第6話
入学式に向かうために並ぼうとしている時。
「海翔ー!」
由香里が小走りでこちらへと向かってきた。
「おお、由香里。どした?」
「あの先生どう思う?」
「どうって……えーと」
「ヤバくない?」
「せんせーい! 由香里さんが」バンッ!「黙って!」
由香里が俺を殴りやがった。
「何すんだよ」
「すぐチクるのやめたら?」
「どうだっていいだろ、もう」
「よくないわよ、あー! 手がヒリヒリする」
いやいや、お前が自分で殴ったんじゃん。
すると、担任の名前不詳の男が口を開けた。
「お前たち─────」
俺たちはドキッとした。
怒られる奴じゃね?
でも、それに続けてこの男はニコッと笑い、
「朝から元気でいいな」
と言った。
あれ? 意外とノリのいい先生だな。
ただ元気なパリピ先生かと思っていたら、そうでもないようだ。
この先生だと一年厳しいような気もしたが、案外いけそう。
そんな事に少し期待を持ちながら並び終わった俺のクラスの生徒達はアリーナに向かった。
途中、大きめの窓から中庭が見えた。ここでは昼食をとるのも可能らしい。
そしてアリーナにつく。そして名前不詳の謎の男がドアを開ける。そして、それと同時にクラスメイトの喋り声が聞こえてくる。ずっと下を向いて歩いていた俺は何があったんだろうかと思い、顔をあげる────と。
「え? マジかよ」
そこにはコンサート会場をまるごと小さくしたかのような空間があった。壁は肌色のような色で、奥の方には高い所にデジタル時計が設置されていた。椅子は並べるとかじゃなくて、横から机を出せるような据え置きの奴。
とても貧乏な市が作った学校とは思えない。
そして先生を先頭にして、俺たちはアリーナに入っていく。
入ってみて分かったんだけど、このアリーナ、すごい音が反響しそうな壁してるんだよ。その時俺は決意した。
──俺絶対吹奏楽部入部決定!
こんなすごいアリーナの一番前で演奏できるとかいいな。
まぁ、そんな事を考えていると座るタイミングがやってきた。
そして先生の合図で椅子に腰を下ろす。ふかふかしてるかなと思ったけど、案外普通だった。
そして次のクラスも続々と入ってくる。
その時、俺は一つ疑問を感じた。
──なんで体育館じゃないんだ?
そう、普通こういうしっかりした式をやるからには体育館でやるはずだ。
まぁ、貧乏な市が立てた学校の中にある素晴らしいアリーナがみられたからよしとしよう。
そして親も含めて全員が入ってきたところで名前不詳の謎の男がある先生のところに行って何かを話してきた。
その後一分位でアリーナのスピーカーから「間もなく式は開始します。もうしばらくお待ちください」と聞こえてきた。
入学式は二時間ちょっとで終わった。
生徒の名前を校長先生が一人ずつ読み上げて、その後校長先生の話と地域の人の話、その後に電報を読み上げてそれで終わった。
え、電報知らない? うん、俺も知らない。何なんだろうね、あれ。
入学式が終わってから最後に来たクラスから順々に戻っていった。僕が中学生の頃からよく思っているんだけど、なんで最初に来たクラスを先に返さないんだろうね。かわいそう。
そんな事はどうでもいいとして、今俺と由香里と本田は学校から帰るところだ。
ホントは本田とは帰る予定はなかったんだけど、なんかすごい重い空気醸し出しながら歩いていたから、誘ったんだ。
「本田、落ち込むなって」
「無理に決まってるでしょ」
朝に叫んで、それをクラスの人に見られたのが相当ショックだったらしい。
由香里は俺を責めるかのような目で見てくる。
――いや、元々お前がやったから俺もやったんだからね?
でもそんなことを言えるような雰囲気ではなかった。
「ほら、海翔のせいで雅美ちゃん怒ちゃった」
俺はまた謝る。
「ごめん」
「許さない」
何回このやり取りやってんだよ俺は! 大体一つのことでそんな怒るなって!
仕方ないから俺は定番のこの科白を言う。
「どうしたら許してくれる?」
「今日私も海翔の家に行く」
なんで知ってるんだよ――――――――――――あ!
こいつ、朝からずっと俺達のこと尾行してたんだっけ!?
俺は舌打ちをしてから
「わーったよ」
と言った。
「じゃ、俺コンビニで適当に飲み物買ってから行くから先行ってて」
「「はーい」」
そして俺はコンビニの前で立ち止まる。
この地域にはとにかくコンビニが多い。
学校に行く途中にある駅にはよく分からないコンビニが一つ、その駅の西口と東口にセブンイレブンが一つずつ。西口から少し歩くとパチンコ店の近くにまたセブンイレブンが一つ。
これを「都会」と言う人もいるようだが、俺はこれを「治安が悪い」と読んでいる。
俺は駅の西口にあるセブンに入る。ここは、俺が家で調べられないようなネット検索をしたり、アニメのニコ生を見たりするのに使う所だ。品揃えも良くて助かっている。
俺はコンビニに入るといつもはトイレに直行(ネット使うって意味だぞ)するが、今日は飲み物コーナーに直行。
そこでなっちゃんのオレンジ味のを三つ取ってレジに向かう。
昼下がりのこの時間、レジは混んでいて一分程待っていた。
その間に俺はスマホでツイッターをチェックした。
最近よくリプとかでやり取りするアカウントだ。
――うわぁ。この人、また面白いツイートしてるじゃん。
すかさずいいねをしておく。
そんな事をしてる内に、
「次のお客様どうぞー」
と順番が来た。
俺はレジになっちゃん三つと千円札を出す。
すると、店員さんはバーコードを読みながら、
「レジ袋にお入れしますか?」
と聞いてきた。
「いえ、大丈夫です」
「では、シールをお貼りしますね」
と店員さんは言って、オレンジ色のシールを貼った。
「ポイントカードはお持ちですか」
「あ、今日は無いです」
「後付出来ないのでご了承ください」
俺はなっちゃんのペットボトルとお釣りを受け取ってリュックサックに入れる。
そしてコンビニを出る。
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