二章 15 『戦争(笑)と戦争(がち)』
二章 15 『戦争(笑)と戦争(がち)』
山の家玄関前で点呼を終えた俺らのクラスは班で部屋ごとに荷物を置きに行く事になった。
男女別で一部屋六人だっけか。俺ら二班は他の班の男子と相部屋になるわけだ。
女子は恋バナとかすんのかなぁ……やべ、我ながらキモい妄想をしてしまった。
「山の家も三回目になると見慣れるしちょい飽きるよな。まさか高校に入って山の家来るなんて思ってなかったわ」
「それな。珍しく鉄矢の意見に同意出来るわ」
「お前な……でもほんと高校生にもなってここで何するんだろうな」
確かに何するのかは未だによく分からん。何故かパンフレットにも時間割りは書いてあるものの詳細が書いていなかった。美山ちゃんに聞いても着いてからのお楽しみ、だそうだ。この歳にもなってお楽しみって言われてもな……。
「あの……口挟むようで悪いんだけど実は僕この施設来るの初めてなんだよね〜」
「「マジで⁉︎」」
「実は結構楽しみだったりして……」
「……うん。結構楽しみ」
「「これは……ごめんなさい」」
「いや、謝らなくても……」
俺、鉄矢、宇多くんの班はスピカとかいうオシャレネームの部屋らしい。スピカって星かなんかの名前だったよな確か。
「おっ、ここだな。確か荷物置いたら九時に大広間に集合だったよな」
「おん。さっさと寝る場所決めて広間行っとくか。確か部屋は二段ベットだったような……」
ガチャッ
勢いよく部屋のドアを開け中に入る。
「おっ、当たり〜」
「他の班どこが来るのかな?」
そう、相部屋になる班はこれまた何故か秘密にされていた。
ちなみに我らが二班の班長は俺様。
まあ他の班が来る前に荷物置いておくか。確か手前の下段二つは荷物置き場だったよな。
「俺ら二班は右側に荷物置いとくか……ん?」
ガチャッ
オレたちが入った時と同じく勢いよくドアが開かれる。
「おっ、咲都と鉄矢に宇多くんじゃん。てことは二班と相部屋か。こりゃ暇にはならんな」
「お、マジやん」
「咲都と鉄矢いるんか確かに暇にはならないな。宇多くんもこれを機によろしく〜」
荷物を置こうとしていると一斑の三人が入ってきた。
一斑のこいつら三人は俺と鉄矢と中学が一緒だった三人だ。
てか今まで男友達が鉄矢と宇多くんしかいないみたいになってたけど普通にいるからね?
「「あ、お前らの班か」」
「一斑のみんなよろしく」
「「「宇多くんよろしく」」」
俺と鉄矢によろしくは?
てな訳で一斑と相部屋に。
で荷物を置いて始まることと言えば決まっている。もちのろん寝る場所の確保だ。
二段ベットは四つある。しかし部屋前方の下段二つは荷物置きになっている。つまり上段四つ、下段二つという割り方に強制でなる。ここで始まるのはそう……戦争!!
「さぁ、どうやって決めるよ……」
「俺は上で」
「勝手なこと言うなよ。まず決め方をだな……」
いやいや、しかし二段ベットは上以外あり得ん!
「いや、僕何処でもいいけど……」
「いや、慈悲は無用だよ宇多くん。ここは王道のジャンケンでどうだ?」
「「「「乗った!」」」」
鉄矢の提案を宇多くん以外の四人が食い気味に飲み込む。
しかしジャンケンと言ってもトーナメント方式でいくか全員で一気にするか実に悩ましい……。
「あの……ちょっと楽しみたいし全員で一気にやらない? 人数いる時は大体トーナメント方式だからさ……駄目かな?」
「いやいや……宇多くん、その提案」
「「「「「乗った!!」」」」」
てことで寝る場所を決めるのに戦争……もとい全員ジャンケンで決める事になった。
「あ〜見えた。これ来たわ。チョキやな」
「アホか咲都。こういうのはこの手の間の穴を見てやな……」
「決めた〜俺パー出すわ」
「……みんな必死だね」
あたり前だろ宇多くん! 上段をとるのに命を賭けているのが少なくともここに五人……心理戦が展開されるのは必然。
十秒ほど部屋が静まり返る。まるであの空間に入ったかの様に……そしてっ!
「「「「「「最初はグー! ジャンケンポン!」」」」」」
最初の一回は一瞬にして勝負がついた。
「……うわ、宇多くん一人勝ちですやん」
「あ、ほんとだ」
ここでまさかのダークホース宇多くんが一人勝ち。
でも何処でもいいって言ってたし……優しい宇多くんなら多分下段のどっちかを……
「じゃ手前右の上段で」
あれ? 冗談かな? 今手前右の上段って聞こえたような……
「宇多くん実は上が良かったり……」
「どうせ勝ったなら上段を貰うよ」
ヌワニィ!! クスクスとうすら笑みを浮かべた宇多くんがそこにはいた。
ここにいる宇多くん以外の五人が思っただろう……こいつ、出来る! と。
でなんだかんだありみんなの配置は決まった。俺は右奥の上段。無事に上段を獲得する事に成功した。ちなみに鉄矢は俺の真下。ザマァ。
「クッソ、上段にも行けなかったし下段は下段でも咲都の下ってのが気にくわねぇな。ちょい高木、同じ下段だろ? 場所変わってくれよ」
「嫌やな。その配置の方がおもろいし」
「くっ、あ〜クソ!」
「俺の真下のクソ鉄〜ぷーくすくすぅ」
「クソムカつくし!」
先にも言ったように俺は鉄矢の真上だ。これだけで煽れるのがなんか楽しい。
さて、各自の寝る場所も決まった事だし早めに大広間に……
「ってヤベ! もう八時五十八分か! 場所決めに必死になりすぎて時間気にしてなかった! 急ぐぞお前ら〜」
戦争に夢中になりすぎて大広間に着くのがかなりギリギリになってしまった。
「虹夜くん、副委員なんだから次からはもう少し余裕持って来てね」
「すいません委員長。返す言葉もありません」
俺ら六人が大広間に行った時にはすでに全員が集合していた。しかしギリギリ間に合いはした。セーフセーフ。
そういやこの後の昼ご飯までの三時間半はレクリエーションとか書いてあったな。ほんとこの歳になってレクリエーションとかなにするんだか……。
「では、今からするレクリエーションの説明をします。え〜レクリエーションの名前は『ドキッ! 晩御飯のカレーの具材争奪戦』です」
は?
「ルールはですね隠れんぼにちょっとアレンジを加えたものになります。隠れるのは男子と男性教師五人のみ。鬼は女子と数人の先生になります。見つかるまでの三人の時間合計が多い多い班が好きな具材を四つ選べます。と、いっても下位の班でも具材は普通のスーパーで購入したものです」
おう……
「しかし上位数班には奮発した高級食材を手にする権利があります。いい食材を手にしたい班の女子は他の班の男子を必死に見つけろ。男子は死んでも見つかるな、という単純なルールです」
単純も何も……
「ちなみに範囲は外のここからここまで。室内も可です。危険な場所と立ち入りの場所は禁止。女子の部屋、女性教師の部屋も禁止。それ以外の場所なら何処でも大丈夫です。本日はここの施設は貸切なので」
マジかよ……てかさ
「ハイ!」
「ん? 二組の虹夜くん、何かな?」
「このルール先生が参加する理由がよくわらからないんですけど……」
「あぁ、それはですね……先生も高級食材を手にする権利があるからですね」
は? ……は? フザケンヌァァァ!!!
「ハイ!」
「また虹夜くんか。なにかな?」
「ドキッ! 部分は何処にかかってるんですか? それっぽい部分が今のルールでは見当たらないんですけど……」
俺と同じ思いなのだろう。周りの男子ほとんどが頷いている。そして晴香は案の定、睨んできてやがる。
ドキッてのは勿論少しはエロい事に掛かっているのだろうな?
「それっぽい部分……あっ、見つかった時のビックリした交換音ドキッ! にかかっています」
俺とその言葉に頷いた周りの男子のズッコケる心の音が盛大に聞こえた。
「じゃあ今九時十分なので十五分までに男子は隠れて下さい。終了時間は十二時十五分までの三時間です。終了時間は放送しますので。それではよーい、スタート!」
うおぉ!! いきなりのスタートかよ!
座っていた男子全員が一斉に散り散りに広間を離れていく。
てかこれはさ、晩御飯の食材を賭けた……
「戦争やんけぇぇぇ!!!」
ーーこうして新たな戦争が学年主任の先生の一声で幕を開けた!
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