一章 2 『妄想、夢そしてーー』

 一章 2 『妄想、夢そしてーー』




 っと、そういや自己紹介がまだでしたね。ごめんなさい。

 オレの名前は虹夜咲都。性は虹夜、名は咲都。

 京都(けいと)市にある狭間高校のなりたてホヤホヤの一年で歳は十六。帰宅部のエース(自称)にしてバイトを健気〜に頑張っている男の子である。


 好きな事は非現実的な妄想。俗に言うとんでも現象や異世界など、様々な妄想をするのが大好きだ。ゲームに漫画や小説、アニメに触発されてハマった。

 欲しいものは平和な、平凡な日常。え? 矛盾?  いやいやあんさん……何をおっしゃいますやら。

 非現実的な事は妄想だから楽しめる、キャッキャウフフが出来るのだ。あんな事やこんな事が現実に起こってみろ。命がいくつあっても足り無いのは明白。オレみたいな一般ピーポーは確実に、即ゲームオーバーに陥る。ゲームですぐ最初に殺さてしまうモブAとかがいいところだろう。

 女の子に関する妄想、もちろんエロいやつなら現実に起こってくれてもいいような気もするがやはり、妄想だからこそ楽しめるのもある。

 ……オレが童貞だからビビってるとかじゃなくてね。いやマジで。


 家族構成は父、母、オレ、妹の四人家族。

 ここで妹がいない人は思う事だろう。妹いいな〜欲しいな〜と。実際そんないいものでもない。

 歳が離れているなら仲がいい事も多いだろう。もう少し大人になれば仲良くなるかもしれない。だがおあいにく、歳が近いしなんせ異性だ。喧嘩ばかりしてきたし、もちろん趣味も合わない。

 歳上のお姉ちゃんが欲しい! とどれほど思い願ったことか。叶わない儚い夢だと分かっていても願わずにはいられなかった。

 近所には小さい頃から、遊んだりしてくれている実の姉的存在、瞳姉がいるにはいるが瞳姉には決定的な弱点がある。まぁ弱点と言うか何というか……瞳姉はアレだ。女性が大好きな百合お姉さんでもある。

 神様は何と残酷な事を……ハァ。まぁ見てる分には最高の眼福だがな。


 自己紹介はここまでにしておこう。他の事は後々分かるだろうという事でよろしくお願いします。

 改めて自己紹介遅れてごめんなさい。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 ーーそしてオレは自分の教室の前にたどり着いた。

 走りすぎて乱れた息を数秒使い教室の前で整え扉を開ける。

 勢いよく開け、その力のまま扉が開く。

 教室ではそこらで教科書を開いて皆が勉強している。まあ中には当たり前のごとく喋って勉強なんてそっちのけ、のやつもいるが。


「おっ、やっと来たのかよ。もう来ないんじゃねーかと思ってた。勉強のし過ぎで寝坊ですかい?」


 教室に着くやいなや、余計なお世話な事をニヤニヤしながら言って来るアホが一人。

 にやけづらで話しかけてくるコイツは幼稚園からの幼馴染、鋼鉄矢。

 幼稚園から小学校、中学、高校となんと十二年間も一緒にいる腐れ縁野郎だ。しかも趣味や嗜好まであっているまさに親友と言える仲……多分。


「まあそんなとこかな。はぁ。走り過ぎて疲れたわ……昨日アニメ見過ぎて目が痛ぇ」


「何がそんなとこだよ。最後に勉強してないってバレバレの事言ってんじゃねーよ」


 おっとしまった。また余計な事を口走ってしまったようだ。


「少しは勉強したんだろうな」


「……オレはこう見えて色々忙しいんだよ。お勉強してる暇なんて昨日は無かったわけ」


「お前……高校からは勉強する! なんて言ってたのに一回目のテストにしてこの有様かよ。まあお前が勉強するなんて思ってなかったけどさぁ」


 なら言うなよ。

 てか寝坊したのは仕方がなかった。

 急いで走った甲斐があり、何とか二時間目のテストには間に合った。

 今日の科目、一時間目の理科はもう終わってしまった。二時間目社会……社会か。捨て科目だなこれは。三時間目国語! も捨て科目だな。漢字の書く方が全くもって覚えらない。

 あぁ、今日は捨て科目だらけだな。この中で唯一出来そうな理科はすっ飛ばしてしまったし……。寝るか。もしくは妄想の世界に浸るが吉かな。


 鉄矢とたわいもない話をしていると、教室前方の扉がふいに開く。


「おーい二時間目のテスト始まるぞー。席につけー」


 先生が教室に入ってきて一気にテストが始まる空気に変わる。まあそれなりに頑張るか。


「てか咲都、お前ある程度は点数取らないとまた中学の時みたいに晴香にどやされるんじゃねーの?」


 そういやそれもそうだ。

 というか朝にもボイスメッセージで登場した晴香、なる人物は隣に住んでいる幼馴染で鉄矢と同じく、十二年間同じ学校に通ってきた。

 まあ隣に住んでいるから鉄矢よりも長い付き合いではあるが。

 そして名前から分かるかもしれないが女だ。

 これがまたなかなか可愛い。

 でもこれまた妹などと同じく、アニメやラノベでよくある幼馴染の彼女、とかではない。仲のいい幼馴染止まりの関係というかなんというか、そんな感じだ。

 ……ああいう展開が本当にあればいいのに。


「おーい早く席につけー。……おっ、虹夜やっときたか。テスト初回から遅刻とはいい度胸だな。二時間目からは気張ってテスト受けろよ」


「へ〜い。頑張りま〜す」


 適当に返事を返し席に着く。

 まあ確かに初回のテストから一時間落としたのは痛い。その分、あと二時間おるテストを頑張ってやらんでもない。なんて上から目線でテストに対して思いを立てる。


「はいじゃあ用紙回してー。裏向けたまま回せよー。表向けたらカンニング扱いだかんなー」


 皆が席に着きテスト用紙が配られ一気に教室が静かになる。


 キーンコーンカーンコーン……


「では始め!」


 二時間目のテストが始まり数分、オレは思考は案の定固まっていた。

 社会……わからなさすぎる!

 普段の授業もろくに聞かず、オレの時間つぶしの標的になった落書きにまみれの歴史の教科書が頭に浮かぶ。

 なんてったって歴史の教科書に載っている偉人達の顔はなぜか、落書きのいい的になってしまう。かなり筆がのる。のってしまう。


 一応なんとか分かるところは書いているが……。中学の時は授業を適当に聞いていてもある程度解けたのにぃ!

 取り敢えず全問書きはした。あっているかどうかは別として……。


 ふと残り時間の確認ついでに時計を見る。針は九時四十ハ分を指している。二十二分も余ってしまった。

 寝るには少し短いかな……。こういう時は妄想に耽るに限りますよ!


 ーーそして時刻は十時十分。

 妄想にふけているとすぐに時間は過ぎていく。


 何てタイミングでチャイムが鳴るんだまったく! あと……あとちょっとで魔物から助けた綺麗なお姉さんとキャッキャウフフな展開だったのに!


「はーい、そこまで〜。ペン置いて用紙前に回せー。まだ立つなよー。軽く確認するから」


 と、いうことでテストは早く終わり、妄想に耽て終わった。

 書くことには書けたし、まあ点数はそれなりだろう……多分ね。


「はいお疲れ様〜。じゃ休憩十分挟んで三時間目の国語で今日は最後だからまあ頑張れよー」


 そう、今日のテストは三時間で終わり。昼からは何と帰れるのだ。ビバテスト! 早く帰れるなんて素晴らしすぎる!

 しかも明日は二時間でテスト終了。明日にある数学は得意中の得意、それこそ勉強しなくても大体解けてしまう。よく分からない英語は置いといて。


「咲都、どうだったよ? 社会分かったか?」


 そんなこと聞かなくても分かってる癖に、わざわざオレの席まで来て聞いてきやがる鉄矢。半笑いなのがさらにムカつく。


「それなりかな〜」


「な〜にがそれなりかな〜だ……。二十分ちょいでテスト終わって寝てるやつがそれなりに解けるか」


「分かってるなら聞くなよ! てか寝てねーよ。妄想してただけだし!」


「いやそこツッコむとこじゃねーよ! ……ってかお前ほんと妄想好きだよなー。 そこそこにしとけよ」


 鉄矢や晴香に身近な奴ら、友達なんかにはオレの妄想癖はある程度知られている。いいのか悪いのかよくわからんが……まあよくはないか。


「そういや春香がお前が来たら携帯でもいいから連絡よこすよう言っといてとかなんとか言ってたぞ」


 そういや晴香にまだ何も言ってなかったっけか。一応連絡入れておくか。

 晴香とは学校は同じだが、クラスが違う。しかも教室が少し離れているので、この貴重な十分休憩にわざわざ会いに行くのはめんどくさい。

 ということで携帯でメッセージを送る。


「ピー、という音の後にメッセージをお入れ下さい」


 ……ピー


「あ……咲都ですよ。朝またしてしまって申し訳ない。無事、学校には着きました……うんこ」


 ピー


「なんちゅうメッセージだよ……まあお前らしいけどさまた晴香に怒られるぞ」


「一応連絡したんだしこれでいいんだよ。あいつにはこんな感じで送っても大丈夫だからな」


 これで文句を言われる筋合いは無くなったな。

 と、ふと時計を見るともう十分休憩が終わりかけている。もうそろそろ先生が入ってくるころか。


「今日はテスト終わったら空いてんのか?」


「いや、部活で集まって勉強会的なのがあるから空いてねーわ。すまんな」


「ならしゃーねーか。アニメでも見とこ」


「いや勉強しろよ」


 誰が勉強なんかするものか。てかテスト前にだけ勉強しても意味なんて無い、と思っている。こういう事は普段からの積み重ねが重要ってやつだ……知らんけど。


「おーい席につけー。今日最後のテスト始めるぞー」


 先生が入ってきて皆が席に着く。


「……はいそれじゃあ開始」


 そして今日最後の、三時間目のテストが始まった。それなりに頑張ってやるか。

 三時間目は国語かー。国語はどうにも苦手なんだよな。


 読みは大体分かるが書くほうがてんで駄目なオレは、またしても早く終わりテスト時間を五十分中、約三十分を残す結果となった。

 こんなに時間が余ったら軽く寝れる。先程の十分の差はでかい。

 机の上に腕を組み、そこに突っ伏す形で寝る体勢に入る。多分数分で夢の中にいることだろう。

 寝坊していつもより長く寝た感はあるが、夜中まで起きていたので眠たい。これならすぐに入眠できるだろう……。




 ーー突如として現れた漆黒。

 その世界は黒い風景から始まり、そして少しの光が、目の前の世界を構築していく。

 その光によって視覚が始まり、耳には何かの声のような音によって聴覚が宿り、残りの五感などが先の二つに続いて感覚を取り戻していく。


 景色はボンヤリとしているが、目の前には大男より更に一回り大きいような黒い影が佇み、なにかこの世の者ではないような、近寄りがたい異様な空気を放っている。

 斜め前にいるのはにいるのは春香だろうか……。なにか焦っているようなこちらからも普段の……、普通じゃない空気感が漂ってくる。


「しのぐもクソもねーんだよ雑魚が」


 目の前の黒い影が発したであろう低い脳に響くような声がした瞬間、ザクッという鈍く、なにか肉の様な物をえぐった音とともにそれは宙を舞い、そして地面に落ちる。

 それが何かよくわからなかったが何故か右腕に違和感を覚え、その違和感の真相を確かめようと腕を動かす。

 動かそうとするがその腕がまるで無いような感覚に陥る。

 おかしいと思い次は目視で確認し、その真実が目に映り瞬間、腕が無いという情報が脳を支配する。

 そして先ほど宙を舞い、地に落ちたのは自分の一部、オレの右腕だったという事が分かり、その情報が脳を掻き乱していく。

 無残にも二の腕の途中で途切れている箇所からは血が流れ、次は痛みが感情を支配していく。


「咲都!!!!!!」


 叫ぶ晴香の声が耳から脳へ響きーー




 キーンコーンカーンコーン……


「……うぇ⁉︎」


 ーーあっ、夢かよ!!

 いやいや、これはさすがに夢オチでよかった。

 チャイムの音で目が覚め、周りから聞こえる環境音で現実に引き戻された。それにしてもやけにリアルで、迫力のある夢だった。

 まさかと思い、恐る恐る確認した右腕はしっかりと体に続いて繋がっている。あたり前の事だがやけに安心している自分がいた。


 おかげで寝ている間に冷や汗をかいたようで額と腕が少し濡れている。なんて胸糞悪い夢を見てしまったんだオレは……。

 これは帰って勉強なんて言語道断! アニメを見て癒されるに限りますわほんとに。

 まあ最初から勉強するつもりなんて無いのはお決まりですけどね。


「よーし、今日は帰ってよし。明日の数学、英語の勉強ちゃんとしとけよー」


 時刻は十一時二十分過ぎ。こうして今日のテストは無事に終わり、皆が帰り仕度を始めだす。


「じゃあな咲都。勉強しとけよ」


「うるへ〜」


 軽く鉄矢との挨拶を交わして教室を出る。学校からの帰りはいつも晴香と一緒に帰っている。

 今日は開口一番に朝の文句が飛んでくるだろうなーなんて思いながら、待ち合わせ場所の校門に重い足を動かし向かう。


「咲都!」


「うおっ」


 いきなり後ろから声を掛けられビックリしてしまった。声の主は晴香だった。


「今日私先生にちょっと委員会の事で呼ばれてるから先帰ってていいわよ」


 なるへそね。

 晴香に送ったメッセージの最後に吹き込んだ、「うんこ」で怒られるのかと思った。

 それより晴香は学校の委員会に入っているらしい。らしいというのは今の今まで知らなかったから。


「はいよ〜。じゃ帰っとくわ」


 開口一番文句、なんて思ってたのが現実にならなくて一安心、とか思いながら足取りを軽くし学校を出る。

 帰り道は当たり前だが、行きの道をそのまま帰るだけだ。大通りの信号を渡り、細い道に入り寺に向かう。


 帰りは登りが多いので少しおっくうだ、なんて思いながら寺に続く階段を登る。

 今日は何のアニメを観ようかな……。昼飯は何を作って食おうか、とか今日の午後の予定を考えつつ、寺に入る門をくぐる。

 少し強めの風が吹き木々の枝を揺らし、青葉が舞い落ちる。




 ーー帰るときには入り口になる南門をくぐり、境内に足を踏み入れたとたん、周りの音が、景色が動いている自分の体とは違い、一瞬にして停止した。

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