第4話 私のクラスメート。
クラスメートたちのいる鍛練場に向かう最中、私はひかりとひかるのスキルについて訊いてみた。
「アタシとひかるはそれぞれ炎と氷の魔法を使えるって分かったんだ」
と、ひかりが言う。
「……夕月は、どうだった?」
と、ひかるが言う。
「私、ですか? どうやら影を操るスキルみたいです」
「へえ、よかったら後で見せてくれよ」
「うまくできるか分からないですけど、ひかりとひかるの魔法も見せてくださいね」
私のスキルはこの世界でうまく発動するか分からないから、冗談抜きにけっこう心配だったりする。
「わたしのこと忘れてない? 三人とも」
桜ちゃんがむくれた様子で私たちに文句を言う。
「忘れてないですよ。後で桜ちゃんのスキルも見せてください」
「うん!」
「もう穂波もすっかり元気だな。この世界に来たばっかりの時はピーピー泣いてたのにさ」
「もう! それは昔の話だよ。今は魔王退治のために頑張ろうって決めたもん!」
あ……。忘れていた。私がこの現実を普通に受け止めたからうっかり失念していたけれど、桜ちゃんたちは帰りたいかもしれないのに。
「桜ちゃんたちは……、元の世界に帰りたいとか、思わないんですか」
「もちろん思ってるよ」
「じゃあ……」
「それでも、帰るためには魔王を倒さないといけないし。それに、帰れるとしても、わたしにはこの世界を見捨てることなんてできないよ」
「同じくだ」
「……同じく……。だけど、もし帰れないとしたら……、ボクたちで帰る方法を探す……」
「みんな、優しいんですね。……それに、この世界で戦うという覚悟も決まってるんですね……。他のクラスメートたちもみんな、そう思っているんですか」
この三人はそうでも、他の子が魔王なんてどうでも良いから帰りたいと言うなら、私は……。
「みんなはもう、覚悟決めてるんだ。日暮以外のクラスのみんなで話し合ったんだぜ。それで、魔王を倒してこの世界を救う。んで、元の世界に帰るって満場一致で結論が出た。日暮も覚悟、決めな」
そっか。そうだったんだ。じゃあ、私の心配は杞憂だったな。
「はい。もう、決まりました。私は、みんなと一緒に魔王を倒します」
みんながそれでいいのなら、私はみんなの手伝いをする。それだけだ。みんなはやっぱり、どうしようもなく優しくてお人よしだ。だけど、それが良い。だから私は、みんなに肩入れするのだから。みんなのこの結論を聞くことができて、安堵する私がいる。
「もうすぐ着くよ、夕月ちゃん」
「はい」
鍛練場は明るく、みんなは剣を振ったり魔法を撃ったりしていた。けっこう圧巻。まさか生きてる内にこんな光景を見ることがあろうとは。
私が着いたことに気づいて、クラスメートたちが周りを取り囲む。
「日暮、目が覚めたんだな」
「大丈夫?」
「元気そうだね」
「良かった」
クラスメートたちは口々に心配の言葉をかけてくれる。
「はい! 私、もう大丈夫です! 皆さんにはご心配をおかけしました」
みんな、なんて優しいんだろう。本当に、最高のクラスメートだ。単純だけど、心配してもらえたことが、すごく嬉しい。
「ひかり、ひかる。私のスキル、見たいって言いましたよね?」
「おう! 見せてくれるのか」
「……見たい」
まあ、スキル……チカラを使ってもきっと平気だろう。というか目覚めた時点でもう、私の体調は戻っているだろう。
「それでは、私のスキルをお目にかけます」
パンッと手を打ち鳴らして、チカラを発動した。みんなの影をこちらにたぐり寄せて、掴む。影がいきなり形を取ったことで周りから悲鳴があがった。影の形を変えていく。例えば動物、植物、幾何学模様。様々なものを影で描いて、みんなに見せる。
昔から十八番だった影の操作の、平和的な使い方。
「こんなもんでしょうか」
呟いて影をみんなの元に戻す。
「すっごーい! すごいよ夕月ちゃん! まさかこんなことができるなんて!」
「え、いや、それほどでも」
「ホンットすごいぜ日暮」
「……すごい」
拍手と賛辞が巻き起こる。調子乗って、ちょっとやり過ぎたかも……。みんなが私を取り囲んでもみくちゃにする。
そして、私のそばにあの天野君がやってきた。
「どうやったんだ? すごいスキルだな」
「天野君……。私のスキルは、影を操れるものなんです」
よくよく考えたら、スキルのことを今日知ったはずの人間がこんな使いこなせるわけ、ない……。さすがにこれはごまかしが効かない。
「えっと……、その……、これは……」
「すごいな! こんなすごいスキルの使い手がいたら、魔王退治も楽になるな! な、日暮さん!」
「え、あ、えっと、はい!」
これで……、よかったのかな? おかしくは思われてない? 大丈夫だよね? みんな、雰囲気に圧倒されちゃってるだけなのかな?
私の心配とは裏腹に、みんな温かい目で拍手を送ってくれている。私は……。
「ありがとうございました! 私はもう、本当に大丈夫です!」
私の事を心配してくれて、友好的に接してくれて、受け入れてくれる人たちがここにいる。
このクラスでよかった。私は、このクラスメートたちのためなら、なんでもできる。
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