第3話 ステータスは隠蔽するもの。

「では、初めての魔法としようか」

 モース王は言う。あっという間に私の能力を確認する流れになってしまった。見られたら困ることが出てくるかもしれないのに、まだなんの心構えも準備もできてない。

「え、ちょっと待ってください」

「夕月ちゃんなら大丈夫だよ! ステータス、見られると思うよ!」

 いや、魔法が使えるかどうかを心配してるんじゃないんだよ。桜ちゃん。

「自分の能力を確認する魔法を教えよう。『ステータスオープン』と唱えるのだ。自分の能力が目の前に表示されるはずだ。まあ、慣れたら詠唱無しでも発動できるのだが」

 私のステータスがが人に見えないなら全く問題ないんだけど……。

「あの、その能力というのは他人にも見えるんですか?」

「何もしなければ見えないが、本人の意志によって可視化する事もできるぞ」

 良かった。見えないなら大丈夫か。じゃあ早速やってみよう。

「ステータスオープン!」

 目の前に字の書かれた透明なプレートが広がる。


ヒグレ・ユツキ

レベル   ∞(1)

種族    吸血鬼(封印)

ジョブ   女王

サブジョブ 影の管理者

状態    弱体化

スキル 【眷族召喚】【自己再生(弱)】【影支配】


 はいアウト! これは見せたらダメなやつだ。スキルが少ないのは封印中だからかな、とか現実逃避ができるくらいには、他人には見せられないステータスだよ。吸血鬼とか女王とか、こんなん見せたら討伐されかねない。

 こういうときは改ざんするしかないよね。ステータスは隠蔽するものだ。

「えっと……、桜ちゃん。桜ちゃんはどんな感じのステータスだったんですか?」

 桜ちゃんが教えてくれたらそれに基づいてステータスを改造しよう。

「わたしはね~、こんな感じだったよ。ステータスオープン」

 私の目の前に桜ちゃんのプレートが広がる。素直に教えてくれて良かった。


ホナミ・サクラ

レベル 2

種族  人間

ジョブ 癒やし手

状態  通常

スキル 【回復魔法】【付与魔法】


「全然攻撃はできないんだけどね」

「いや、すごいと思います」

 回復魔法に付与魔法って、他人をサポートするのに特化してると思う。サブジョブはないのね。スキルの数は二つか……。

「スキルの数って人によって違うんですか?」

「わたしは二つだけど、三つとか四つとか持ってる子もいるよ。増える事もあるらしいし」

「レベルって何でしょう?」

「その人の大体のつよさを表すらしいよ。わたしはちょっと鍛錬したからレベル2だけど、夕月ちゃんはレベル1だよね」

 いや、∞って一体。あ、でもカッコが付いてるから、そっちが今のレベルなのね。封印中でよかった。じゃあ後は適当にいじって……。

「夕月ちゃん、ステータス、どうだった? 見せてくれる?」

「いいですけど、どうやったら見せられるんですか?」

「わたしたちにも見えるようになーれって、願えばいいんだよ」

 とりあえず見えるようにと思いを込めてみたけれど、どうだろうか。

「うーん……。見えるようになりましたか?」

「うん! ちゃんと見えるよ!」


ヒグレ・ユツキ

レベル   1

種族    人間

ジョブ   影使い

状態    通常

スキル 【召喚】【自己再生(弱)】【影支配】


「おおっ、スキルが三つもある! すごいよ夕月ちゃん!」

 良かった。普通に見えるようだ。とりあえず見かけだけ変えてみた。変え方? やろうと思ったらできた。

「見えているなら良かったです」

「ヒグレ・ユツキ。そなたも稀有な力の持ち主のようだ。魔王を倒すため、勇者たちはこの城で鍛練をしているのだが、そなたも今日から参加するか?」

「意識は戻りましたが、まだ今日は休んでいたいです。すみません」

 今日から参加っていうのはさすがにねえ。

「いや、良いのだ。そなたもまだ戸惑っている事であろう。ゆっくりと休め」

「ありがとうございます」

 どうやらうまくステータスを変えられたみたいだ。ごまかしが効いて助かった。バレたらどうしようかと思ったよ。


 食堂を出て、桜ちゃんが、私を元いた部屋まで送ってくれるらしいので、後をついて行くと。

「あれ? ひかりとひかるだ! どうしたの?」

「日暮が目覚めたって聞いてな」

「……見に来た」

 浅木あさきひかりとひかるの双子の兄弟が、私の部屋の前に陣取っていたのだった。ちなみに、男口調のざっくばらんな方が姉のひかりで、無口な方が弟のひかるだ。二人ともショートカットでそっくりな顔のせいで、不思議と性別が逆転してみえる。

「二人とも、鍛練はいいの?」

 桜ちゃんが二人に尋ねる。そういえば、みんなは鍛錬の最中なんだっけ。

「先生に日暮の様子を見に行きたいっつったら許可もらえたぜ」

「またサボってる訳じゃないならいいんだけどね」

 ……サボってたことがあったのかな。

「……夕月、元気……?」

「どこもなんともないな?」

「おかげさまで、もうすっかり大丈夫です。ただ、今日一日は休ませてもらおうと思っています」

 二人とも、私の事を心配してわざわざ来てくれたようだ。本当に私は友人に恵まれている。

「なんともなくて良かったぜ、ホント。いや、みんな心配してんだぜ。ちょっと、みんなの前に顔出してけよ」

 ひかるも無言で頷いている。色々と確認したいこともあったんだけど、仕方ない。みんなが待ってるって言うのなら、私は行くしかないな。

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