第7話

俺はコンビニを出てから家に帰るために一度駅構内に入って、何となく電子掲示板を見て、駅を抜ける。

後ろから電車が到着する音を聞きながら俺は路地裏に入る。

――ここだよここ。ここにたまにチンピラいるんだよなぁ。

そう、これが俺がこの街を「治安が悪い」と言っている理由の一つだ。

ここまでコンビニとかはあるのにレコードショップは一つもないしな。

「どうしたもんかな」

俺は色々なことを考えながらそう小声で呟いた。

そろそろ家が見えてきた。

俺はスマホを取り出しツイッターを開く。

『今日は色々あって疲れたから少し遊ぶ』

とツイートし、再びスマホをポケットにしまう。

そして俺は家の入口に駆け足で向かい、ドアを開けた。

階段も駆け足で上り、自分の部屋の前に行き、ドアを開ける、と。

「………………………なにやってんだ?」

そこには俺のパソコンをいじってる本田と俺のベットに寝っ転がりスマホをいじってる由香里の姿があった。

「え、いや………なんでも」

本田は慌てた口調でそう言うやいなやパソコンを閉じた。

すると、由香里が適当極まりない口調で、

「海翔がパソコンで何やってるのか調べてたんだってー」

「ゆかりん!」

「え、だってー、そうでしょぉー?」

いや、ヨユーそうにしている由香里さんよ。

あなたにも聞きたいことがあるんだが。

「由香里は?」

すると由香里は口調を変えて、

「え?」

と聞き返してきた。

「由香里はなんで俺のベッドにいるんだ?」

「え、いや……疲れた、から?」

由香里が特徴的な話し方で返してきたので、俺もそれに習って、こう聞いた。

「そう、なのか? それならいい、かな?」

「いい、と思う」

「じゃ、本田は?」

「えーっと、ねー。えーと、あの、その」

と本田が慌ててるそばから由香里が

「検索履歴の検閲してたんだってー」

と言ってきた。

「へー、そうなんだ。なんで?」

「海翔が健全か調べるためでしょ? ね、雅美ちゃん?」

「なんだそりゃ」

俺はずっこけた。

「いやー、白ポストに入れるべき物を海翔が持ってないかなーって」

「んなもんある訳ねぇだろ」

え、白ポスト、しらない? これは説明しがたいものがあるから、詳しくはグーグル先生に聞いてみるといいと思うよ。でも、責任は取らないからね。

すると由香里が、

「じゃあ海翔は健全じゃないってことだ」

と言う。そして、調子が戻ってきた本田が、

「ホントだね」

と言いやがった。

「大体どうやって俺のパソコンのパスワード当てたんだ?」

「そんなもんあるの?」

「あるに決まってるだろ」

「え、電源ついてたよ」

――――あっ!

昨日の夜詩を書こうとしてからそのまま寝て、朝電源消さないで行ったんだっけ!?

昨日の夜、少しでも詩書いてたら見つかってたのか!

命拾いしたわ、俺。

「ま、まぁ、いいや」

「よかったー、本気で海翔が怒ったかと思った」

「今回だけは許してやるよ」

次から詩はUSBに保存しよう。うん、そうだ。そうしよう。

そして部屋の空気は一気に軽くなり、「さぁ、遊ぼう!」みたいな雰囲気になった。

「何する?」と、本田。

少ししてから由香里が(俺にとっての)爆弾発言をした。

「王様ゲームは?」

(俺にとっての)事態は深刻化した。

「あ、いいね! それ、いいじゃん!」

えーと。王様ゲームっていうのは、王様を一人決めて、そんでもって色々命令出せるゲームの事。合コンとかでよくやるらしいよ。

たまにとんでもない命令が出てくるらしい。これ、現実の話。

男同士でキスをさせる女性もいるらしい。これ、現実の話。

俺はやったこと無い。これ、現実の話。

――こいつら、こういうノリなんだ…………。

まぁ、二人が乗り気なら俺は、

「いいよ」

と言うしか無いだろう。

「やったぁ」

「じゃ、やるか!」

「王様誰にする?」

「わたし!」

でも、そこで俺は深刻な問題に気づいた。

「あのー」

「何? 海翔」

「王様ゲームって三人じゃ出来なくない?」

「「あ」」

しばしの沈黙があり、その空気を破ったのは俺のスマホだった。

ブーブー。

「おっと、ブルっときた。ちょっと待ってて」

と、俺は立ち上がり部屋を出てスマホを取り出し、電話に出ようとする、と。

「えぇ!」

ディスプレイには「おとは」の字が。

――三島さん電話かけてきたのかよ!

俺は電話に出るのに躊躇する。しかし、ここでグズグズしていても何も起こらない。

俺は緑色の受話器を取り上げたかのような絵をタップし、電話に出る。

「もしもし」

『三島です』

「あ、菊池です」

『あのー、ちょっと聞きたいことがありまして』

「なんですか?」

『私の隣の家に「菊池」って書いてある表札がある家があるんですけれど、これって、菊池海翔くんの家?』

え、ええ!

俺は急いで階段を降りて、家を出て隣の家の表札を見る。

そこには「三島」の字が。

「ああ、恐らくそうだと思います」

『あ、やっぱりそうなんですね!』

「らしいですね」

あ、これチャンスだろ!

ここで王様ゲーム誘っておけば―――!

しかも仲良くなれるし!

「あの―――」

『なんですか?』

「今俺の家に田村と本田が来てるんですけど、よかったらきませんか?」

「そうなんですか!? じゃあ、今から行くのでちょっとまっててください!」

と言うなり通話は切れた。

――いや、俺マジ神じゃね?

俺は自画自賛する。

――うわぁ、女子にこんなに馴れ馴れしく接する俺、マジ格好いいわ。

そう自分に惚れ惚れしていると後ろから誰か歩いてきた。

俺は自然に振り返る。

「ん、あれ? 宮本じゃん」

「あ、ああ、菊池くん?」

この男子は宮本博義って言って女子にモテまくりのくせに「好きな娘に告白するのは高校生まで待つ」とか言っている「宝の持ち腐れ」という言葉に相応しい、一般男子から見ると少し地位が上の人って感じかな。

ホントは高校一緒だったはずなんだけど、学校で見かけることがなかったから声をかけなかった(もっとも、女子に囲まれている宮本に声をかけるのは至難の業だけどね)。

「何やってんの」

俺がそう問うと宮本は、

「えーと、三島さんっていう女子に会いに来た」

「お前もかよ!」

「お前もってことは君まさか――――」

いや、そこまでためることじゃないだろ。

そして宮本はこう続けた。

「ナンパしに来たんだ!?」

「いや、ナンパするのはお前の方だろ! 中学生の時からいつもいつも女子とずっと話しててさぁー」

俺は一気にまくしたてる。

宮本っていつも女子と話してばっかりだけど、でも、性格はいいので男子にもモテる(いや、そういう意味じゃないぞ)。

まぁ、完璧な男なのだ。

中一の時に習った「少年の日の思い出」で言うなら「模範少年」って奴ね(僕は『車輪の下』の方が好きだけど)。

「そんなら宮本は何しに来たんだよ?」

「え、俺は―――」

宮本が口を開こうとしたその時−−−。

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