しかし相手がそんなに上手くこっちの考えで動いてくれるとはーー
「っと、聞こえてたでしょ天族の。てなわけだから私一人で三体相手してあげるわ」
そう瞳姉が言い天族の四体が顔を合わせ何やら考え混んでいる。流石にそう上手くは乗って来てくれないか。
「本来なら二体で充分だと考えていたが……念には念をだ。そちらのバカな提案通り三体でお前を確実に潰してやろう」
そう天族の一体が言い提案は飲まれた。
だが向こうの言い様じゃ瞳姉一人で三体相手にするのはやはり厳しいのか。
「しかしそっちの雑魚二人はほおっておいてもいいだろう」
「いやいやそうなると一人暇になってしまう。わしがアイツら二人の相手しよう」
そう言い前に出て来た一体、漆黒の渦巻く鞘を持つ天族がうすら笑みを浮かべる。
「じゃそういうことで。残った三体は私が相手ね。叩きのめしてあげる」
瞳姉はそう言うとスーツのポケットに手を入れ殺意なのだろうか……息苦しくなるようなオーラを放つ。
瞳姉の啖呵と共に天族三体が瞳姉に襲いかかる。
しかし攻防は今のところ起きておらず瞳姉は迫り来る斬撃をかわし段々とオレ達から離れていく。
「お〜、流石にやりおるなあの女。アイツらの攻撃を完璧にかわすとは敵ながらあっぱれってやつやな。まあその方が助かるけど。この二人が巻き込まれて死んでもワシが暇してまうからな……っとあれ? 女の方はどこいったんや」
華絵ちゃんは晴香について行ってもらい隠れてもらった。
華絵ちゃんを隠したら晴香にはもちろん戻ってきてもらう予定だ。
「なんやにいちゃん一人でワシの相手してくれるんか?」
「時間稼ぎぐらいには……って瞳姉には倒すように言われてたんだった。晴香が帰ってくる前に倒せるかな……」
自分を高めるためにも言葉で思いを表す。
「おぉ、口は中々。キモは座っとるみたいやな。……さてワシらもそろそろやろうか」
その最後の一言で空気が一気にオレに重くのしかかる。
おっかねぇ……。やっぱりちょっと怖くなってきた。晴香さん出来るだけ早く帰って来てください。
「じゃあ……行くぞにいちゃん!」
天族は一言そう言うと一瞬にして姿を消した。いや消したのではない。背中に生えた茶色の羽を使い飛んだのだ。羽ばたきによって生じた風が頬を撫でる。
そして天空から刀を突き出す形でオレに向かって落下してくる。
最初に四体でオレ達三人を攻撃した時と同じ体勢だ。これなら何とか避けれる!
降りてきた超速の刺突をなんとか避ける。
「避ける、か。最初の時はあの爆発女に助けてもらってたからこれで殺せると思ってたが……少し甘かったか」
避けたといっても中々間一髪でしたけどね。
落下した天族は地面に深く突き刺さっている刀を抜きそんなことを言ってくる。
「観察眼、動体視力と反射神経は人間にしてはそれなりにあると。ならこれは……どうかな!」
瞬間、刀を構えたそのままの体制で羽を使いこちらに瞬間移動ーーのような形で突進してくる。
切られた髪の毛が数本地面に落ちる。
「うわっ危ねぇ。髪の毛持っていかれた。……ハゲてないよね?」
そんなしょうもない感想を言うことしか出来ないオレ。
避けることは出来たがやはり間一髪だった。いや髪の毛が切られたから避けれたということにはならないのか。
「ほう……これは中々。すぐ方付けてやろうかと思っていたが……思っていたより楽しめそうやな」
おいおいその言い方は今から更に凄い技とか出してくる強キャラのセリフですよね。
と、無数の光の弾がオレの斜め後ろから天族に向かって放たれーー数発命中する。
この光の弾、魔法はーー
「おまたせ咲都。華絵はちゃんと隠してきたから安心して」
晴香が少し息を切らしオレに目的の達成を告げる。
「そうか。てかちょっと遅えよ! 二回死ぬかと思ったわ! まあ華絵ちゃんをちゃんと隠してくれたならいいけどさ」
そして二人、オレと晴香は天族に向き直り構える。
「痛えな……というかどこにねえちゃんは行ったのかと思っていたらもう一人のねえちゃんを隠しに行ってたのか。わざわざご丁寧なこった。どうせ全員死ぬのによ」
天族はうすら笑みを浮かべ刀を構える。
「で、そっちのねえちゃんは……どうかな!」
その言葉とともにまたしても天族はその羽を使い上空に舞う。地面に向け刀を突き出し晴香めがけ超速で落下する。
が、晴香は片手をその上空に掲げ光を放ちーー
「クソッ! 目くらましか!」
銃口から放たれた圧倒的な光によって天族は目的を見失い落下していた勢いを殺しもう一度上空に飛来する。
「咲都は魔法を構築しつつ私を援護して! 二人でコイツをなんとか倒すわよ!」
「おう! って晴香どこに行ったんだよ!」
そう、目くらましはオレにも有効に働いていた。事前に知っていたら目を瞑ることが出来たかもしれないがなにせいきなりだった。
そして目を開けた時には晴香は何処かに消え去っていた。
消えた晴香を天族も上空に留まりながら必死に探している。しかし晴香はオレの周りの何処にもーー
「グハッ! なっ⁉︎」
突如、天族が痛みによる声をあげる。
光の弾によって羽を貫かれた天族はその光の弾を放った根源を探し、上空にいる天族ーーの更に上空にいる晴香を睨みつける。
そうだ、晴香は確か!
「そうか……人間、いや半端者! ねえちゃんの方は天族との混血か!」
「正解です。空が自分だけの物とは思わないことね!」
オレが思ったことは天族が全て代弁してくれた。晴香は天族とのハーフ、混血だ。
背中に眩い白色の羽を生やした晴香が空を、天族の更に上空を舞っていた。
そして両手に銃を持ち天族を見下ろしていた。
「まさか同族と血が混じった半端者と戦うことになるとはな。これは面白い。二人ともワシを楽しませてくれそうだな!」
「咲都! 援護は頼んだわよ!」
その晴香の一言でオレ達と天族の戦いが幕を開ける!
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