第4話

教室を眺めていると由香里が唐突に

「海翔、私ね、吹奏楽部入ろうかなって思ってるんだ」

と言った。

「吹奏楽部か」

以下妄想シーン。

「海翔くん、今日私の家に遊びにこない?」

「えー、海翔くんが来るなら私も行く」

「私今日塾だから行けないな……」

ここまで。

悪くないな。(いや、海翔クンみたいな妄想癖持ってる健全な男子に言っときますけど、吹奏楽部って女の子に囲まれませんからね? この小説読んで部活入ったのに全然女の子寄ってこないじゃないかって言われても責任とれませんよ? いや、たまに寄ってくる奴もいるけど by 元吹奏楽部の作者)

「ちょっと、海翔! 何妄想してるの」

「バレてるのかよ!」

「当たり前でしょ! そんなにやけた顔してたら一発で分かるわ」

「畜生!」

結構バカらしい掛け合いをしてると、由香里がこの掛け合いの更に上を行くバカ発言をした。

「どうせ部活でキスとかされるって考えてたんでしょ!」

「いや、そこまでは考えてない」

「ふぇ?」

ここ! ここの由香里の顔が見物だった!

「あれー? 由香里はそこまで考えてたのかなー?」

「うっさい、うっさい! 知らない!」

由香里がムキになるから、俺はちょっとにやっとして

「ふーん?」

と言った。

「海翔は! 海翔はどうするの?」

「決まらなかったら入る」

「それでよし」

そういえば、大事な事を忘れていた。

「そろそろ人くるんじゃないか?」

すると、由香里は教室の前の方にある奥行きが少しある時計を見て、

「ん? あ、そうだね」

なんでいちいちそんな事気にするのかって?

実は俺たち、中学校の入学式の日に冷やかされたんだ。

朝、今日と同じように二人でちょっと早く学校で話していたら、その後に来た男子たちに『うっわー、入学式の日からイキがってんじゃん』って言われて、(今考えたら普通にあることなんだけど)黒板に相合傘書かれて、ちょっと嫌な思いをしたんだよ。まぁ、後から考えたら然程の事でもないんだけど。

「じゃ、本でも読んでるか」

「そうだね」

そしてお互い前を向いて本を読む。

ちなみに、俺が読んでいるのは前買ったライトノベル。

むろん、恋愛系な。

こういう恋愛系のライトノベル読んでると自分に当てはめちゃう癖が俺にはある。

例えば、高校生にもなったのに彼女できなかったらどうしよう、とかかな。

まぁ、俺に彼女なんてできるわけがないからある意味安心できるんだけどね。

本を読みながらそんな事を考えてるうちにクラスの三分の一の人が既に来ていた。教室の端の方には出身校が同じ人のグループができ、入口付近では女の子が溜まっている。

──これが高校!

俺は妙に感心して、知り合いがいないか探す。

その時。

「おはようございます」

一人の女の子が声を掛けに俺の机の前まで来た────え? 女の子が俺の机の前に?

知り合いかな?

顔は整っていて、肩にかかるくらいの長さの髪を結んだ観じだ。吸い込まれるような笑顔が印象的。

──知らないな。

俺は慌てつつも辛うじて返事をする。

「あ、ああ、おはようございます?」

「あっ、はじめましてです」

「ですよね」

「はい、私三島音羽って言うんです」

「俺は菊池海翔です」

「海翔! いい名前ですね」

──よく言われるんです!

なんては返さずに、

「ありがとうございます」

とだけ返しておく。

「海翔くんは部活もう決まってるんですか?」

「ああ、えーと、今の所吹奏楽部にしようかな、って」

「奇遇ですね、私もです」

「そうなんだ」

「はい。あ、よかったらライン交換してもらえません?」

何という素晴らしいこの切り出し方! 俺も使ってみよう。

「はい」

そして俺はスマホを取り出し、ラインを起動させ、QRコードを表示させる。

「はい」

「えーと」

彼女はスマホをいじってQRコードを読み取る。

そして、俺に笑顔を向け、

「ありがとうございます」

と言った。

「全然」

俺も笑い返すと彼女は去って行った。

可愛い娘だったな。俺はそうは思ったもののそこまで気にもならず、読書に戻ろうとしたその時。

「チャラチャン♪」

俺のスマホが通知音を立てた。

三島さんかな?

そう思いながらスマホをポケットから取り出してみる。そこには驚きの文面があった。

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