第9話

「青葉警察署の宇野と申しますが、菊池海翔さまでお間違えないでしょうか」

ん? え? ええぇええぇえぇえぇぇぇぇええぇぇぇぇぇ!

警察!? 俺名指し!?

何か悪い事したっけ俺!

でも、俺はここで黙っていると怪しまれる可能性があるため、取り敢えず返事をすることにした。

「そうです」

「ご家族のことでお話があるので、少し出てきてもらう事は可能ですか?」

「はい、今向かいます」

俺は胸を撫で下ろした。

俺じゃないんだ。

でも、家族のことだからって安心は出来ない。

俺は警戒しつつ、玄関ドアを開ける。

すると、ドラマとかでよくある格好をした警官が折りたたみ式の手帳をパッと開き、

「青葉警察署の宇野義和です」

「はい」

「いきなり本題に入ることになりますが―――――」

そこまで言うと警官は目を伏せこう続けた。

「―――海翔様のご両親が熱海のホテルのフロント前でバスに撥ねられ、し、死亡しました」

「は? えーと、死亡?」

「そうです」

俺は何も考えられなかった。

何を言われたのかすら理解が出来なかった。

そのまま俺は警官のことを無視して三分ほど無言だった。

そこで出てきた言葉は、

「青葉警察署に電話して確認してもいいですか?」

だった。

だって、もう高校生とは言え、誘拐の可能性もあるしね。

「どうぞ」

俺はポケットからスマホを取り出し、ブラウザで「青葉警察署」と検索する。

トップに出てきたサイトを開き、電話番号をタップして、青葉警察署に電話をかける。

『はい、青葉警察署です』

「今、自宅に宇野和義さんと言う警察官が来ているのですが、そちらの警察署に宇野さんは務めていらっしゃいますか」

『はい。あなたは菊池さんであっていますか?』

この返し方。間違いない。

「はい、そうです」

『宇野から話は聞きましたか?』

「はい」

そう言うなり俺は電話を切った。無断で。

「わかりました」

「葬儀については親戚がいないとのことなので、警察署が行わせていただきます。日取りについては後日ご連絡を入れますので、その時にお願いします」

「わ、わかりました」

警察官はこう付け加える。

「ご冥福をお祈りいたします」

「今日はありがとうございました」

警察官は俺が家に入ってドアが閉まるまで深々と頭を下げ続けた。

それからの事はあまり覚えていない。

俺は無言で階段を上がる。

部屋のドアを開ける。

「海翔、遅かったじゃん。何や――――海翔! 大丈夫!?」

俺の白くなった顔を見たのだろう。由香里が心配そうに聞いてくる。

「親が、死んだ」

あまりにそのまますぎる言葉だった。

誰も何も話さない。

俺は一分位してから、

「熱海で、死んだ。だから今日は申し訳ないけど、帰ってもらっていいかな?」

由香里を除いてみんな立ち上がって無言で部屋を出て、そして階段を降り、家を出ていった。その方が俺にはありがたかった。

由香里が口を開ける。

「海翔、大丈夫?」

俺は無言で首を横に振る。

「今日は取り敢えず私の家に来なよ。色々できると思うから」

俺は首を縦に振る。

「ありがとう」

俺はショックの泣くことも出来ず、無言、そして無表情のまま俺はリュックサックにパソコンとスマホだけを突っ込んで由香里について行った。

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