第8話
「え、俺は―――」
ガチャ。
「海翔くんまたせちゃってごめんなさい!」
三島が来た。
そして宮本の方を見た彼女はこう言う。
「あれ、よっちゃん?」
――三島さんも宮本軍団の一人になったのか――――!
宮本は中学校の時に女子を大勢連れて帰っていて、それを見た(俺を含む)一般男子共はそれを「宮本軍団」と読んでいた。
「ああ、おとは。これ、忘れ物」
――宮本! お前下の名前で読んだよな今!
なんとも社会は不公平なものである。同じ人間なのに一日だけでこんなに差が出来てしまう世の中なのだ。俺は由香里を下の名前を呼ぶのにも三ヶ月近くかかったと言うのにこいつはそれを半日で成し遂げてしまったのだ。
これは運命のいたずらなのでしょうか。
ああ、なんてこの社会は不思議に出来上がったものなのでしょう。
それを考えるにはまず一九〇〇年台に戻らなくてはいけません。過去の日本では結婚相手は親が決めると言う、愛し合う男女にとっては理不尽な暗黙の了解がありました。この事によって――――――――――――じゃなくて!
いかんいかん、現実逃避をしていたようだ。
「えーと、二人はあったのは今日が始めて?」
すると、二人は目を合わせてから、
「うん」
と声を揃えていった。
ああ、何という運命のいたずらでしょう!
このようなおかしな社会ができたきっかけを紐解くには話が一九〇〇年台に―――――――――じゃなくて!
何回繰り返すんだよ!
「そ、そうなんだ」
「えーと、宮本どうする? これから俺の家で遊ぶんだけど」
「あ、そうなんだ。どうしようかな」
そしてスマホを開いて宮本は現在時刻を確認する。
その姿を三島さんが見つめる。
駄目だこりゃ。
「大丈夫そう。行くわ」
「じゃ、私も行く」
「そうなんだ。じゃあ、こっち来て」
なんか違うんだよなぁ。
俺、勇気出して誘ったのに、宮本が誘ったみたいじゃん。これじゃあ。
俺は宮本の偉大さに圧倒されながら俺の家に二人を誘導させる。
そして後ろを振り返り、「ここ」と言う。
わお。こうやってみるとお二人お似合いっすね。
宮本のほうが身長少し高め。そして、これは偶然だけど、服も似ている。
――二人、付き合っちゃえば。
と、俺は心の中で呟きつつ玄関のドアを開ける。
二人は靴を脱ぎ、きちんと揃え、俺の部屋に来た。
ドアを開けるとまず声をかけてきたのは由香里だった。
「海翔―、遅かったじゃん。何してた―――――わっ!」
そして続いて本田が、
「どうしたのゆ――――――え?」
「こっちが宮本でこちらが三島さん」
俺はどっちも手で指しながらそれぞれの名前を言った。
会ったばかりなのに「こっち」とは言えないからね。
「あぁ、よかった。海翔が女子一人だけを連れてくるとか有り得ないから少しびっくりしたわ」
いや、失礼だぞそれ。
まぁ、真実だけど。
気を取り直して俺はこう言う。
「よし! これで『王様ゲーム』できるな!」
「は、はぁ!? 菊池何言ってんの」
宮本が聞いてくる。
「あ、ごめん。声でかすぎた。えーっと、『王様ゲーム』をやろうと」
「それは聞こえたよ! なんで王様ゲームなんだって事!」
「宮本、やった事あんだろ」
「ねぇよ! そんないかつそうで如何わしそうなゲーム」
さらに言い争いはヒートアップする。
「お前は『王様ゲーム』にどんな偏見を持ってやがる!」
「あれだろ! 合コンとかで気に入った女性にいろんな事をさせるあのゲームだろ! 菊池、お前ってやつは……!」
「如何わしいニュアンスを含むな! だいたい俺の提案じゃねーし!」
「そんなゲームやろうとする奴なんてお前だけだ!」
「本田だよ! これ提案したの!」
「絶対に違うゲームにしろ!」
「ああ、わかったよ」
そこで由香里が口を挟む。
「あ、あは……じゃ、な、何やる?」
そこで本田が、
「ウノは?」
と言う。
「私、やった事ないんですよ」、と三島さん。
――なんとも、まぁ。たのしそうに。
「んじゃ、俺、飲み物持ってくるよ」
と、ワイワイやっている四人を背中に俺は部屋を出た。
俺、いない方がいいかもな、とか思いながら階段を軽やかなリズムで駆け下りる、と。
ピンポーン。
下に着地するとほぼ同時にチャイムが鳴る。
今は両親が旅行のため家にいないので俺が出なくてはならない。曰く、「雑誌の懸賞で熱海のペアチケット当たったから旅行行ってくるねー★」との事で。
俺はキッチンの壁に設置してあるインターホンの通話ボタンを押す。
俺の家はカメラ機能がないから音声通話のみになる。
「はい」
「青葉警察署の宇野と申しますが、菊池海翔さまでお間違えないでしょうか」
ん? え? ええぇええぇえぇえぇぇぇぇええぇぇぇぇぇ!
警察!? 俺名指し!?
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