第2話 王様のお話。

「王様! 夕月ちゃんが、目を覚ましました!」

 これまた豪勢な食堂に入った桜ちゃんの第一声がそれである。王様への態度としてそれはいいのか? 食事中に乱入するとか見てるこっちの胃が痛くなる。というかクラスメートたちはどこだろう。王様とその従者しかいないから、もう食事は終わったのかな。

「そうか。意識が戻ったなら良かった。ヒグレ・ユツキよ、面をあげよ」

 初老で長い髭を生やした王様はけっこう寛容だった。取りあえず大名行列を前にしたときのように土下座してみたのだが。

「ありがたきお言葉」

「そう畏まるでない。儂は召喚された者達とは対等でありたいと思っている。それより、体は大丈夫か」

 対等……ねえ。本当かどうか疑わしいけど、ここは普通に対応するのが無難かな。

「おかげさまで特に違和感はありません」

「ふむ。ホナミ・サクラから、なぜそなたたちが召喚されたかは聞いたか」

「ここが異世界であること。この世界にいる魔王を倒すために、勇者が必要で、そのために私たちは召喚されたこと。勇者が天野君であることは聞いています」

「大まかに言えばそうだ。その説明の補完をしよう」

「ありがとうございます」

 私と桜ちゃんを椅子に座らせ、王様は食事を終えた。さて、詳しい情報がようやく分かる。

「この世界はそなたたちが元いた世界とは違う世界というのは理解しておるな。そなたたちの世界はどうやら、魔法が全くないらしいが、この世界は違う。この世界は、魔法が発展しているのだ。魔法は、そなたにとっては未知のものだろう。だが、召喚された者たちは皆、強い魔法の力を有しておった。中でも勇者に選ばれたものには、特に強い力が宿っておった」

 魔法、私には全然未知じゃないんだけどね。というかなんで魔法が全くない所に住んでたやつに強い魔法が使えると思ったんだろう。

「そなたたちに強い魔法の力がある理由は、儂らにも分からない。しかし、時空を司る魔法使いと、探知に優れた魔法使いに、異世界にいる強い魔法の力を持つ者という条件で召喚させた所、そなたたちが喚ばれたという訳だ」

 それ、私の召喚にみんなが巻き込まれたんじゃ……。勇者がいたのも偶然かも。そうだったら私、みんなにすごい迷惑かけちゃってるじゃん。どうしたもんかな……。いや、でもそれだと、なんでクラスメートたちに魔法の力があるのか説明がつかない。一体なぜみんなが魔法を使えるのか。なんでみんなも召喚されたのか。

「ヒグレ・ユツキ。聞いているのか」

「はっ。すみません。未だに現実感がなくて、考え事をしてしまいました」

 うっかり考え事に没頭してしまった。しっかりしないと。考えるのは後だ。

「では話に戻るが……。この世界の状況について伝えよう。そなたたちを喚んだこの場所は、ダイアモンド王国という名の国だ。そして儂が、この王国の王、モース・ダイアモンドである。自己紹介が遅れてすまなかった」

 ダイアモンドって、あのダイアモンドかな。もしかして、宝石がたくさん採れたりするんだろうか。

「そして、魔王がいるのがレッドジャスパー王国という名の国であった所だ。レッドジャスパー王国は元々、我が国と戦争状態にあった。しかしかの国は、我が国に勝とうと禁忌とされていた『悪魔召喚』に手を出しおった。そして、悪魔の制御に失敗し、喚んだ悪魔に国を乗っ取られ、魔王が生まれたということだ」

 モース王は私に、なにか質問はあるかと尋ねた。

「はい。レッドジャスパー王国にいた王や人々はどうなりましたか」

「彼等は皆、悪魔の餌にされた。自業自得だが、国民は少し哀れだな。彼等の命を喰らって力を得た悪魔は、魔王『ブラッドストーン』と名乗り、仲間の悪魔を大量に喚びだした。そしてこの世界の人間を全て喰らって、最強になろうとしておる。強い者たちは魔王に立ち向かおうとしたが、皆喰われた。レッドジャスパーの隣に位置するこの国に矛先が向くのは時間の問題だ」

 そこでモース王は私の目を見つめ、真剣な表情で口を開いた。

「ヒグレ・ユツキ。そなたの力をもって、この国を、この世界を救ってくれぬか。もう、そなたらしか頼れる者がおらんのだ。このまま魔王を野放しにすれば、我が国だけでなくこの世界まで滅んでしまう。どうか、お願いだ」

 私には、この国やらこの世界やらを救う義務もないしメリットもない。じゃあどうするか。もし、みんなが私の召喚に巻き込まれたとするなら、答えはひとつ。

 桜ちゃんは、私の方を向いてうなずいた。だったら、仕方ないか。

「私は……。他の召喚されたクラスメートたちの意志に従います。クラスメートたちが魔王を倒すことを望むなら、私のできる範囲で、お手伝いしましょう」

「おお、ありがとう、ヒグレ・ユツキ」

 ただ、私は、クラスメートたちの最良になるように動く。この国がクラスメートたちを捨て駒として扱うなら、それ相応の報いは受けさせるつもりでいる。だってこの世界がどうなろうと、私としては知ったこっちゃないもの。

「それより、私たちが元の世界に帰る手段はあるのですか?」

 これ大事。無いなら無いで私の力でどうにかするけれど。

「実は、今は無いのだ。もう我らに使える魔力は残ってなくてな。魔王を倒したときに放出されるであろう大量の魔力。それを利用すれば、そなたらを召喚した魔法陣をまた動かせるのだが。本当にすまない」

「じゃあ、どっちにしろ魔王を倒すしかないって事ですね。でも、普通の中学生だった私たちに、そんな力があるとは思えないのですが」

「それが、そなた以外のクラスメートは皆、凄まじい力を持っている事は分かっているのだ。では、確認してみるか。そなたの力を」


 魔王を倒さなくても、元の世界に戻すくらいの魔力なら私にあると思う。だけど、クラスメートたちが魔王を倒してこの世界を救うと決めたのなら、協力しよう。というかそれより、私の持つ力の確認って嫌な予感がする。ちょっと小細工する準備がいるかな。

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