二章 19 『はじめて〜の〜『アクアブレット』』
二章 19 『はじめて〜の〜『アクアブレット』』
完全に止まっているみんなの手。息づかい。
そこは数日ぶりに現れた例の空間だった。
「この感じはあの空間てやつか?」
しかし焦るわけにはいかない。何故ならこの前、説明をしてもらった時に空間は世界中共通で発生するというのを聞き逃してはいない。
とりあえず晴香と合流してゆっくりしておくか。
いや、その前にやはりトイレに……
「咲都! ここに居たのね。今瞳姉からの連絡待ちだから」
「はあ」
晴香オレを見つけるの早いな。何のかわからんが瞳姉からの連絡待ちらしい。
その間にトイレに……
「ちょい晴香さん、待ってる間にトイレ行ってくるわ」
「いいけど気をつけてね。近くに何かいる可能性もあるんだから」
「ほいな」
さすがにこの前二日連続で俺の近くに人狼と鬼が現れたんだ。今回は近くには居ないだろ。
トイレに行こうとした物音のしない静かな空間の中、晴香の携帯が鳴る。
「あ、瞳姉? どの辺りに現れた? ……えっ⁉︎ わたし達のいる施設の近く!?」
「はっ⁉︎」
マジですか! ハッ⁉︎ さっきの俺の思考がフラグをおっ立ててしまったのか……やらかした。バッチリ回収してるじゃねぇか。
しかしこの場合は俺たちが対応しなければならないのだろうか?
「晴香、今からどうするんだ? ゆっくりしとくのじゃダメなのか?」
「何言ってるの! この前も説明したとおりあいつらがこっちに来てるのは十中八九人を食べるためよ。この空間が消えてこっちの世界に適応されたら人が死ぬ可能性が高いの。その前にわたし達が殲滅しないと」
あ、やっぱりそうなりますか。
「うん……分かったわ瞳姉。じゃあ状況報告のために携帯繋いだままにしとくから。行くわよ咲都」
「へーい」
ーー晴香と二人、急いで玄関口に向かう。外に出るために扉を開けるとそこには風で煽られて飛んでいたであろう青葉、飛び立とうとしている鳥が空中で静止していた。
まだ数回しか見ていないこの光景にはやはり違和感を感じざるを得ない。なにせアーウェルサに関係していなければあり得ない光景だ。
玄関を通り過ぎて数メートル先、明らかに動く物体が。施設内にいるとかどんだけ近くに登場してるんだよ。
しかし今までと明らかに違う点が一つ。数が多い。
「瞳姉……六いや、七体ぐらいいるんだけど。ん〜多分低級の人狼かな。とりあえず咲都と二人でどうにかしてみるわ。咲都が戦力になるか未知数だけど私一人でもあの数の低級ならなんとか……」
確かに数は七体いるようだ。向こうはまだこちらにはまだ気づいていない。
人狼には初っ端で腕をぶった切られた思い出……いや、トラウマの方が近いか。あの時は俺の命は潰えたとマジで思わされた。
いやな思い出が蘇ってきた。本当に二人でどうにか出来るのか……。いや実質二人じゃないか。なにせ……
「咲都にこの前魔法教えたでしょ? あれから少しでも練習した?」
「してませんよ」
「えっ? なんて言ったの?」
「してませんよ」
そう、あれから俺は魔法の練習なんて一切していなかった。
少し家のお風呂の湯船に浸かりながら手のひらの上に水をとどめるやつをしたけどあれは練習というより単純に面白かったからやっていた。
今のこの状況で使えるような事、つまり水を高速で飛ばしたりとかいう攻撃魔法? は一切練習してない。
「あんたねぇ!!」
「大声出すなよ! 気づかれたらどうすんだよ……あっ」
時既におすしでした。人狼の団体は明らかにこっちを見ている。今の晴香の一声で完全にこっちには気づかれた。
「おい気づかれたぞ! どうしたらいいんだよ!」
「私とした事が……てか咲都が練習してたら叫ぶ事もなかったんですけどねぇ」
「ごめんなさい」
はい、それに関しては何も言い返せないです。
とりあえず今からでもどうにか出来ないかやってみよう。物は試しだ。
「とにかく行くわよ咲都! なにも出来ないかも知れないけどある程度私の近くにはいてね。離れられると守れないかもだから」
「おうよ。てか一応今からでも魔法やってみようと思うんだけどなにかコツとかないのか?」
「この前は雨で咲都の得意な水魔法が使いやすかったかもしれないけど今回は雨が降ってないから前よりも自分の中の魔力を使って魔法を出さなきゃいけないわ。大事なのはイメージとかかな……あとはやっぱり集中ね。魔法を放つ時に何か叫んで出してみたりしたら?」
イメージと集中とな。あと魔法を放つ時になにか叫んでみろってか。技名とか考えて叫んでもいいのかな……。技名叫ぶとかなんか俺のイメージする魔法使いっぽいぞ。今のうちに何か考えておこうか。
晴香と二人、人狼に向かって走って行く。
「ーー人間のお兄ちゃんとお姉ちゃんがなんで動いてるんだ? ……まさか半端者か⁉︎」
「そうです。こちらの世界を守る為、殲滅します!」
ウヒョー! 晴香のセリフカッコいいなおい!
晴香はイカすなセリフを叫んだと同時にいつのまにか現れた腰のホルスターに挿している二丁の銃を取り出し人狼に銃口を向ける。
魔法による発光なのだろうか。二丁の銃が晴香の手の中で眩く光りだす。
おっと見とれてる場合じゃないぞ。俺も何かしなくては。
イメージ、集中。この二つに重きを置いて……と、俺が水魔法を手のひらにとどようとしている間に晴香は目の前の七体の人狼に向け手にある二丁の銃から光線弾を放ち戦いを繰り広げていた。
あの数相手に一人で……すげぇな。
「手に魔法をとどめて……それを圧縮!」
俺の手のひらの上で現れた水魔法の球体は徐々に圧縮され眩い光を放っていく。
できてきたぞ! もう少しでいけるか……
「クソ! この女なかなか強ええ! もう二体もやられたか……ん? おいそこのお兄ちゃん、なにもしてこないって事はまだ何も出来ないのか? だったら……先に食ってやる!」
人狼の一体がなにもしてこない俺に気づきこちらに走ってくる。ヤバいいけるか俺!
「あっ! 咲都!」
それに気づいた晴香がこちらに来ようとするが他の四体の人狼との攻防に阻まれこちらに来れないようだ。
なんとか俺一人で!
「死ね半端者!」
人狼がそう叫び俺に迫ってくる。5メートル、4メートル距離が縮まり……この距離なら外れはしないだろう!
「雑魚っぽいセリフだなおい! 今からなにかしてやるよ! 俺の最初の魔法の餌食になりやがれ!」
自分を言葉で鼓舞し気持ちを奮い立たせる。
圧縮された水魔法の球体は俺の手のひらの上で激しく光りーー
「くらえ! 『アクアブレット』!」
この短時間で考えた技名を言い放ち今まで手にとどめていた魔力を目の前の人狼目掛けて一気に解放する!
眩い光を纏いながら放たれた水魔法は刹那、解放された力をそのままに空中を直進する。そしてその『魔法』は一瞬にして人狼の脳天を貫き、果てしなき青き空へと解き放たれた。
人狼は俺に向かう力そのままに地面へと倒れこむ。
「やった……のか?」
人狼は体を地面に突っ伏し、脳天から血を流しピクリとも動かなくなっていた。
目は光を失い開いたまま動きを見せない。
「俺一人でなんとか出来たのか……」
本当にこの人狼は死んだのだろうか……。なにせ始めて自分で魔法を使い始めて自分で食べる為の生き物以外の死を目の当たりにした。
そう、殺したのだ。
「なんとか出来たみたいね」
「ああ、一応なんとかなったみたいだ。これ死んだのか?」
晴香は俺がこの一体の人狼を相手にしている間に残っていた四体の人狼を倒し終えたらしい。白い制服が少し血に染まっていた。
「ちゃんと死んでるわよ。わたし達の近くにいたヤツらは私と咲都で全部倒したしこれで終わりならもうすぐ空間も解かれると思うわ」
「そうか……てか制服の血、大丈夫なのか?」
「あぁ、これは相手の血だし私は怪我してないわよ。この血も空間がなくなる同時に消えるわ。心配してくれてありがと」
なんとか終わった……終わったんだ。
「どうしたの咲都? 気分でも悪いの?」
「いや、大丈夫だよ。始めて自分でどうにかしたんだ。ちょっと気持ち的に疲れたのかな。晴香はすげぇよ。俺が一体をどうにかするだけで精一杯なのに六体も倒しちまうんだもんな」
「確かに咲都は始めてだもんね。魔法で相手を倒す……殺すのは。でもこれはわたし達に混血、異世界との関わりのある人間には絶対にこの先もあることよ。慣れるしか無いわね。それと始めてで一体倒せたんだから凄いわよ。ま、早い内に私ぐらい出来てもらわないと困るけどね」
それはそうだ。七体中一体しか俺は相手にしていない。しかも晴香一人でも七体ぐらいなら本当にどうにか出来たのだろう。少し不甲斐ないな。
「あぁ〜、疲れたけど気持ちの切り替えは大事だな! 一人でもある程度出来るように魔法の練習するわ」
「その意気よ。本当にちゃんと魔法の練習しなさいよ?」
ーー気がつくと周りの音が戻り木々や風が動いている。晴香の服の血も消えていた。空間の消滅。
「さぁ、テストに戻るわよ咲都。てかわたし達途中でいきなりいなくなってるみたいになるから何とか誤魔化して戻るのよ」
「あっ、そうなのか。了解しましたっ」
晴香と別れて自分のクラスの元へ戻る。
今からテストの続きとは……やる気が起きないな。
テストを受けていた教室の前にまで戻り扉を開け……ようとしたところで何か違和感を覚える。
そういや空間に入る前に部屋側からこの扉を開けて出ようとしてたぞ。
俺何か忘れているような……
「トイレじゃねーか!!」
思い出したからか突然襲いかかる尿意に急かされ俺は急いでトイレへと駆け込んだ。
トイレを済ませて手を洗いながら先程の出来事を思い出しながら思う。この手を洗ってる水でも魔法の助力にはなるのだろうか?
思い立ったのでやってみる。
左手に水を当てながら右手に水の球を作り出す。……おぉ、確かに水が体に触れている方がやりやすいかもしれない。
それから少しトイレで水魔法の練習をしてみた。手に留めるだけだが。
数分練習し再びテストをしていた部屋に戻る。
扉を開けるとそこにはテストをしているみんなが。勿論動いている。
ん? 鉄矢や高木を始め数人がこちらを一瞬見て笑ったような……?
「あっ、虹夜くん遅かったじゃない。虹夜くんがトイレに行ってからもう五分以上経ったわよ。と、言うわけで補習決定ね」
ーートイレから戻りスッキリしたオレに美山ちゃんが開口一番言い放った言葉は俺の脳内を真っ白に染めるのに時間はかからなかった。
視界に入った時計の針は無情にも十一時三十九分を指していた。七分過ぎてるんですねわかります……
ンノォォォォォォン!!!!!!
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