第5話

「チャラチャン♪」

俺のスマホが通知音を立てた。

三島さんかな?

そう思いながらスマホをポケットから取り出してみる。そこには驚きの文面があった。

『今すぐこの文章を知り合いに転送しなさい』

――人生初チェーンメールきたー!

喜びと不安と驚きと様々な感情が入り混じって、俺の心は混乱していた。人間がこのような感情を抱くときと言うものは、多くの場合が初めての体験をするときである。それはある時によってはいい事にもなるし、またある時には悪い事にもなり得る。また、この感情は人によって様々で、その人が何を感じるかは......じゃなくて!

何俺は一人授業やってんだ!

何を回せって? そう思いながらロックを解除してみる。

そこで、それはラインの通知であることに気付く。

送信元には「Yukari」の字が。……って。

イタズラかよ!

でもそれには続きがあった。

『びっくりした?』

『今、回覧板みたいに学年グループラインが回ってるみたい』

『他の人にも回しといて』

あ、そうなのね。

俺は結構がっかりして、でも一応『りょ』と返して、それでもってグループラインに入る。

転送するのは本田でいいかなと思い、俺は本田に『今すぐこのメールを友人五人に転送しなければ、あなたの身内に不幸が起こるでしょう』とラインする。あいつ、朝から由香里を騙したから、それくらいの仕返しはしてもいいだろう。

そして、三十秒後くらい。

「えぇえええぇえええぇ────────!」

隣のクラスから女の子の叫び(シャウトとも言う)が学年中に響き渡った。

──やったぜ!

俺はガッツポーズを心の中でして、本田にさらにラインをする。

『びっくりした?』

『今、回覧板みたいに学年グループラインが回ってるみたい』

『他の人にも回しといて』

するとすぐに返信があった。

『何やってんのもう!』

まぁ、そりゃそうなるよな。俺もそう思ったもん。ちょっとだけ。

『朝の仕返しね』

『朝からむっちゃ大声出してんじゃん』

俺は立て続けに本田にラインを送った。

ちなみに、それから既読がつくことは一切なかった。ブロックされたのかな?

ふと、俺は時計を見る。十時三分前。

もうすぐ先生くるかな、と俺は思い、なんとなく机の位置を直した。

ちょうど位置を直し終わったその時。

ガラッ!

教室のドアが大きな音を立てて開いた。

ドンドンドンドン!

大きな足音が響いた。

えーと、その、つまり。

俺達のこれから一年間の担任になる先生が来たのだ。

出身校とかで固まっていた生徒は素早く自分の席に戻る。

バンッ!

担任が教卓に出席簿と見られる深緑色をしたファイルを置く。

そして口を大きく開け、

「みんな! おはよう!」

とシャウトした(この場合『叫ぶ』とは言わない)。

ちなみに生徒たちはと言うと

「おっはよーございまーす!」

と元気よく返事をした(もちろん俺はしてない)。

「元気があるようで何より」

――いや、あなたが元気のある返事を強要したようなもんすよ。

この場にいる全生徒がそう思った。

「えー、さて! 出欠、取ります! 大きな声で返事をしてください!」

はーい、と所々で返事が上がる。

そして、まだ自己紹介をしてない俺達の担任になる男は出欠を取り始めた。

なーんかなー。

今までずっとまともな先生が担任だったから、見るからに(いや、声を聞くからに?)少しパリピみたいなこの人に耐えるのできるかな…。

でも、見た目的には小柄だし、顔も悪くないから、静かにしてたらモテると思うんだけどなぁ。クラブとかで本性(?)出さなければ、女性口説けんじゃないかな、この人。

そんなことを考えつつ、俺はクラスメイトとなる人の名前を聞いていた。別に仲良くなろうとか言うやつじゃないけどね。よく小説である『―――くん! 菊池海翔くん!』みたいな事が起こらないようにするためだけにまわりの音を聞いているのだ。

「菊池海翔くん!」

「はい」

少し控えめに言った。

「もっと元気だしていこう!」

「あ、はい」

「うむ」

「小林りかさん」

「はい」

「もっと元気だしていこう!」

「はい」

いやいや!

全員にこの仕打ちやってんのかよこいつは!

うわー。付き合いにくい教師だな。

新学期早々気が重い。

そんなこんなでホームルームが終わった。

そして入学式に向かうために並ぼうとしている時。

「海翔ー!」

由香里が小走りでこちらへと向かってきた。

「おお、由香里。どした?」

「あの先生どう思う?」

「どうって……えーと」

「ヤバくない?」

「せんせーい! 由香里さんが」バンッ!「黙って!」

由香里が俺を殴りやがった。

「何すんだよ」

「すぐチクるのやめたら?」

「どうだっていいだろ、もう」

「よくないわよ、あー! 手がヒリヒリする」

いやいや、お前が自分で殴ったんじゃん。

すると、担任の名前不詳の男が口を開けた。

「お前たち─────」

俺たちはドキッとした。

怒られる奴じゃね?

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