吸血鬼の女王ですが、異世界に召喚されました。

黒神 心

第1話 ここ、どこですか?

 見えるのは広い天井、シャンデリア。宮殿のような建物の中の、ベッドの上に私はいた。意識が朦朧として、起き上がることもできずに寝ていると、誰かの声が聞こえた。

夕月ゆつきちゃん、大丈夫?」

 その声に、私の意識がハッキリとする。

 そうだ。私は夕月。日暮ひぐれ夕月ゆつきだ。

「大丈夫です。さくらちゃん。それより、ここ、どこですか?」

 どうやら心配してくれたらしく、私の顔を覗き込んでいた穂波ほなみさくらちゃんに返事をした。さすがに周りが完全に見た事のない場所だと、少し焦る。

「良かったぁ、夕月ちゃんが目を覚まして。まず、落ち着いて。ここはね、もうわたしたちは説明してもらったんだけど」

 桜ちゃんはそこで言葉を切って、言った。

「異世界だよ」

「異世界? はい?」

 見知らぬ場所だけど、異世界とは思ってなかった。

「信じられないよねぇ。わたしも証拠を見せられるまで信じなかったもん。ここ、地球じゃないんだよ。その証拠になんと、この世界には、魔法があるんだよ」

「魔法!?」

 いや、大げさに驚いたけどまあ、異世界の存在も、魔法の存在も、。でも、実際に異世界に来たことはなかったから、その事に驚いているわけだ。しかも、今私がどういう状況におかれているか分からない。一旦落ち着こう。

「ん、さっき桜ちゃん、『わたしたち』って言いました?」

「そうだよ。三年二組の三十人、全員集合してるんだよ。この世界に全員召喚されたの」

 ようやく私も状況が分かってきた。つまり、私たち三年二組は、いわゆる異世界召喚に巻き込まれてしまったって事だ……と思う。

「全員……。他のクラスメート達は、どこですか?」

「えっと、この時間だから……、食堂でごはん食べてるんじゃないかな?」

「ちょっと待って、桜ちゃん。みんなかなりこの世界に馴染んでるっぽいですけど、私、一体どれくらいここで寝てたんですか?」

「この世界の時間で三日」

「嘘でしょう!?」

「嘘じゃないよ。ほんっとうに心配したんだからね! わたしたちを召喚した魔法使いの人は、この世界に体が馴染んでないだけだから大丈夫だって言ってた。だけど、やっぱり心配だったんだよ。だからわたし、ちょくちょく夕月ちゃんの部屋に来て様子見てたんだ。そしたらさっき、夕月ちゃんの様子が変わって……」

 そんなに寝てたらさすがに心配かけるよね。悪いことしちゃった。とはいっても寝たくて寝てたわけじゃないんだけど。

「桜ちゃん、ありがとう。心配かけちゃって、ごめんなさい。それで……、ここが私の部屋ってどういうことですか?」

「あ、まだ言ってなかったっけ。ここ、王宮なの。それでわたしたちには、一人一つずつ部屋がもらえたんだよ」

「それはまたずいぶんと好待遇ですね」

「だってわたしたち、『勇者御一行』だもん」

 やっぱり勇者とかそういう系の異世界召喚だったか……。面倒くさいことに巻き込まれる気がする。というかもう巻き込まれてるよね。

「勇者って、一体……?」

「勇者はね、この世界を救う人なんだって。今この世界では、悪い魔王が人類を滅ぼそうとしてて、それを倒せるのが勇者なんだって」

「魔王に勇者って、なんかゲームみたいですね」

「確かにそうかも。それでね、勇者になったのはね、天野あまのくんだよ」

 しかも天野君が勇者って。予想通り過ぎる。天野あまの竜也たつや君は、誰が見ても整った顔をしていて、勉強ができてスポーツ万能で、正義感が強くて女子にモテてファンクラブもあるという、天は二物を与えずを打ち砕く男子だ。初めて会ったときは、完璧超人すぎてこんな人間がいてたまるかと思った。

「で、私は何をしたらいいんでしょう」

 いつまでもこのままでいるわけにもいかない。なにか行動は起こさないと。

「んとね、たぶん王様に会った方が良いと思う。夕月ちゃんが元気になったこと、報告しないと」

「そうですね……。どうやったら拝謁できるんですか?」

「今、王様食事中だから、そこに行こう。わたしが案内するよ」

 なんかちょっと心配だけど、桜ちゃんについて行くのがたぶん一番いいよね。レッツゴー食堂。

 ベッドの上から降りて、ふらふら歩き始める。色々ツッコミたい事もあるけど、どうなることやら……。

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