二章 16 『晩飯戦争』
二章 16 『晩飯戦争』
山の家での宿泊学習初日、晩ご飯の食材を賭けた戦争、略して晩飯戦争が幕を開けて数十秒、俺、鉄矢、宇多くんは早歩きしながら作戦を練っていた。
「どうするよこの戦争! どうせならいい食材欲しいよな」
「そりゃな。そのためには見つかりにくい場所に隠れてないとな」
「でも他の班の人やクラスの人と被らないようにもしなきゃダメなんでしょ? 隠れる時間五分って結構きつくない?」
どうせやるのなら高級食材が欲しい。しかしこういう時に限って他の男子も鬼の女子も本気で隠れ、そして探すのだろう。と、なるとかなりガチで隠れなければならない。
しかしほんと何処に隠れるべきか……
「まず団体で隠れるのかバラバラになる方が良いのか……」
「この場合どう考えてもバラバラの方がいいだろ。しかもさっきのルールには隠れ場所の変更についての指摘がなかったからな。個人の方が隠れる場所を選ばないだろ」
なるほど。こういう時はクソ鉄は頭が回りやがる。
ということは……
「ここで散会だな。制限時間ギリギリまで咲都も宇多くんも死ぬなよ」
「おう。お前ら、死んでも生き残れよ」
「うん。二人とも頑張ろうね」
ーーで時は過ぎに過ぎ体感時間では二時間以上経過しただろうか。
この体感時間二時間の間、近くで誰かの足音、遠くでは見つかった者の悲痛な断末魔が響いたりしていた。そんな中、俺は未だに見つかっていなかった。
鉄矢と宇多くんが何処に隠れたのかはわからない。まだ生存しているのか、もうすでに生き絶えてしまっているのかはわからない。
え? オレが何処に隠れているかって? それは……
男 子 便 所!
の大の方だ。
しかも入っていないように見せかけるためあえて他の部屋と同じ様にドアを開けて入り口からの死角に身を潜めていた。
我ながら天才だと思った。いやマジで。
俺らを探している鬼は全員女子。先生ももれなく女子。勝ち確だろこれ。
心を無にして己の存在を限りなく薄く、自然に近づける。
俺はトイレの壁、俺はトイレの壁……そう自分に言い聞かせる。
さあ、俺を見つけられる天才……天才を超える天才よ現れてみよ!
ーーあれからさらに三十分ほど経過しただろうか。
あれからも近くを通る足音は聞こえる。残りも少なくなってきているのだろうか。探し回る足音にも焦りが混じっている。
遠くで響く断末魔にも一層凄みが増している気がする。が、断末魔は確実に少なくなっていた。
体感時間では残り三十分……ってそうだ携帯持ってたんだ。携帯で時間見りゃ良かったんだ。アホか俺。
携帯の画面には十一時四十五分と映っている。
通知を見ると鉄矢から見つかったという戦死報告が。何やってんだあのクソボケ! 時間は十一時二十分か。
しかし宇多くんからの報告は何もなかった。が、晴香からの着信がものすごい数来ていた。
さては晴香のやつ着信音で俺を見つけようとしてるな。良かったマナーモードにしといて。
で、五分たち時間は十一時五十分。あと二十五分か。てか体感時間は大体当たっていたな。俺すげぇ。
刻々と時間はゆっくりではあるが確実に過ぎて行く。
残り時間は後十分に近づいて来た。このままいけば最後まで生き残れるんじゃないか?
もし最後まで生き残れたならば俺ヒーロー的なポジションに立てるんじゃね? そしたら同じ班の女子三人からも……ムフフ
「ムフフ……」
あっ、ヤベっいつもの癖で声が出てしまった。しかも妄想から出た変な声だ幸い誰にも聞かれてない事が唯一の救い……
「みぃ〜つけたぁぁぁ!!!」
「うわぁ!!!!!!」
我、戦死したり。
見つけたのは勿論この人
「何処に隠れてるのよ咲都! こんなの反則も良いところじゃない!」
晴香さんです。
「いやルールに便所無しなんてなかったじゃん。危険な場所でもないしさ……てかなんでわかったの?」
「たまたま通りがかったらあんたの妄想笑いが微かに聞こえたのよ。で、まさかと思って覗いてみたら……ビンゴよビンゴ!」
マジかよ! 聞こえてたのかあの微かな笑い声が……さては晴香のやつ、足音を殺してやがったな。
「こんなこと言うのもなんだけどさ、隠れてた場所内緒にしといてくれよ。みんなに変な目で見られるの嫌だし」
「何それ。じゃあ最初から隠れなきゃいいじゃない……いいわ、今は黙っておいてあげる。でも私とって何か不利な事を咲都がした時、分かってるわよね?」
「了解しました晴香大明神様!」
うわぁ〜、ガチでおっかねぇ。
こんな事なら他の場所にしておけば良かったとまたしても遅い後悔をする事になった。
見つけたのが晴香で助かったものの……後の事を考えられないこの性格、どうにかしなくては。
ーー晴香に連れられ俺が広間に着いた、と同時にすでに見つかっていた男子と審判の教師から拍手喝さいが送られた。
「おぉ! やっと見つかった人が出て来たな!」
「すげぇなあいつ、何処に隠れてたんだろ」
などなど色々な声が聞こえた。何処に隠れてたかは絶対に言えませんけどね。ええ。
一番最初に声をかけて来たのは勿論鉄矢。
「咲都すげぇな! マジで何処に隠れてたんだよ!」
「……まぁそのうち教えてやるよ、そのうち」
「ん? なんでそんな含みある言い方なのか気になるけど……てかそれより宇多くんもまだ見つかって無いんだぜ! 俺もそんな早く見つかった訳じゃないしさ、俺らの班優勝だろこれ!」
マジか! 確かになんのこの場にもいないし携帯になにも連絡が無い。勝ち確キタコレ! 多分。
どうやら見つかっていないのは宇多くん含め後三人との事。てことは俺はベスト4か。ギリ三位以内に入れなかったのか……地味に悔しいな。
残ってる三人忍者とかになれるんじゃねと少し思ってしまう。
ーーそして時は過ぎ
「十二時十五分になりましたー。探している女子生徒、先生方、隠れている生徒は広間まで来て下さい。集計を始めたいと思います」
放送から数分後、宇多くんを含めた見つかっていなかった三人が広間に着き無事全員が揃った。
各三人が広間に現れた時にはそれはすごい拍手喝さいが送られた。
「すごいな宇多くん! 何処に隠れてたんだよ!」
「最後まで残るなんて忍者かよ〜。俺はベスト3にギリ入れなかったからな〜。何処に隠れてたのか教えてちょんまげ」
「え? ずっと木の上にいたんだよ。咲都くんもベスト4じゃんか! 鉄矢くんもそんなに早く見つかってないしさ、僕らの班優勝じゃない?」
「「はっ? 木の上?」」
「うん。木の上。登ってたんだ」
いや、宇多くん、マジもんの忍者かなにかかよ……。鉄矢もさすがに唖然としてやがる。
ーーで、結果発表も終わり俺らの班はぶっちぎりで優勝だった。
なんせ同率一位一人と四位のいる班だ。鉄矢も見つかるのが早くはなかった。
「ありがとう三人とも! これで私たちの班は高級食材確定だね!」
「そうよ! ほんとありがとう!」
「みんなほんとすごいよ! 晩ご飯が楽しみ!」
「「「いや〜それほどでもぉ〜」」」
勿論、同じ班の女子からは褒めに褒められた。
俺と鉄矢はまだしも宇多くんまで少しデレていた。
で解散し各自、自分達の部屋でお昼ご飯の弁当を食べながら話題は先程終結した戦争、もとい隠れんぼの話でもちきりに。
「宇多くん最後まで残るとかほんとすげぇな。木の上なんて普通登らないよな」
「それな。咲都も四位だろ? 俺ら一班なんて速攻で三人とも見つかってたのに……お前ら二班は一位か」
「マジ裏山」
ほほーん、これは気分が良いな。もっと褒めろ褒めろ!
「で、鉄矢は何処に隠れてたんだよ」
「あぁ、暗い部屋のカーテンの裏に隠れてたんだよ。それがさ、いきなり晴香から着信が来てさその音で近くにいたヤツに見つけられたわけ。あいつやり手だわ」
「それ俺もされたけどマナーモードにしてたからセーフだったわ。てかカーテンの裏であの時間まで凌いだのかよ。やるな」
「宇多くんと同率一位のヤツらの隠れ場所も気になるよな……で咲都、お前何処に隠れてたんだ?」
言えねー、特に鉄矢の前では絶対に言えねー。
「ま、まぁ……当たったら正解って言ってやるよ……」
当てられる訳無いと思うけどな〜
「頑なに黙ってるって事はお前……まさか女子便所とかに隠れてたんじゃねぇだろうな⁉︎」
「違うわ!」
「確かに咲都ならありえる……」
「「うんうん」」
お前らまで……宇多くんだけが俺の味方だよ。まぁ当たらずとも遠からずなんだけどな。
「ほんとに違うか?」
「ガチで違う」
「……そうか。咲都ならとか思ったんだけどな」
さすがは鉄矢、鋭い。伊達に長年親友してる訳じゃないですわ。
昼ご飯も食べ終わり次の集合時間の二時まで駄弁る事に。
すると一班の班長、高木がとんでもない事を言い出した。
「そういや教員部屋の近くで盗み聞いたんやけどさ明日昼から晩まで自由時間とか書いてあったやん?」
「確かそうやったような」
「書いてあんねんて。それな、今日二時から晩飯作り始めるまで各クラスで勉強会してな明日の午前にテスト。で点数悪い奴は午後の自由時間が補習に変わるらしいで」
「「「「は?」」」」
またしても宇多くん以外の四人が同じ反応。続いて宇多くんも
「ほんとなの?」
「マジマジ。やし二時から晩飯作るまで死ぬ気で勉強した方がいいで」
はい、明日の自由時間終了のお知らせです!
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