第10話
「海翔、大丈夫?」
俺は無言で首を横に振る。
「今日は取り敢えず私の家に来なよ。色々してあげるから」
俺は首を縦に振る。
「ありがとう」
俺はショックの泣くことも出来ず、無言、そして無表情のまま俺はリュックサックにパソコンとスマホだけを突っ込んで由香里について行った。
由香里の家に行くのは始めてだけど、緊張は全くしなかった。
気づくと、俺は由香里の家の前、性格にはマンションの部屋の前にいた。
由香里が「ここ」、と言ったので、俺はその部屋のドアに向かった。
そして由香里はポケットから家の鍵を取り出し、それでドアを開ける。
「いいよ」
「…………おじゃまします」
俺は少し間が開いてから返事をした。
そして玄関に上がる。
すると、こちらの方へ駆けてくる音が。
「あ、海翔くん。どしたの?」
由香里の母だ。
「あ、ママ。ちょっとあとで詳しく話すから、一旦上がってもらってもいい?」
「わかった」
由香里の母は奥の方へ戻っていった。
俺と由香里は靴を脱ぎ、リビングを通って由香里の部屋へと向かった。
実は俺、これが初めての由香里の部屋だ。
今まで幼馴染だったとは言え、お互いの家に行くことは殆どなかった。
「ここ、私の部屋」
「………………」
由香里がドアを開け先に部屋に入る。
俺もそれに続いた。
「適当に座ってて」
「わかった」
由香里は事情を説明するのか部屋を出ていった。
何となく由香里の部屋を見渡す。
ニトリで売ってそうな学習机の上にはアナログ式の小型時計やタブレット、スマホの充電ケーブルなどが整頓されておいてあった。
その向かいにあるベッドには、抱き枕がひとつ、あとは本が数冊置いてあった。
そこまで見たところで由香里が帰ってきた。
「うん、説明してきたよ」
「そうか」
俺のこの態度は実にあっけらかんとしている物だと思われるかもしれない。
でも、想像してほしい。友達と遊んでいる時にいきなり警察官が来て、「親が死にましたよ」と言われたときの気分を。
何も考えられる訳がないじゃないか。
由香里は部屋に戻ってくる時に持ってきたジュースを俺に渡した。
「ありがとう」
しばらく無言が続く。
少したった時に俺は、
「これからどうしたらいいかな、俺」
と言う。
「今考えないほうがいいんじゃない? 今は何も考えないほうがいいと思うよ」
一理ある。
「そうだ、な」
「うん」
そしてまた無言が続く。
俺は目を閉じて最後の親の言葉を思い出す。
−−「雑誌の懸賞で熱海のペアチケット当たったから旅行行ってくるねー★」
なんていなくなり方をしてくれたんだ、俺の両親は。
「よし!」
俺は大きな声を出す。
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