三章 『待ち受ける夏への予兆』
三章 1 『夜の四人、蛍火を追い求め』
三章 1 『夜の四人、蛍火を追い求め』
宿泊学習で行った山の家から少し日にちが経ちもうすぐ梅雨の六月に突入していた。
今日も一日が始まり別に行きたくは無い学校に行かなくてはならない。
「あ〜だる〜」
「もう! いっつも学校行く途中から文句言うのやめてよね。こっちまで気が滅入るじゃない」
「そんなこと言われましてもダルいんですものぉ。なんでこんなに学校って面倒くさく感じるんだろうな〜。あぁ〜彼女ホスィ〜」
「知らないわよ。てか最後にちゃっかり自分の願望言ってるし」
そろそろこのオレにも彼女の一人や二人できてもいいはずだろうと思うのだが。
華絵ちゃんは可愛いけど晴香の監視があるし付き合ったりはなぁ……てか前に華絵は私のものとか言ってたし。まさか百合とかじゃないよな。いや、ないない。瞳姉じゃあるまいし。
あとよく関わる女子だとイインチョの嵯峨野さんともう一人の副委員、中谷さんだがなんか雰囲気が手を出しにくい。てか俺が勇気ないだけか……。
他にも可愛い人はいるが……はぁ。彼女ホスィ。
え? 真横にいるって? 晴香は可愛いけど幼馴染過ぎて今のところ恋愛対象にはなってない。
山の家で鉄矢達にお前はハーレムだ、みたいなこと言われたけどみんな仲がいいだけで彼女とかにはなってくれないんだよなぁ。……虚し。
「何よジッと見て? 晴香は可愛いな〜デュフフとか思ってるの?」
「前も言ったけどお前可愛い方だろ。デュフフとは思ってないけどな」
「……変態」
「いや意味わからん。なんでそうなるんだよ!」
照れるぐらいなら言わなきゃいいのに。
思った事を口にする俺からすればこんなセリフ別に恥ずかしくはない。ましてや晴香相手だしな。
「でさ可愛い晴香さん、ちょっと質問が」
「……何? 変な質問以外なら答えてあげる」
「今日はパン……」
ドスッ!
「イタッ!」
物凄いスピードで横っ腹にグーパンが飛んできた。反射神経ヤバいだろ。
「まだ『今日はパン』までしか言ってなかっただろ」
「うるさいわ変態咲都! 変な質問以外って言ったでしょ。その続きに何を言おうとしてたかぐらい分かるわよ!」
「変な質問なんかじゃねぇよ! ちょっとパンツの色聞きたかっただけやのに」
ドスッ!
ーー二発目が飛んで来ましたお。
学校に着いて数時間の午前中、晴香に殴られた横っ腹がまだちょっと痛い。
最近前にも増して威力が上がっているような……。手加減を知らないのかあいつは。
「虹夜くんさっきからお腹さすってるけどお腹痛いの?」
「朝にちょっとあってな」
「どうせ晴香にしょうもない事言って殴られたんだろ?」
鉄矢が知ってるかとごとくピンポイントで当ててきやがる。エスパーかこいつは。
「その顔は当たりだな? 相変わらずだなお前も」
「うるせぇクソ鉄」
ピロリンッ
休み時間にそんなたわいもない会話をしていると携帯に晴香からの通知が来た。
「おっ、噂をすればなんとやら。晴香からなんか来た」
ーー変態咲都、さっき華絵と喋ってたら蛍見たこと無いって言うから夜華絵と一緒に蛍見に行こうと思ってるんだけど暇? どうせ暇よね? 八時にうちの前集合ね
だとさ。
「ご丁寧に変態咲都って書いてあるじゃねーか。クソワロ」
「……男なら誰だって変態だろ。えーっと『暇じゃ無いけどしゃあなし行ってあげます。それより一言二言余計です。クソ鉄に笑われました』送信っと」
「フッ、送る文面口に出さなくても」
宇多くんにも笑われた。
思った事を口に出す俺はこういう文面も口に出しがちだ。まあ宇多くんに笑われる分にはいいけどさ、鉄矢みたいにウザくないし。
ピロリンッ
返信早。
ーーしるか
それだけかよ。そりゃ返信も早いわ。
でも晴香と華絵ちゃんに俺か。せっかくなら、
「鉄矢と宇多くんも来る?」
美女の集いに二人も誘ってやろう。俺優し。
「八時からか。なら俺は行けるぞ」
「僕は今日塾があるし無理なんだ。誘ってくれたのにごめんね」
「それはしょうがないな。で鉄矢は行けると」
一応鉄矢が行ける事を送っておく。
またしてもすぐに返信が届く。
ーーおけおけ。華絵にはくれぐれも色目使うなって鉄矢にも言っておいてね
「ーーだとさ」
「分かってるよ。てか実際にあの可愛い荒川さんだっけ? の近くにいても多分直視出来ないわ俺」
そういや確かこのクソ鉄、女の子に対してはかなり照れ屋、超絶ウブな野郎だ。
山の家でも班の女子とあんまり喋れてなかったっけか。
男なら大丈夫、特に俺には辛辣なレベルのくせに。笑っちゃいますわ。ププブ。
で今日も学校が終わり帰宅。少し睡眠をとって晩飯を食べてゆっくりだらだらする。
なんだかんだで八時前。バッチリ外着に着替えを済ませ玄関を出る。
「おっ、今ちょうどチャイム鳴らそうとしたところだよ」
ちょうど鉄矢が来ていた。いつも俺はと遊ぶ時は服装が適当だか今回は一応ちゃんとしてきたらしい。
ちょっとして晴香と華絵ちゃんが二人一緒に出てくる。
「咲都と鉄矢お待たせ」
「お待たせしました〜」
華絵ちゃんは晴香の家にいたのか。
「あれ? 鉄矢が服装しっかりしてるの珍しいわね」
「だろ? 華絵ちゃんいるからだと思うけど」
先にも少し言ったが鉄矢は普段オレや晴香だけだと寝間着みたいな格好で遊びに来やがる。
「そりゃそうだろ。学校では見たことあるぐらいのほぼ初対面の女の子がいるんだから。……荒川さん初めてまして。鋼鉄矢っていいます。よろしくお願いしまっ……します」
緊張して噛んでやがる。どこまで初対面の女の子に弱いんだこいつ……。
「鋼くんだよね! 晴香と咲都くんから聞いて知ってるよ〜。二人と幼稚園から一緒なんでしょ? 荒川華絵です! ほぼ初めてだけど緊張しないでね。よろしくぅ!」
「「ほんと鉄矢緊張し過ぎ」」
「ほっとけ……蛍見に行くならあそこの川だろ? ほら、行くぞ」
晴香とセリフが被った。
家からなら蛍のいる川までは徒歩で十数分。早ければ十分かからないぐらいだろう。鉄矢、晴香、華絵ちゃん、俺の四人で歩いて行くことに。
さ〜て、蛍はいるのかねぇ。
「ーーでねそこを私がたまたま見つけたわけ。男子トイレよ? どう思う?」
「おい! それは黙ってるって約束だっただろ!」
「テヘペロ☆」
晴香が山の家での晩飯戦争、隠れんぼの時の俺の隠れ場所を普通にバラしやがった。
しかも鉄矢だけならともかく華絵ちゃんもいるのに……。
てかテヘペロ☆ じゃねぇよ! 瞳姉か!
「マジかよ……隠れ場所頑なに黙ってると思ったらそういうことか。お前ある意味でさすがだわ。そしてその咲都を見つける晴香もさすがだな」
そりゃ黙ってるに決まってるだろ。まあクソ鉄にバレた分にはいいが華絵ちゃんの反応が……
「咲都くん……すごいね! 確かにルール的には問題ないもんね。隠れ場所ガチじゃん!」
あ〜よかった〜! ドン引きされると思ってたがなんとかセーフセーフ。
「華絵、ダメよこの変態を甘やかしたら。もっと罵倒してやらないと」
「え? 罵倒って咲都くんそういうのが好きなの?」
「違うよ華絵ちゃん! なんの勘違いしてるんだよ。罵倒されてもご褒美になんかならないって!」
いや、華絵ちゃんに罵倒されるならそれはご褒美になるのか……。なるなこれは。
「とか言って頭の中ではご褒美になるとか思ってるんだぜこいつ」
またしてもコイツはオレの考えを当ててきやがる。なんか腹立つな〜。
「……うるせぇクソ鉄」
「荒川さんの前でクソ鉄はやめろ!」
とかなんとか楽しく喋っていると目的の場所に着いた。
ここに来ると川の水が流れているからかこの時期にしては少し涼しい。
が、しかし……
「……蛍居なくね?」
「……そうだね」
目的の蛍は今の所見当たらない。いつもならこの時期になるとある程度いるのにな……。今年は少ないのか?
「確かに……でも着いたところだしもう少し川に沿って東に歩いて行けばいるだろ」
「鉄矢の言う通り歩けばいるわよ。華絵には蛍を見せてあげたいしもう少し歩きましょ」
鉄矢のいうように川に沿って歩いていけばいるかもしれない。
毎年この時期にはいるから時期的にはいてもおかしくないしな。
ーー川に沿って東に向かい歩いて十数分。蛍の姿未だ無し。目指している淡い光はどこにも飛んでいない。
「しかし居ねえな」
「もう少しでこの川終わるぞ」
今歩いているカーブを曲がり終え少し真っ直ぐ行くとこの川はそこで終了している。
これはもしかすると居ないパターンもあるかもしれないな。
「お願い居て!」
晴香が両手を合わせてお願いをしながら道に沿って曲がって行く。
優しい晴香のことだ。よほど華絵ちゃんに見せてあげたいのだろう。
まあでも居ない分には仕方が……ん? あそこのぼんやりと光る小さな光……。空中を漂うが黄色の光が確かにいくつかある。あの光方は!
「あれれ? あそこ少し明るいし人が集まってるような……あっ! あれってもしかして蛍……蛍だよね!」
華絵ちゃんの声に三人が顔を見合わせて少しホッとすると同時に笑顔になる。
そして走りだした華絵ちゃんに続き晴香が後を追う。
川の流れる音が静かに聞こえる暗闇の中、数は多いわけではないがそこには確かに十数匹の蛍が自らを主張し光を漂わせていた。
「すごーーー!!! 暗い中にフワフワ光が漂ってる! 蛍ってこんなに綺麗なんだ! 晴香ちゃんに咲都くんと鋼くんも連れてきてくれてありがとう!」
空中に漂う蛍火に見とれている華絵ちゃんと晴香。
いや〜、蛍を見て喜んでる美女を見るっていうのも今回の隠れ目的だったわけで。一応そちらも達成出来てよかった。
「荒川さん蛍見るの初めてだったっけ? はしゃいでて可愛いな……」
「おっ、ウブ鉄矢のくせに言うな。でもほんとそれな。あれは可愛いわ。でもそれ晴香の前で言うなよ。視線で殺ろされるぞ」
「そうだったな。色目使うなってご忠告があったんだったな」
二人で歩いて晴香と華絵ちゃんに合流する。
しかし美女二人が暗闇の中蛍の淡い囲まれているのは絵になりますねぇ。
夜に淡く輝く蛍火はこの淡さとはまるで異なる夏の始まりを俺たちに告げていた。
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